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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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46.接近注意――無垢な狂気、エルシェリア

※本話は一部残酷な描写を含みます。

どう見ても、中学校に上がったばかりにしか見えない少女と俺との間にセリィが立ちふさがる。


それを見た少女――エルシェリアと呼ばれた、セリィのお姉さんは警戒している妹の姿に小首をかしげていた。


「おやおやぁ~? なぜでしょうか? セリィちゃんが凄く警戒してますねぇ~」

「エルシェ姉さま……。なぜここに居るのですか?」


ここは来客用の部屋しかない別館だと聞いているため、用がある人物は限られてくるだろう。

着ている服からも使用人に見えない彼女がここに居る理由がわからない。


≪お姉さんってことはセリィと同じ双竜家ってことだし……。

 そんな上位の華族がわざわざ来るようなところじゃないはずだろう≫


セリィも同じように考えたのだろう。

普段のメイドとしての雰囲気はそこにはなく、護衛としていつでも動けるように姿勢をとっていた。


しかしエルシェリアはそんなこと気にしていないとでもいうようにクスッと笑う。


「まあまあ、困りましたぁ~……。まさか実の妹にここまで警戒されてしまうなんてぇ~……。

 お姉さん、泣いちゃいますよぉ~……」


今度は悲しいわぁ~という雰囲気を出してクスンクスン……と泣きまねまで始めた少女。

しかしセリィは一切の油断なく少女を見つめ、「質問に答えてください!」と威圧する。


だが、エルシェリアは口角を少し上げると、一歩前へ進みだそうとする。

それを見たセリィは、いつの間にか取り出したナイフを投げるように振りかぶり――


「「え?」」


俺とセリィの思考は停止してしまった。


なぜならその少女がセリィの後ろにいる俺の目の前に立ち、見上げていたのだから。


≪ちょっ!? 待て待て待て!!

 なんで、もう目の前にいるんだよ!?≫


さっきまで、少なくとも十メートルは離れていたはずだ。

しかも間には警戒度MAXのセリィがいたのにもかかわらず……。


それなのに、いつの間にか至近距離――

俺は驚きを隠せなかった。


セリィも同じだったらしく、

目を見開いたまま、固まっている。


「おやおやぁ~?

 この男性はどなたでしょうかぁ~?

 見ないお顔ですねぇ~」


そんな俺たちの反応など意に介さず、

彼女は間延びした口調のまま、のんびりと俺を観察してくる。


新雪のように青白く、癖のない髪を背中まで伸ばし、

アイスブルーの瞳でこちらを見上げるその姿は、

着物姿も相まって、どこか“海外版の大和撫子”のような印象を受けた。


≪さすが異世界……

 顔面偏差値、高すぎるだろ≫


そんな感想を抱けたのは、案外冷静な部分があったからなのか、驚きを通り越したからなのか……。

それとも、“殺気も存在感もない少女”だからなのか……。


エルシェリアが、唐突に俺の腕へと手を伸ばす――


パシッ!


「それ以上は!

 いくらエルシェ姉さまでも、看過できません!」


我に返ったセリィがそう叫び、少女の手首を掴んで止めていた。


――しかし。


ゴトン……。


何か重いものが床に落ちる音が、

セリィの足元から聞こえた。


視線を落とすと、

そこには凍りつき、変色した“誰かの腕”が転がっている。


彼女は慌ててエルシェリアを見ると、

少女はセリィに向かって、にこやかに微笑んでいるだけだった。


伸ばしていた腕は、そのままに。

だが――

少女の手首を掴んでいたはずの、

“セリィの腕”は、そこにない。


「おやおやぁ~。

 困ったちゃんですねぇ~。

 お姉さんの邪魔をしちゃ、いけませんよぉ~♪」


「――――――っ!!!!?」


静まり返っていた廊下に、セリィの悲鳴が響き渡る。


彼女は、自分の肘から先が消えた腕を押さえ、

その場にうずくまった。


傷口は凍りついているせいか、血は出ていない。

だが、押さえているもう片方の手まで、じわじわと凍り始めている。


それとは対照的に――

エルシェリアは、実に楽しそうな表情だ。


「あらあらぁ~。

 可愛い悲鳴ですねぇ~♪」


ようやく事態を理解した俺は、

少女に食ってかかろうとする。


――だが。


「いけません、ユウト様!」

「だけど……!」


怒りで頭が真っ白になりながら、

俺は目の前の“理解不能な存在”を睨みつける。


だがエルシェリアは、

不思議そうに俺を見上げるだけだった。


どうやらこの少女、

自分の欲求にとても忠実らしい。


気づけば、いつの間にか俺の腹部に手を置いていたのだ。


「ふ~む……

 凍りませんねぇ~。

 なぜでしょうかぁ~?」


「っ!?」


俺は後ずさりたい衝動を必死に抑え、

彼女を睨み返す。


「アンタ……

 自分の妹に、何してんだよ……?」


少女は一歩離れると、

俺に触れていた手をグーパーと動かし、

観察するように眺めてから、微笑んだ。


「可愛い妹をめでるのは、お姉さんの特権ですよぉ~?」

「……は?」


その言葉と行動が、まったく噛み合わない。


≪仕方ない……気が引けるけど……≫


俺は右目――【竜識眼】に意識を集中し、

彼女に鑑定をかけようとした。


――その瞬間。


「ダメですよぉ~。

 初対面の女性に対してぇ~、破廉恥な行為をしちゃぁ~!」


――警告――


マスターへの危害を察知。

対象の標的は【竜識眼】だと断定。


緊急行動を実施。

【先見】【見識】【思考超加速】【多重障壁】【天竜燐】へ

竜力を最速で供給。


また、顔面周囲の集中防御を展開します。


――。


その機械音声のような声が聞こえた、次の瞬間。


ガキンッ!!


俺の右目の前に、氷でできた短剣の切っ先が透明な何かに阻まれ止まっていた。


「……は?」


間の抜けた声が、思わず漏れる。


視線を短剣の持ち主に向けると、

そこには少し驚いたような表情のエルシェリアがいた。


どうやら彼女は、前触れもなく接近し、

氷の短剣で俺の目を刺そうとしたらしい。


しかし俺の【多重障壁】と【天竜燐】に阻まれ失敗したと悟るや否や、

今度は俺の腹部を足場にして跳び退く。


次の瞬間――

彼女がいた場所を、

数本の銀色の光が通り過ぎ、壁へと突き刺さった。


「はぁ……はぁ……

 エルシェ姉さま……」


息を切らしながら、

セリィが“両手”を血に染めた状態で、俺の前に立っていた。


「これはこれはぁ~。

 セリィちゃんも、無茶をしますねぇ~」


エルシェリアはそう言うと、

セリィの左腕に刺さったままのナイフを抜き――

そのまま、彼女を昏倒させた。


いや、正確には“昏倒させたのだと思う”が正しい。


なにせ、いつセリィからナイフを抜いたのかすら見えなかったのだから……。


≪どうなってるんだよ……

 【竜識眼】を全力で使ってるのに、

 全然、見えない……!≫


今の俺は、

【鑑定】以外の【竜識眼】関連スキルを

すべてフル稼働させている。


それでも反応できたのは、

エルシェリアが一瞬、驚いて距離を取った時だけだ。


壁に刺さっているナイフは、間に割って入ったセリィが投げたものだろう。。


≪どっちにしろ……

 姉妹でする行動じゃないけどさ……≫


エルシェリアは、崩れ落ちたセリィを優しく床に寝かせ、

穏やかな笑みを浮かべている。


さっきまで理解不能な行動していた存在と、

同一人物とは思えない姿に一体何がしたいんだよと悪態をつきたくなる。


「……アンタ、いったい何者なんだよ?」


俺の問いに、

少女はセリィの寝顔を眺めながら微笑むだけだったが、

やがて立ち上がって俺に向き直る。


口元に畳んだ扇子を当て、

少し考える素振りをしてから、口を開いた。


「どうやら貴方、

 セリィちゃんに好かれているみたいですねぇ~。

 それもぉ……かなり」


「人の質問に答える気はないってか……」


「答える気がないというよりもぉ~、

 私はセリィちゃんのお姉さん以外の

 何者でもありませんからぁ~」


なおもはぐらかされた俺は、呆れたようにため息を吐く。


「俺の知る姉妹は、

 こんなDVじみたことしないんでね」


「DV……?

 私が可愛い妹に暴力を振るった、とぉ~?」


「意味は、知ってるんだな」


「聞いたことがあるだけですよぉ~!

 でも心外ですねぇ~。

 お姉さん、落ち込んじゃいますよぉ~?」


……どう見ても、そのものだろと思うが、

話してくれているうちにできるだけ情報が欲しいので会話を続ける。


「そういえば、

 セリィの砕けた腕……。

 アンタが治したのか?」


噓泣きしていたのをやめた少女が、今度は「おやおやぁ~?」と小首をかしげる。


「もしかしてぇ~……

 お気づきでは、ありません~?」


俺が怪訝な表情を浮かべると、

エルシェリアはまたも前触れもなく接近し、

俺の頭を両手で掴んで引き寄せた。


「うおっ!?」


驚きの声を上げる俺を無視し、彼女はじっと俺の目を覗き込み――

やがて満足したのか、手を放した。


「……一体、何なんだよ」


「いえいえ~。

 貴方のお名前はぁ~?」


もう諦めた俺は、自分の名前を告げる。


すると彼女は、ふむふむ~と頷き、

意味深に口を開いた。


「シンシア様からぁ~、

 とてもいいものをもらっていたんですねぇ~」


「……俺のこと、知ってたのか?」


「少しだけ報告を受けてましたのでぇ~。

 詳しくは知りませんよぉ~」


どうやら、彼女はそういった報告を受ける立場らしい。


「ではでは~。

 今回のお詫びにぃ~、

 お姉さんがアドバイスをしてあげましょう~!」


「アドバイス……?」


その瞬間――

彼女の雰囲気が一変する。


「その身に流れる竜力。

 蓄えられた知恵。

 瞳に宿る意思。


 それを自覚し、

 知覚し、

 行使なさい」


あまりの変貌ぶりに唖然としたが、すぐに我に返る。


「……それがアンタの素か?」


「ふふふ~。

 どうでしょうかぁ~」


そう言って踵を返して、去ろうとした彼女は……。

ふと何かを思い出したように首だけをこちらへ向けた。


「それではまたお会いしましょうねぇ~! 未来の弟君♪」


そう言い残し、エルシェリアは今度こそ去っていった。


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