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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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45.怯える姉弟と怯えるメイド――笑顔で近づく恐怖

俺たちは今、竜皇城の中を歩いている。


先頭を行くのはメイドさん。

その後ろにエリオスさん、ヴェルミナさん、シア、俺、セリィの順で、

竜皇様――シアたちの父親が待つ謁見の間へと向かっていた。


≪にしても……予想はしてたけど、中もすごいな≫


城内は外観と同じく黒を基調としているが、不思議と暗さは感じない。

威圧感が前に出すぎることもなく、抑制された美しさは“静かな威厳”を感じさせる通路だった。


その雰囲気にすでに飲まれてしまった俺は、ドキドキしながら、

周囲を視線だけでキョロキョロと見回してしまう。


すると後ろから見ていたセリィが、小さくクスクスと笑った。


「大丈夫ですか?」

「うん、まあ……なんとか」


少し恥ずかしさを覚えたそのとき。

脳内に、聞き慣れた明るい声が響いてくる。


『ユウト! ユウト! 時間ができたら、城内を案内するね!』

『うん、楽しみにしてるよ』


【思考伝達】越しに聞こえてきたシアの普段通りな声に、少しだけ肩の力が抜ける。


そうして謁見の間の前にたどり着き――


≪なるようになるだろ!≫


と自分に言い聞かせながら、ゆっくりと扉が開くのを待つことにした。


――――



「よく戻ったな! 我らが子供たちよ!」


「はい。無事に帰還しました。

 父上も母上もお元気そうで何よりです」


とエリオスさんが代表して、帰還の挨拶をする。


謁見の間へ入った俺たちは、

玉座に座る竜皇様と、その隣に座る竜妃様の前で跪いている。


ここら辺はエリオスさんに道中で教わっていたから大丈夫だと思いたい。


「いつまでもそうしているのです?

 エリオス、ヴェルミナ、シンシア……そして――」


そう言って竜妃様は俺へ視線を向ける。


「勇者殿も、顔をお上げになってください」


その言葉に従い、俺たちは立ち上がり、

この国の“ツートップ”を見上げた。


――そして、最初に浮かんだ感想は。


≪若すぎない!?≫


三児の親のはずなのに、竜皇様は三十代前半――いや、二十代って言われても通りそうな若さだ。

竜妃様に至っては、女子大生と言われても疑わない。


元の世界で何も知らない人がこの家族を見たら、兄妹だと間違えそうなレベルだ。


≪異世界……恐るべしだな……≫


だが、しばらく見ているうちに、ひとつの違和感に気づいた。


≪最初は緊張してちゃんと見れてなかったけど……

 やっぱり、シアと少し違うな≫


顔立ちは母親を幼くしたようにそっくりだ。

だが、髪と瞳の色が違う。


シアは、うっすらと桜色にも見える銀髪とラピスラズリのような瑠璃色の瞳に対して、

竜皇様と竜妃様は、エリオスさんやヴェルミナさんと同じく、

濃淡はあれど青みがかった銀髪とガーネットのように紅い瞳だった。


≪先祖返り……とかなのかな?≫


そんなことを考えている間も、エリオスさんは王国での出来事を簡潔に報告していく。


ヴェルミナさんやシアが時折補足を入れるが、

すでに大体の内容は伝わっていたらしく、話は滞りなく進んでいった。


途中、俺が密かに不安に思っていた

“シアの魂約”についても触れられたが、

それすら驚くほどあっさりと受け入れられる。


気づけば話題は、

披露宴の段取りをいつにするか、という方向にまで進んでいた。


≪あれぇ……?

 なんで竜皇様も竜妃様も、こんなにあっさりなんだ?≫


むしろ大歓迎と言わんばかりの様子に、俺は内心動揺していた。


後に知ることになるが――

シアはこの国で、良くも悪くも“特別”な存在らしい。


そのせいで友人は少ないのに、

皇族であるため、縁談の話も数多く持ち込まれてきたという。


当然、その中には好ましくない話も含まれていた。


「うむ。だいたいのことは、報告にあった内容と相違ないな」


「陛下?

 客室の準備も整っているようですし、

 そろそろ良いのではなくて?」


竜妃様の言葉に、竜皇様は頷く。


「ああ、そうか。

 勇者殿にとっては、慣れぬことの連続だったな……」


そう言って竜皇様は、

俺に客室でゆっくり休むよう告げ、

扉の外にセリィを待機させているからと、退出の許可をくれた。


ちなみにシアは――


「あ! それなら、私も……!」

「シンシアは、ダメです」


竜妃様にバッサリと却下されていた。


シアは俺に向けていた顔を、ギギギ……と幻聴が聞こえそうな動きで、

声の主へと戻す。


「えっと……お母さま?」

「ダメです」


「でも……私、ユウトと……」

「ダ・メ・です♪」

「はい……」


しゅん、と肩を落とすシア。

傍から見れば、母親に止められて落ち込む娘という、

微笑ましい光景に映るのだろう。


――字面だけなら。


黒い笑顔を浮かべる竜妃様の背後に、

真っ黒な靄をまとった“龍”のようなものが見えるのは、

長旅で疲れているせいだと思いたい。


≪……あれ、幻覚だよな?≫


この国の竜は、いわゆるドラゴンのような姿をしている。

だが、竜妃様の背後に見えるそれは、

翼のない蛇のようなフォルムの、“東方の龍”を思わせた。


≪うん、深く考えるのはやめよう。

 覚えておくべきことは一つだけだ――

 このお母さんは、絶対に怒らせちゃいけない≫


心なしか、竜妃様の隣に座る竜皇様の顔も、引きつって見える。

エリオスさんやヴェルミナさんも、後ろからでは表情が見えないけど

肩がかすかに震えていることから予想ができた。


「そ、それじゃあ、俺はこの辺で……」

「うむ!

 夕食時には使いを出すゆえ、

 それまでゆっくり休むがよい!」


俺は一礼し、扉へと向かう。

なんとなく振り返ると、そこには――

まるで捨てられた子犬のような表情のシアがいた。


≪ごめん、シア!

 さすがに俺も、命が大切なんだ!≫


そう心の中で謝罪しながら、その場を後にした。



――――



バタン……。


謁見の間の扉が、俺の背後で静かに閉じられる。


「お疲れ様です、ユウト様」


ふぅ……と息をついた、そのタイミングで、

前方にいたセリィが声をかけてくれた。


どうやら竜皇様は本当に、

彼女を扉の前に待機させてくれていたらしい。


「うん……初めてのことが多すぎて、

 ちょっと疲れたかな」


俺がそう言うと、

セリィは柔らかく微笑みながら、


「それでは、さっそくお部屋へご案内いたしますね」


と言ってくれ、俺たちは並んで歩き出す。



――――



今いる場所は、来客用の部屋が設けられた別館だ。


その別館の中でも、本館側に近い区画に俺の部屋があるものの、

距離がそれなりにあるため、要所に設けられた転移陣を利用しながら移動するとのことだった。


≪転移陣で移動する城って……≫


実はこの竜皇城、見た目ほど築年数は古くない。


正確には三百年以上は経っているのだが、

五千年以上生き、これまで大きな戦争もしてこなかった

竜皇国を基準にすると、むしろ新しいと言える。


もちろん、その頃から国自体は存在していたし、城もあった。


だが――“人魔大戦”の終結後。

それまで他種族にほとんど興味を示さなかった竜族が、自分たちとは異なる生活や文化に関心を持ち始めた。


そこへ初代勇者たちの知識が拍車をかけ、国全体を作り直し、

ついでに様々なギミックまで仕込んだらしい。


転移陣も、巨大化しすぎた竜皇城を移動しやすくするためのものだとか。


要するに――暇だったのだ。


≪外に出ればいいだけなのに、

 選んだ答えが“寝る”だもんな……≫


どれほど興味がなかったのか、この話を聞けば容易に想像できる。


そんな雑談をセリィと交わしながら、部屋へ向かう。


「でも、よく初代勇者たちと一緒に、魔族と戦う気になりましたよね」


「そうですね。

 当時の詳細までは分かりませんが、

 どうやら創造神からのお告げがあったようです」


なるほど。

やっぱり神様は実在するのか。


「ってことは、神託を受ける巫女とかもいるのかな?」

という俺の疑問に、セリィは首を振る。


「この国には、いませんね。

 私も姉から聞いた話ですが、

 竜皇様に“使者”を名乗る方が現れたそうです」


「使者……?」


話をまとめると――


・竜族が信仰しているのは、創造神ではなく“神竜”

・竜族の力を借りたい創造神が、使者を送って助力を要請

・異世界の勇者に興味を持った竜皇様が、多種族会議に参加


その結果、勇者を気に入り力を貸して、

人魔大戦は見事に終息した、という流れらしい。


≪……たぶん、暇だったから力を貸したんじゃないかな?≫


まあ、結果的に戦争が終わったのなら、それでいいのだろう。


そんな結論を出し、

俺はその後もセリィと他愛のない話をしながら歩いていた。


――と、そのとき。


突然、セリィが足を止め、表情を強張らせる。


その様子に、俺も前方へ視線を向け、思わず足が止まった。


≪……いや、予想できたことだけど≫


そこにはこの世界に来て初めて見る、

“着物”を身にまとった中学生くらいの少女が、こちらへ歩いてきていた。


「おやおや~?

 誰かと思えば、セリィちゃんじゃないですかぁ~!

 お久しぶりですねぇ~!」


間の抜けた声で話しかけながら、少女は俺たちの前までやって来る。


その瞬間、セリィはすぐに俺の前へ出た。

だが、その肩はかすかに震えている。


「なぜ……ここに……

 エル……シェリア……姉さま……が……

 いらっしゃる……の……ですか……?」


どうやら、この少女はセリィの姉らしい。

見た目だけなら、妹と言われた方がしっくりくるのだが――

それは些細な問題だ。


≪……なんで、こんなに怯えてるんだ?≫


俺にもはっきり分かるほど震えるセリィの声。


それに対し、姉と呼ばれた少女は、

クスクスと穏やかに笑う。


その笑顔は――

なぜだろう、ひどく不気味に見えた。


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