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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第一部 王国に召喚された魂約者

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41.番外編:姉兄の想い――鉄拳制裁が示す“本当の理由”とは

――時は、悠斗が初めて“魂約”について説明を受けた日の夜



◆視点:ヴェルミナ◆



妾たちは、王国側が用意した宿泊用の部屋の応接室にいた。

隣の寝室にある寝台では、ユウトのことを考えて騒ぎ疲れたシアが静かに眠っている。


本当に今日は大変だった……妾と向かい合って座るエリオスと紅茶を口にしながら、先ほどまでの出来事を振り返る。


勇者召喚の儀で、妾たちの妹が、いきなり求婚すら飛び越えた“魂約”をしたこと。

さらに召喚された勇者のひとりであるユウトへ、その件や召喚された理由を簡潔に説明した。


そしてこの後は、各国の王たちに同じ説明をせねばならんことを思うと……。


「まだまだ休まる気がせんな……」

「同感だね……」


妾の独り言に、エリオスが静かに応じる。


「それにしても、あのシアがあそこまでなるなんて驚いたよ」

「そうじゃな。だが、それは良いことでもある」


シアは妾たち家族はもちろん、竜族全体から見ても特別な娘だ。

なにせ母様の胎内にいた頃から魔力を吸収し、腹を光らせていたほどなのだから。


≪それゆえ期待されて生まれたが、女児であったがゆえに揶揄されたものじゃが……≫


竜族は力を尊ぶ種族。

通常、力は男のほうが強い。ゆえに“強すぎる女”は疎まれる。


期待されて生まれたシアも例外ではなく、周囲から避けられ続けた。


「姉さんはユウトのこと、どう思うの?」


妾がシアの境遇を思い返していると、エリオスが不意に問いかけてきた。

おそらく“シアの魂約”と“ユウトの今後”について意見を求めているのだろう。


「皇族に迎えるしかあるまいな。魂約してしまった以上、影響が大きすぎる」


平和な世界で生きてきた子供が、過ぎた地位や力を一瞬にして手にしてしまったわけじゃからな……。

下手をすれば、それらを巡って戦争すら起こりかねん。


≪ユウトには自身を守るための力と知恵、それらを得るための時間が必要じゃ≫


そう返すと、エリオスは「そっちじゃないよ姉さん」と否定してきた。


どうやら、魂約ではなく“ユウトという人間そのもの”について聞きたいらしい。


「ふむ……エリオスはどう思っておる?」

「僕は……ちょっと保留かな」


その返答に、妾は「ククッ!」と笑うと、

エリオスは少し拗ねたよう表情になってしまった。


≪可愛い妹を取られたくないのじゃろうが、それよりも……≫


妾は、カップを指先で軽く持ち上げ、問いかける。


「やはり苦手か?」


図星だったのか、エリオスは強張らせた表情を慌てて整えようとし──

妾の表情を見て、観念したようにため息をついた。


「はぁ〜……どうして姉さんの前だと上手く取り繕えないのかな……」

「前より早くなっておるぞ? それに、兄妹なのだから良いではないか」


人前では絶対に見せぬ弟の姿に、妾は思わず微笑ましさを覚えた。

エリオスはもう一度深い息を吐き、言葉を続ける。


「ユウトの魂は、確かに綺麗だった。けど、それは向こうの世界が平和だったからだろう?

 これからいろんな国や人に触れて……変わってしまったらと思うとね」


心配する理由は理解できる。

特に今回は“一方的な魂約”。こちらから破棄はできず、

ある意味でシアの庇護下にあるユウトが応じるとは到底思えぬ。


普通なら確かに不安視するところだが――


「ユウトなら大丈夫じゃろう」


妾が安心した表情で断言すると、エリオスは興味深そうに目を細めた。


「それは“賢竜姫”としての意見?」

「まあ、それもあるが──妾はユウトの中を調べたからの」


エリオスは思い出したようにうなずき、何を感じ取ったのか聞いてくる。


「そうじゃな……例えるなら“澄んだ青空の下に広がる草原”といったところかの」


妾の言葉に、エリオスはしばし考え込んだ末……理解を諦めたかのように両手を上げて降参した。


「ククク! あれは一種の才能ということじゃよ」

「とりあえず、姉さんもユウトを気に入っていることはわかったよ」


その後、ユウトへのフォローをどう行うかという話に変わり、

竜皇国への報告と打診の内容を手紙としてまとめ、侍従に転送してもらった。



――――



「それで、どうだったの?」

「……何がじゃ?」


エリオスが優雅にカップを置くと、唐突に問いかけてきた。

何を指しているのかわからず聞き返すと、苦笑しながら答える。


「確認したんでしょう、シンシアの“天竜燐”を」


妾がシアに行った数度の拳骨──弟はその意味を正確に理解していたらしい。

まあ、時期竜皇となる身なのだから当然か。


妾は自身の右手に視線を落としあの時のことを少し思い出す。


「……また一段と硬くなっておる。おかげで“手の骨”にヒビが入ってしまった」


シアが治癒をしてくれため、痛みは残っていない。


≪シアも優しい子よな……。自分を傷つけた相手を癒すのじゃから≫


妾がそんな妹の姿を思い出してから、エリオスに視線を向けると……。


弟はナチュラルにドン引きした顔になっていた。


それは“実の妹に痛みを忘れさせないための行動”としてやりすぎだと思ったからではない。


「え、えっと……姉さんの“天竜燐”がじゃなくて……骨のほうにヒビ?」


予想外だったのか、エリオスは確認するように問い直してくる。

妾は静かにうなずき、続きを語った。


「妾の竜燐など、一度目でほぼ吹き飛び、二度目には意味をなさんかったよ」


「容赦がない姉さんに怒ればいいのか、

 その姉さんの拳骨を受けても平然としている妹に感心すればいいのか……」


エリオスは苦笑しながら言う。

だがシアには怪我ひとつないのだから、妹に感心すればよいのだ。


それに――


「あれくらいせねば痛みなど感じぬだろう?

 全く、勝手にどんどん成長しおるから……ついていくのがやっとじゃよ」


妾は深いため息を漏らした。


竜燐とは──


●竜族が“人化”した姿でも、肌の表面に薄く透明な竜燐が存在する

(透明化できるのは中位竜以上の血筋、または器用な者に限られる)

●竜燐は百年周期で入れ替わり、層が積み重なるほど硬度が増す

●砕けても時が経てば再生する


ゆえに歳を重ねた竜は筋力・魔力だけでなく、竜燐による防御力を得て強くなる。


エリオスは腕を組み、呆れたように続けた。


「っていうかさ……竜燐が砕けて、それより硬い骨にヒビって……

 身体強化でもしたの? いや、それでもヒビ入らないと思うんだけど」


確かに身体強化をすれば骨も強化されるが――


「そんなもの、骨の硬度など気にせず、筋力に全集中したからじゃな!」

「なにしてるの姉さん!?」


エリオスが驚愕の声を上げる。

だが怒る気配はない。妾を信頼しきっているからだろう。


「まったく……シアは見た目は無邪気な少女なのに、中身も才能も“規格外”だね」

「同感じゃ。あれで何重にも封印されておるのだから、驚きを通り越して呆れるわ」


妾たちは苦く笑うしかなかった。


シアは生まれた時から強大な魔力と竜力を有していた。

ゆえに──無邪気に力を振るわぬよう、父様・母様・妾・エリオスの四人がかりで五重の封印を施した。


≪それでも成長が止まらんから、妾が個人的に封印術を研究し、

 もとの五重封印を核にさらに上乗せしたのじゃが≫


……それでも成長は止まらないのだから、もう呆れるしかない。


エリオスも同じ思いだったのか、苦笑しながらクッキーを口に運ぶ。

話が長くなりそうだと察して、気が利くメイドたちが用意してくれたものだ。


「それにしても、よくユウトと魂約を結ぶ際に封印が壊れなかったね」


素朴な疑問。だが答えは簡単だった。


「あんなに肌を密着させておったというのも理由の一つじゃが……。

 二枚の封印が、壊れておったぞ?」


エリオスは皿から取ろうとしていたクッキーを取り落とす。


「……ごめん、理解が追いつかない」


弟は困惑する表情を見せながらも、どうしてそうなったのか……。

なぜ気づけなかったのかを必死に考えているようだった。


≪そうじゃろうな。近くにおったのに妾すらも、シアに言われて気付いたのじゃから≫


あの子は自力で二枚の封印を破壊し、“魂約”の最中はもちろん、

それ以降も周囲に悟られぬよう、漏れ出す力を押しとどめていた。


「姉さん……シアってまさか、力の制御ができてるんじゃない?」


真剣な声。しかし妾は静かに首を横に振った。


「妾もそう思って調べたのじゃが、あれは制御ではない。無理やり押しとどめておった」

「待って、それって……」


エリオスは続く言葉を飲み込む。


封印がなければ漏れ出す力を、体内に押し返して抑え込む──

普通なら危険すぎる行為。


だがあの子は──


「残った封印に干渉し、循環速度を通常より高めておったよ」

「……はい?」


エリオスは完全に固まる。


≪わかるぞエリオス。妾もそうじゃった≫


ようやく言葉が出た。


「つまり……苦しみはなかった?」

「そうじゃな」

「封印に干渉なんて……できるものなの?」

「妾も聞いたことがない話じゃ」


おそらく封印術が

“力を閉じ込める”ではなく

“循環させて漏れさせないこと”に比重を置いていたからこそ可能となった。


≪封印に干渉し、循環速度を一定に保ち続け、周囲に悟らせなかった……≫


どれほどの集中力が必要なのか想像もつかぬ。

妾も、エリオスも深いため息を漏らすしかなかった。


「ホント……僕たちの妹はとんでもないね」

「同感じゃ。昔は“神童”などともてはやされたが、今では恥ずかしいわ」


――ゆえに。


膨れ上がる力はいずれ歪みも生む。

だからこそ痛みを知らねばならない。


「じゃから妾は心を鬼にしてでも、シアに“痛みを忘れさせん”。たとえ拳が砕けようともな!」


と宣言してみせたら──


エリオスに「砕けないように別の方法を考えようね」と本気で注意されてしまった。


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