40.交錯する感情と別れの時…二人の勇者は再戦を誓う!
「さぁ〜て、二人とも? 言い訳を聞かせてもらおうかしら?」
絶賛正座中の俺と義孝。
目の前には黒い笑みを浮かべた友莉と、“私は怒っています”の顔をする奏。
模擬戦は魔力切れを起こした義孝の負けという形で誰もケガすることなく終わったが、
観客席の人たちを危険にさせてしまい、俺と義孝は怒られているというわけだ。
訓練場は闘技大会の予選にも使われるらしく、二階に観客席が設けられているのだが、
俺がファイヤーボールを、手を上に振り上げるようにして割ったことで、進路が反れてしまった。
友莉たちのいる方へと……。
「いや、その……事故と言いますか……」
「…………ごめん」
幸いだったのは、彼女たちのそばにいたエルフの先生――カタリナ先生が結界で防いでくれたこと。
それがなければ冗談ぬきで大惨事になるところだった……。
義孝はというと、渾身の一撃が簡単に破られた事実にまだ脳が追いついていないらしく、心ここにあらずの状態。
そんな義孝に友莉は盛大なため息をついた。
「とりあえず悠斗。あれ、どうやったの?」
その質問に、義孝と奏だけでなく周囲で見守っていた人たちの視線が一斉に俺へ突き刺さる。
いきなり注目されてたじろぎながらも、どう説明したものかと考えていると――
「それは妾が説明しよう」
凛とした落ち着いた声に、全員の視線が扉へ向いた。
そこから歩いてくるのは、光の加減で空色を帯びる銀髪の美女――ヴェルミナさんだった。
「あれ? なんでヴェルミナさんが?」
俺だけじゃなく、場にいる全員が同じ疑問を抱いたようで、
俺へと集中していた視線はヴェルミナへと移った。
「だいたいの状況は把握しておるし、ある意味ユウトの“担当医”みたいなものじゃからな。
皆に説明するなら、お主よりも妾の方が適任じゃろう?」
ヴェルミナさんは余裕の笑みを浮かべながら歩み寄り、俺の横に立った。
≪マジで助かった……! どこまで説明していいか分からなくて内心ずっと焦ってたんだよ!≫
すると王太子のユリウスさんが軽く手を上げて尋ねる。
「ですが、観客席におられなかった貴女が状況を把握しているというのは……?」
「あぁ、それならこれじゃ」
彼女が手のひらを上に向けてみんなの前に出すと、丸い球状の光が浮かび上がった。
透き通った球体の内部には、模擬戦の映像がゆっくりと映っている。
「これは《遠写》の魔道具でな。
対となる魔道具に映像を送ることができるんじゃよ。
500年前の勇者から“テレビやネット”とやらの話を聞いて、試しに作ってみた」
ヴェルミナさんがそう答えると、ユリウスさんが食いついたように声を上げる。
「な、なんと……! ぜひ王国でも――」
「交渉は後にせよ。今は話の腰を折るでない」
きっぱりと切られ、ユリウスさんは肩を落とす。
その様子に場の空気がわずかに和らいだ。
そしてヴェルミナさんは、視線を俺に少し向けてから続ける。
「さて本題じゃ。ユウトがヨシタカ殿の魔法を“切り裂いた”件についてじゃが――
原因は、ユウトが新たに獲得した“固有スキル”によるものじゃろう」
「固有スキル……ですか?」
奏が息を呑み、友莉も目を見開く。
ヴェルミナさんは頷きながら説明を続けた。
「シンシアとの魂約によりユウトへ膨大な竜力が流れ込んだ。
しかもユウトには魔力がないゆえ、純度がとてつもなく高くてな。
竜力が馴染み始めたことで、新たなスキルが芽生えたのじゃろう」
「……なるほど」
「とはいえ、まだ調査中じゃ。詳細がわかればすぐに共有するでな」
「わかりました。どちらにしても我々だけでは調べようがありませんからね。よろしくお願いします!」
ユリウスさんが丁寧に頭を下げる。
すると――
ガンッ!!
鈍い衝撃音が室内に響いた。
全員が音のした方向を見る。
どうやら義孝が、石壁に拳を叩きつけた音らしい。
「よ、義孝君……?」
奏が心配そうに声をかけるが、
義孝は拳を握りしめたまま、震える声で短く言い放つ。
「……すまない。今は一人にしてくれ」
そう言い残し、扉を開けて部屋を出ていってしまった。
一瞬、空気が張り詰める。
「なあ、友莉……俺、やりすぎたのか?」
思わず尋ねると、友莉は肩をすくめて答えた。
「大丈夫でしょ。たぶん――悠斗に嫉妬してるだけよ」
あっけらかんとした口調で手をヒラヒラ振り、気にするなと言わんばかり。
そこへ、騎士団長のヴォルフさんが俺たちの会話に入ってきた。
「まあ、あれだけ努力して全く敵わなかったんだ。
落ち込んで当然だろうな。……聞いた話なんだが、
ユウト殿はほとんど訓練をしていなかったんだろう?」
その言葉に反論したのは俺ではなく――ヴェルミナさんだった。
「それは妾たちが止めておったのじゃ。
竜族の力が人間に宿ることなど聞いたことがないからな」
その言葉に、ヴォルフさんは納得したように目を細める。
「……確かに。力が暴走すれば大惨事になりますな」
「それにな――ユウトは二日ほど寝込んでおったんじゃ。
竜力の影響で体が変化しとるのじゃろう」
ヴェルミナさんが淡々と説明すると、
「え、ちょっと待って!?」
「悠斗君、それ本当に平気なの!?」
――友莉と奏がドンッと勢いよく距離を詰めてきて、俺はがっちり肩を掴まれた。
「大丈夫大丈夫! 本当に問題ないから落ち着いて!」
必死で二人をなだめながら、竜力が馴染み始めた影響で寝込んだだけだと説明する。
すると二人は少し落ち着いたのか離れてくれたが、
まだ心配そうにしている。
「……ほんとに無理してない?」
「具合が悪くなったら隠さず言いなさいよ?」
「了解! 心配してくれてありがとうね!」
そうしてなんとか落ち着きを取り戻し、
その場は一旦お開きということになった。
――――
そして現在――
「さて、みんな元気でね!」
「今度会う時は魔法学園でかしらね!」
「体に気を付けてね、悠斗君!」
俺たちは竜車の前で別れの挨拶を交わしている。
“別れ”と言っても、少しすればまた会えるのは分かっているのに――
こうやって大勢に見送られる経験なんてなかったから、どうにも落ち着かない。
見送りに来てくれたのは友莉、奏、魔術教師のカタリナさん、
王太子ユリウスさん、王女イリスさん、そして護衛の騎士たち。
思っていた以上の大所帯で、内心めちゃくちゃ緊張している。
獅童の姿が見えないのは……。まあ予想通りとして――
義孝はどうしたんだろう、と胸のどこかがざわついた、その瞬間。
「悠斗!」
息を切らしながら、義孝が全力疾走で駆けてきた。
「義孝!? どうしたんだよ、そんなに急いで」
「どうしたもなにも……見送りに来たに決まってるだろ」
肩で息をしながら答える義孝を見て、俺は友莉たちから少し離れた位置へと一緒に移動する。
息を整えると、義孝は一度だけ視線を落としてから、俺の目を真っすぐ見た。
「ヴォルフさんから聞いた。……悠斗、お前も色々大変だったんだって」
「お、おう。まあ今は元気だし、気にしないでいいって」
どうやら、あの後にヴォルフさんが説明してくれたらしい。
だけど――
「……それでも、お前に侮辱されたことは、たぶん許せない」
握りしめた拳が震えている。
悔しさか、情けなさか、怒りか。たぶん全部だろう。
そして義孝は顔を上げ、決意の光を宿した瞳で言った。
「だから、俺はまたお前と再戦する!」
挑戦というより“宣言”。
その声は、迷いも弱さも一切含んでいなかった。
「うん。楽しみにしてるよ」
俺がそう笑って返すと、義孝はどこかホッとしたように、そして少し複雑そうに視線を落とした。
「と、ところでその……。シンシアとはどこまでいったんだ?」
義孝の突然の質問に、俺は思わず首を傾げた。
≪どこまでいった…? どういう意味だ??≫
質問の意図が分からず固まっていると、義孝は少し頬を赤くしながら声を荒げる。
「魂約ってのをしたんだろ!? だったら、ほら! その…“そういう関係”に……!」
やっと理解した。
「いやいやいや、どこまでも何もないから! 出会ってからまだ数日だぞ!?」
俺が慌てて否定するやいなや、義孝は胸を撫でおろし――小声で呟いた。
「……そうか……それなら、まだ……」
最後まで聞こえるほどの声量ではなかったが、言いたいことは察した。
≪もしかしなくても――シアのこと気になってる?≫
向こうの世界では、学年・年齢・立場問わず告白がされまくっていた義孝。
そんな男が異世界で本気で惹かれた相手がシアだとしたら……なんか胸がざわつく。
そう思った瞬間――
「なぁ~に男二人で友情深めちゃってるのかしら?」
「うわっ!? 友莉!?」
すぐ横に、にっこり満面の笑み(圧)の友莉と、くすっと笑う奏が立っていた。
「悠斗、そろそろ出発するってさ!」
「あ、ああ!教えてくれてありがとな!」
視線を竜車へ向けると、ヴェルミナさんたちはすでに乗り込んでおり準備万端の様子だった。
そのタイミングで――
「ま、待ってくれ悠斗! 少しシンシアと話を――っ!?」
その言葉は、友莉の無言のボディブローによって強制中断され、
義孝は腹を押さえて悶絶している。
「さっき言ったでしょうが! もう出発するのよ!!」
「ゆ、友莉ちゃん……やりすぎだよ……」
奏が呆れながら言うも、友莉は聞く耳を持たない。
義孝は地面に突っ伏したまま震える唇で、
「ゆ…ゆり……俺は……」と絞り出そうとしたが――
「時間切れだって言ってんでしょ! 敗者は黙ってなさい!」
その言葉は完全にとどめになったのか、義孝はうつむき黙ってしまった。
≪このやり取りもしばらく見られないと思うと……なんか寂しい≫
そんな俺の気持ちを察したのか、友莉はニヤリと顔を寄せる。
「もしかして悠斗君は、さみしいのかなぁ~?」
「うるせぇよ! 別にいいだろ!」
「はいはい、皆さんを待たせてるから、二人ともその辺にしてね!」
奏が優しく割って入ってくれ、俺は竜車へと向かう。
そして――
「みんな元気でな!」
「悠斗君も体に気を付けてね!」
「今度は学園で会いましょ!」
そんな明るい言葉に見送られ竜車は走り出した。
その中で――
「シンシア! 俺は強くなる!! だから待っていてくれ!!」
声のした方を見れば、義孝が走り出した竜車を追いかけてくる――が、
ズザァァァァッ!!
友莉の足に引っかかり、豪快に転倒した。
≪うん……なんか……いろんな意味で複雑になるよこれは……≫
ちなみに名前を呼ばれていたシアはというと――
「ユウト~……むにゃむにゃ……スゥ……スゥ……」
俺の肩に頭を乗せ、幸せそうに寝息を立てている。
――こうして俺は、竜皇国へと旅立つ。
物語は、次のステージへ進んでいくのだった。




