49.妹皇女の残念発言!? 成長が止まらない【竜識眼】
そうして俺たちが到着した場所は、どう見ても“闘技場”だった……。
一応、訓練場で間違いないらしいのだが……。
まさかこんな広い施設が、
“宙に浮かんでいる”とは誰も思わないだろう。
≪正確には特殊な鉱石を加工して、核にした“魔道具”らしいけど……。
異世界って、本当にとんでもないところだよな……≫
俺が闘技場――いや、訓練場か――の中へ入り、
中央の広間へ向かって歩いていくと、
その出入り口に二人の男女の姿が見えた。
「おや、来たねユウト!」
「昨日は大変だったみたいじゃが、その様子だと問題なさそうじゃな!」
「あれ? なんでここにエリオスさんとヴェルミナさんが?」
二人ともエルシェリアとの件を知っている様子だ。
一瞬、何か別の厄介事でも起きたのかと身構えたが――
その心配は杞憂だった。
どうやら単純に、俺の訓練を見に来ただけらしい。
「ユウトの能力は、かなり異質だからね」
「この世界の者たちは、多かれ少なかれ魔力を持っておる。
しかしお主にはそれがない。
ゆえに、竜力に魔力を“混ぜて”使うことができんからな」
「その力の訓練ともなれば、何が起きるか予想できんからのう」と、
ヴェルミナさんはそう続けた。
どうやら俺が想像していた以上に、
“純粋な竜力”というものは危険みたいだ。
すると、シアが俺のそばへ近づき、
これから行う訓練について説明してくれる。
「だからね!
ユウトには“竜撃弾”を撃ってもらおうと思ってるの!」
「竜撃弾?」
突然出てきた魔法名のような言葉に、俺の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
すると、セリィが補足してくれた。
「それほど難しいものではありません。
竜力を球状にして打ち出す、
とてもシンプルな攻撃魔法です」
「まずはセリィにお手本を見せてもらうんだけど、
そのときに【竜識眼】で見ててほしいんだ!」
どうやらそれだけで、【模倣】スキルを持つ俺なら、
すぐに使えるようになるとのこと。
俺はシアの提案に頷き、
一度目を閉じて右目の【竜識眼】へ意識を集中させる。
≪何度もやってるけど、目の色がサファイアみたいに綺麗な青色になるんだよねぇ……≫
いつか中二病が再発しそうだなぁというちょっとした不安を感じながら目を開ける。
すると、視界の左端に、
見慣れない“何か”が映り込む。
気になって目を走らせると――
――見識録――
魔法の模倣申請を確認 → 準備完了
現在地:竜皇城/皇室訓練場
仮想実験:
・転移陣 → 解析中
・エルシェリアの行った移動方法 → 解析中
・防御力の強化 → 不足を確認 → 検証中
報告:
所持スキルと【見識】のリンクを完了
――。
≪……なんか、ログみたいなのが表示されてるんだけど……≫
さらに右上には、
この場所のマップらしきものまで表示されていて、
完全にゲームのプレイヤー画面のような状態になっていた。
≪自分のことなのに、相談事が勝手に増えてくのはなんで……?≫
ツッコミどころ満載な自分の魔眼を――
なんとか思考の隅に追いやることに成功した俺は、準備ができたことを伝える。
訓練場の中央にあるグラウンドへ移動すると、
ヴェルミナさんが20メートルほど先に、
成人男性ほどの大きさの氷柱を一本出現させた。
すると氷柱の前に進み出たセリィが、右手を標的へ向ける。
「それでは、行きます!」
その声と同時に、
暗い紅色の何か――“一般的な”竜力が
セリィの手元へ集まっていく。
やがてそれは、
野球ボールほどの大きさの球体となり――
「竜撃弾!」
打ち出された竜力の弾は、
一直線に氷柱へ向かい――
ドカァン!
という爆発音とともに、
標的は跡形もなく砕け散った。
「ふむ……あの質量でこの威力か」
「アハハハ!
いいところを見せたい気持ちは分かるけど、
もう少し実戦向きにしようね!」
「も、申し訳ありません……」
どうやら今の一撃は、
セリィが俺にいいところを見せるため、
本来よりも溜めの時間を長く取ったらしい。
本来は、手を向けた瞬間に速射するのが基本で、
そこまでの威力は出ないとのことだ。
≪分かりやすくて助かったけどね!≫
それはこの場にいる全員が理解しているらしく、
恥ずかしそうにしているセリィへ向けられる視線は、
どれも温かいものだった。
「ねえねえ、ユウト!
どうかな?」
シアが横から声をかけてくる。
俺は先ほどの光景を思い返すように目を閉じ――
――報告――
竜撃弾の模倣に成功しました。
続いて、竜撃弾を基にした魔法の作製に成功。
竜属性魔法として確立しました。
現在使用可能な魔法:8種
質問:詳細を表示しますか?
――。
≪……なんで?≫
どうやら【模倣】スキル――
正確には【見識】スキルの性能は、
俺の想像をはるかに超えているらしい。
一度見ただけの竜撃弾を模倣したと思ったら、
それを基に魔法を構築し、
使用可能にまでしてしまった。
≪……後で検証するとして、
今は目の前の訓練に集中しよう≫
少し顔を引きつらせながら、
シアに「たぶん、できると思う」と伝える。
すると、俺の少し疲れた様子に気づいたのか、
シアが心配そうに声をかけてきた。
「どうしたの?」
ヴェルミナさんたちも、
不安そうな視線を向けてくる。
「アハハ……すみません。
ちょっと予想外なことが起きまして。
異常とかではないのですが、後で相談させてください」
「ふむ……。ならばよいが……。
初めに言ったとおり、ユウトの力は想像がつかん。
何かあれば、すぐに相談するのじゃぞ?」
「ありがとうございます!」
そう答えると、
今度はシアが勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、訓練の続きをしよう!」
その明るい声に、
場の全員がシアへ注目する。
ヴェルミナさんたちが
呆れたような表情になる中、
再び氷柱の準備を――
「待って! お姉さま!」
魔法を発動させようとした
ヴェルミナさんを、シアが制止した。
「どうした?」
「ユウトの魔法だけど……
私が受けるのはダメかな?」
その場の空気が、一瞬で凍りついた。
≪何言ってるの、この子……?≫
たぶん、
全員が同じことを思ったはずだ。
シアは皇女であり、
俺の力は、まだ未知数なのだから。
だが、彼女は引き下がるつもりはないらしい。
「だって、ユウトの初めての魔法だよ!
間近で見たいし、受けてみたいって思うのは、
当然だと思うの!」
「……ごめん。
意味、分かんない」
どうやら、
“残念皇女”という最初の印象を
改める必要はなさそうだった。
周囲の反応が、それをはっきり物語っている。
「シンシア。
君は自分の立場と、
ユウトの力の不確定要素を
本当に理解しているのかな?」
エリオスさんが真剣な表情で問いかける。
だが、シアも表情を崩さない。
「大丈夫!
ちゃんと理解してるよ、お兄さま!」
「いや、分かって――」
「少し待て、エリオス」
「……姉さん?」
「シアよ、まずは考えを話せ。
お主はユウトのことになると、
感情が先走りすぎる」
「……ごめんなさい。
お姉さま、お兄さま」
ヴェルミナさんの言葉に、シアはしゅんと肩を落とす。
それを見て、エリオスさんも少し冷静さを取り戻した。
「理由があるんだね?」
「うん……。
多分、これは私にしかできないと思う!」
そう言って、シアは強い眼差しで説明を始めた。
彼女の主張をまとめると――
・竜力の出力を調整するなら、まず最大値の把握が必要
・竜属性は他属性すべてに特効があり、氷柱では比較対象として不十分
・誰かが実際に受ける方が、威力を正確に把握しやすい
「ユウトの力を正確に知るなら、
私が受けた方がいいと思うし……
それに、こんな貴重な瞬間、
見逃せないよ!」
最後の理由は正直よく分からないが、
それ以外には納得できた。
「姉さんは、どう思う?」
「……はぁ。
筋は通っておるのう。
補足を入れるならば、
妾たちでも測れはするじゃろう……」
「というと?」
歯切れの悪い返答に、
エリオスさんが問い返す。
「妾たちがユウトの力を測るなら、
安全を考えて、竜力で防御スキルを
全力で強化する必要があるじゃろうな」
「なるほど……
試験的な場で行うとなると、
確かに負担が大きいね」
「日もまだ高くない。
無駄に疲れるのは避けたいじゃろう?」
ヴェルミナさんの言葉に、
エリオスさんは苦笑した。
「それに、シアが危惧しているのは……
“強化した防御すら、貫通する可能性”じゃ」
その一言で、またもや空気が静まり返る。
≪ちょっと待って……。
そんなにヤバいの……?≫
隣のセリィも同じ疑問を抱いたらしく、
思わず声を上げた。
「待ってください!
いくらなんでも……」
「いや、可能性はあるよ。
セリィも知っているだろう?
竜力は“純度”で
効果が跳ね上がることを」
その後に、「あくまで可能性だけどね」
とエリオスさんが続けると、セリィは黙り込んだ。
「お姉さま……?お兄さま……?」
不安そうに答えを待つシアに、二人は同時に深く息を吐く。
「分かったよ、シア……」
「ただし条件がある。
“速射”で試すこと。
竜撃弾以外は認めん」
「ありがとう!
お姉さま、お兄さま!」
大はしゃぎするシアに、
二人は呆れつつも笑っていた。
「……シア様、羨ましいです」
隣のセリィが小さく呟いたが、
意味が分からなかったので、聞かなかったことにしよう。
≪俺のことなのに、
完全に蚊帳の外なんだよなぁ……≫
理由も分かるし、
助かっているのも事実だ。
それでも、自分のことなら、
少しは混ぜてほしいと思ってしまう。
……これって、贅沢なんだろうか。




