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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第一部 王国に召喚された魂約者

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35/82

35.動き始めた悪意と、最恐の教官ヴァルネッサ登場

◆視点:???◆



「ったく、なんでこのアタシが、こんなポンコツの尻拭いなんざしなきゃなんねぇんだ……」

「て、てめぇ……いったいなにもんだよ!?」


西の森の外れ。

アタシの目の前には、森から逃げ出そうとしていたガキと――あぁ~名前がわからねぇからポンコツいいな。

さっきアタシが愛用の戦槌で“ぶっ飛ばした”気色の悪い肉塊が転がっていた。


自我が完全に飛んでたから粉砕してやったんだが……

原形がねぇってのに、まだドクンドクン脈動してやがる。


≪……やっぱりコレ、“あれ”だよな。

ってことは……連中、まだ息してやがるのか≫


めんどくせぇ未来しか見えなくて、思わずため息が漏れる。


「聞いてんのかよ、このクソガキ! ――ガハッ!?」


アタシが考え事してるってのに、ポンコツがギャーギャーとうるせぇから、黙らせるつもりで軽く蹴り飛ばした。


……はずだった。


「気絶させるつもりだったんだが……タフな奴だな」


アタシが肩をすくめると、木に激突して倒れたポンコツは「て、てめぇこのやろぉ……」と睨みつけてくる。

生意気なガキだ。


その時、森の奥からガシャガシャと鎧の音が響いてきた。


「ったく……ようやく来やがったか」


アタシが呆れ混じりに視線を向けると、鎧姿の一団が現れた。


「これはいったい……なにがあったんだ……?」


「そんなことよりソイツの手当てをしてやれ!

 たぶんあばらの二、三本は逝ってっから!」


「ひっ!? アナタ様は――って、シドウ様!?」


オイコラ。

久しぶりに会った“元”教官にその態度はねぇだろ、クソガキども。


「ん? シドウ……どっかで聞いた名だな」

「異世界からお呼びした勇者様の一人ですよ」


アタシの口からこぼれた疑問に近づいてきた生徒――いや、“元”生徒が答えてくれた。


≪ああ。召喚された勇者にそんな名前の奴がいるって聞いたな≫


まさかこのポンコツ――シドウがその一人だったのは意外だったが……。


「お久しぶりです、ヴァルネッサ様!」


「おう! ヴォルフか。

 遅くなったが、騎士団長就任おめでとう」


「ありがとうございます。

 ……それで、この状況を教えてもらえますか?」


ヴォルフが肉塊とシドウを順に見やる。


「そんなこたぁ後でまとめて答えてやる。それよりだ」


回復魔法で立てるようになったシドウの前へと歩いていく。

途中、止めようと手を伸ばしてきた騎士どもは、全員まとめて蹴り飛ばしておいた。


≪ったく、“保護対象(勇者)”を守ろうとするのはいいが、状況をしっかり見ろよ。

 こりゃ卒業生の再教育が必要か?≫


そう思いながら、シドウの目の前に立つ。


蹴り飛ばされたのが効いたのか、

それとも粉砕した肉塊を見てビビってるのか――

シドウはアタシを見上げ、露骨に警戒していた。


「おい、ポンコツ勇者。

 あそこの肉塊から“何か”もらっただろ? 出せ」


“出せ”の一言に、少しだけ威圧を乗せてやった。


「ぐっ――!?」


シドウはうめき声を上げ、膝をつく。


おっと……

どうやらアタシ自身も“あの過去”を思い出してイラついていたらしく、

つい加減を誤ったようだ。


「やりすぎですよ……」


背後からヴォルフに釘を刺され、

アタシは心を落ち着かせるように【威圧】を解除した。


「て、テメェ……いったい何者だよ……!?」


「悪いな、名乗ってなかったか。

 アタシはヴァルネッサ。一応“教師”をしている」


そう告げると、シドウは


「テメェが教師だぁ!?」


と叫んできたが、どうでもいい。


「ほら。名乗ってやったんだ。

 さっさと出せ」


今度は軽い威圧で促すと、

シドウはビクッと肩を震わせ、

服のポケットから小瓶を取り出した。


近づいただけで分かる――


……本当に、忌々しい“気配”をぷんぷんさせやがる。



――――



◆視点:獅童◆



≪ったく……一体なんなんだよ!?≫


きな臭い貴族に押しつけられた“魔力増強薬”とかいう怪しい丸薬。

あいつ自身に飲ませてみたら――想像を超えるヤバさだったので、慌ててその場を離れた。


だが森の出口に差しかかったところで、

突然、変なチビガキに化け物じみた腕力で吹き飛ばされ、俺は地面に転がったまま動けなくなった。


チビガキは俺の襟首をつかんで引きずり、

さっきの青黒い血管を浮かせて脈打つ“元・貴族”の前まで連れてこられてしまった。


≪いやいや待て。こいつ……見た目と腕力が釣り合ってねぇだろ!?≫


しかもその気色の悪い化け物となった貴族は、自我がもうないのか俺たちに気づくと獣の様に咆哮を上げる。

チビガキは「さっさとくたばれ!!」と叫ぶなり、どこからか取り出したバカデカいハンマーで一撃。


肉塊は木に叩きつけられ、原形を留めなくなった。


……だが、それでもなお、脈を打っている。


≪チビガキの腕力も狂ってるが……肉塊になっても動いてんじゃねぇ!≫


吐き気が込み上げたが、気合で飲み込んだ。


「てめぇ……いったい何者だよ!?」


思わずそう叫んだ俺を、チビガキは容赦なく蹴り飛ばした。


≪ぐっ……! なんつう脚力だよ……≫


あばらが確実にいってる痛みに歯を食いしばりながら睨みつけたそのとき、

鎧の音がガシャガシャと近づいてきた。


「すぐに治療します! 動かないでください!」

「ぐぅっ……!」


数人が俺に駆け寄り、手をかざすと、温かい光が身体を包んだ。

激痛が、すぅ……っと引いていく。


≪なんだこれ……魔法ってやつか?≫


生活水準は前の世界より低いと思っていたが、

こういう“謎パワー”だけは本当に理解できねぇ。


だが感心してる場合じゃない。


俺を吹き飛ばした元凶――さっきのチビガキが、

立派な鎧を着たオッサン(後で騎士団長だと知る)を連れて戻ってきた。


「おい、ポンコツ。

 あそこの肉塊から“なんか”もらってたよな? 出せ」


最初は妙な威圧感で身体が潰れそうだったが、

オッサンに諭されて威圧が緩み、再度同じ質問が飛んでくる。


どうやら俺が怪しい貴族にもらったブツが気になるらしい。


≪つうか、なんで持ってるって分かるんだよ……≫


とは思ったが、

もう一度殴られるのは勘弁なので素直に従うことにした。


「これのことか?」


俺はポケットから、あの“魔力増強薬”が入った小瓶を取り出して渡す。

もちろん隠しているものはない。


それが意外だったのか、チビガキ――いや、ヴァルネッサとか言うらしい――は、


「へぇ? 案外素直じゃねぇか!」


とニヤつきながら受け取った。


小瓶を開けて中身を確認した彼女は、苛立ちを隠さず舌打ちした。


「チッ……やっぱりコイツか……」

「それ……結局なんなんだよ。ドーピングか?」


俺がそう訊ねると、ヴァルネッサは一度俺を睨みつけてから、

ふぅと深くため息を吐きつつ言った。


「一応聞くが、これ以外に何かもらってるのは?」

「質問に答える気なしかよ……」


俺が肩をすくめて返すと――

ヴァルネッサは無言で拳を振り上げようとしたので、


「ま、待て待て! それ以外、なんも持ってねぇよ!!」


慌てて答えるしかなかった。


≪このやろぉ……覚えてろよ……≫


俺がそう考えていると、ヴァルネッサはしばらく瓶を睨みつけた後、

隣のオッサンに何かを言伝してから――


次の瞬間、何もない空間に“黒い裂け目”みたいなものを出現させ、

その中に丸薬の瓶をほおり投げた。


≪……は? なんだよ今の。マジでどんな原理だよ……≫


ファンタジー特有の意味不明さにツッコミを入れつつ、黙って様子を伺っていると、

ヴァルネッサが俺の方へ鋭い視線を寄越してきた。


「お前、シドウって言ったか?

 この件を誰かに喋るな。絶対にな」


「へっ! そうしてほしいんなら、少しくらい説明してくれたっていいんじゃねぇのか?」


挑発混じりに返すと、ヴァルネッサは一瞬だけ考えるように眉を動かし――


「何が聞きたい? 話せる範囲なら教えてやる」

「ヴァルネッサ様、よろしいのですか?」


隣のオッサンが軽く止めようとするが、

ヴァルネッサは無視して俺を顎で促してきた。


「いいから言え。こっちは忙しいんだ、質問は手短にな」


……いちいちムカつく喋り方をしやがる。


俺はため息をつきながら、一番気になることをぶつけた。


「あれはなんだ? 使ったらどうなる?」


どうやら予想していたのか、すぐに答えが返ってくる。


「あれは“増禍薬ぞうかやく”。

 イカれた連中が作った、過去の遺物だ。

 どうなるかなんざ――そこに転がってる肉塊なれのはてを見りゃ分かるだろ」


ヴァルネッサの視線が、木に叩きつけられ原形をとどめないアレに向かう。


≪おいおいマジかよ……。

 異世界ってのは、どこまで規格外なんだよ……≫


胃の奥がムカムカして吐き気がする。


ヴァルネッサは「話は終わりだ」と言わんばかりに

オッサンへ後処理を任せると、立ち去ろうと歩き出した。


その背中が少し離れた時――振り返りざまに言い放つ。


「おいヴォルフ!

 分かってるだろうが、この件は絶対に他言無用だ。

 他の奴等にもきつく言っとけ!」


そして、俺をビシッと指差し、


「それからシドウ――

 このアタシが“懇切丁寧”に説明してやったんだ。

 もし誰かに喋ったら……

 物理的に記憶を消すから、肝に銘じとけよ?」


ニッ、と口角を上げた顔が

信じられないほど“悪役面”で、

俺の背中に冷たい汗がツーっと伝った。


≪……ホントにあんな奴が、人にものを教えてんのかよ……≫


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