33.魔法講座で大騒ぎ! 開眼した霊視スキルに精霊と妖精が大集合!?
◆視点:奏◆
――獅童が貴族男と接触する数時間前
私は今、友莉ちゃんと一緒に魔法の授業を受けていた。
昨日は座学だけだったけど、今日はついに――“魔力操作”の実技だ。
≪うぅ……興奮しすぎて、昨日全然眠れなかったなぁ……≫
胸の高鳴りが止まらず、落ち着かない私を見て、隣の席に座る友莉ちゃんが悪い笑みを浮かべてきた。
「今の奏を義孝に見せたいわねぇ〜。写真撮れないのが残念!」
「ゆ、友莉ちゃんっ! 絶対言わないでよね!」
「アハハ、冗談よ冗談! ……一割くらい!」
「それもう冗談じゃないよね!?」
そんな私たちの騒ぎを、昨日から魔法について教えてくれているカタリナ・エーテリア先生が楽しそうに微笑んでいた。
「ふふふ、二人は本当に仲良しさんね!」
背中まで伸びる金髪がふわりと揺れ
エルフ特有の少し長く尖った耳が、ぴょこぴょこと楽しそうに動いていた。
≪うぅ……また先生に笑われちゃった……恥ずかしい……≫
先生は優しく手を叩き、空気を一度整えてから言った。
「さあ、そろそろ始めましょうか。
まずは、魔力を“感じる”ところからね!」
そうして私たちの授業が始まった。
――――
友莉ちゃんは先生に言われた通りに魔力を巡らせ、あっという間に成功してしまった。
一方の私はというと――魔力そのものをうまく“認識”できず、なかなか形にならない。
そんな私を見て、カタリナ先生がそっと手を取ってくれた。
「カナデはこっちに来たばかりなんだから、そんなに焦らなくていいわ」
先生は「さあ、力を抜いて」と優しく声をかけてくれながら、温かい何かが私の中に流れていき、光の筋となって私の中をゆっくりと巡っていくのを感じた。
「今感じているのが私の魔力なんだけど、苦しかったり痛かったりしない?」
「はい……なんだか、すごく温かいです」
温かさの奥に、似ているけれど“少し違う何か”がある。
それを伝えると、先生は小さく頷いた。
「それがカナデ自身の魔力よ。そこに意識を向けてみて」
友莉ちゃんの応援もあり――
私は少しずつ魔力を循環させることに成功した。
「できた……!」
「うん、すごく上手よ。一応言っておくけれど、この方法は高等技術だから真似しちゃダメよ? ユリ」
「な、なんで私を見るの!?」
先生に指摘され、珍しく慌てる友莉ちゃんに思わず笑ってしまった。
「練習すれば、無意識に巡らせられるようにもなるし、スキルが芽生えるかもしれないから頑張ってね!」
そう先生が優しく応援してくれた。
≪そっか!スキルが増えれば……友莉ちゃんや義孝くんの力になれるよね!≫
近づいて戦うのは怖い。
でも遠くからなら――頑張れると思う。
二人で話し合った結果、私は“遠距離支援役”になるって決めたのだ。
友莉ちゃんは「私は距離問わず戦えるようにする!」と言ってて、
なんだかすごく頼もしい。
≪そのためにも、自分のスキルをもっと知っておかなきゃ≫
そのとき、ふとシンシアさんに教えてもらった【霊視】スキルの事が頭に浮かぶ。
私はそのことをカタリナ先生に相談してみると、先生は少し驚きつつも、すぐに優しく微笑んだ。
「霊視って……本当に?
じゃあ、魔力を“目”にゆっくり集めるイメージでやってみましょう」
私は頷いて、自分の身体の中を巡っていた魔力を、今度は“目”へと流していこうとする。
――けど。
≪ちょっと……難しいかも≫
魔力がふわふわして、なかなか“目”に収まってくれない。
私が悪戦苦闘しているのを察したのか、友莉ちゃんが――
急に私の耳にふっと息を吹きかけてきた。
「ひゃんっ!?///」
部屋に変な声が響いてしまい、私は顔を真っ赤にする。
「あら、かわいい♡」
「ゆ、友莉ちゃんっ〜〜!!」
怒ろうとして振り返ると、友莉ちゃんはどこ吹く風と茶化すように言葉を続ける。
「ほらほら! 肩の力抜いて!
いつも瞑想してるときみたいにしてみたら?」
「う、うぅ……アドバイスしてくれるのは嬉しいけど……イタズラはやめてよ……」
「あら? サポート料って必要でしょ?」
にやり。
完璧に悪戯を成功させたときの顔だ。
その上こうやってサポートしてくれるからね……文句も言いづらい。
私が頬を膨らませて睨むと、
友莉ちゃんはニッシッシ!と笑い出した。
≪ずるいよ……友莉ちゃん≫
気持ちを切り替え、
私は弓道で的前に立つときの“静かな心”を思い出しながら、そっと目を閉じた。
≪深く……。深く……。いつも通りに……≫
呼吸を整えていくと、
さっきよりもはっきりと魔力の流れが感じ取れる。
その流れを身体に巡らせ、
最後に“目”に向かってそっと集めるイメージをして――
ゆっくりと瞼を開いていくと……世界が、一瞬で塗り替わった。
「えっ……これ、なに……?」
「どうやら成功したみたいね」
友莉ちゃんが驚きと感心の入り混じった目つきで私を見つめ、
カタリナ先生は小さくため息をついて肩をすくめる。
「まったく……あなた達の絆の強さには、ほんとうに恐れ入るわ」
なんだか恥ずかしくなるようなことを言われたけれど、
今の私はそれどころじゃない。
「ど、どうなっちゃったの……私……?」
私の慌てた声を聞いた先生は、そっと周囲へ視線を走らせ――
そして小さく、驚きを含んだ声を漏らした。
「これは……また、すごいことになってるわね」
「え?ねえ? なになに!? 私にも説明してほしいんだけど!」
一人だけ見えない友莉ちゃんが抗議してくるが、私にはどうしようもない。
困っていると、先生が友莉ちゃんの後ろに回り、両肩にそっと手を置いた。
「ユリ。これから【共感】スキルで、私の視界とあなたの視界をリンクさせるわ。
リラックスして目を閉じて」
「そんなことまでできるの!?」
「凄いでしょ!……まあ、外でこんな光景を見ることになるとは思わなかったけどね」
どうやら先生は、視界に精霊や妖精たちを映し続けるのは疲れてしまうからと、
普段は【霊視】を閉じているのだとか。
今回は私の様子を見て、何が起きたか把握するために発動したらしい。
そして、先生の視界を共有した友莉ちゃんが目を開いた瞬間――
「……わぁ。これ、すっごく幻想的……」
その言葉で、ようやく私も落ち着いて周囲を見渡す余裕が出てきた。
――世界は、光で満ちていた。
色とりどりの光の粒が空中で踊り、
半透明の羽を持つ“小さな小人たち”が楽しそうに飛び回っている。
さらに、その小人より二回り大きな
“女の子の姿をした存在”もふわりと浮かんでいた。
三人の小人たちは私の周囲で輪を描いたり、
部屋の柱の陰に隠れたり、
追いかけっこをしたりして、自由そのもの。
一方で女の子の方は小さな竜巻を作って、光の粒をくるくる回す子。
……あれ? 竜巻に巻き込まれて一緒に回ってる小人が二人いる。
そして、竜巻を操っているだろう女の子は――
なぜか、ちょっと怒っている?
「う〜ん……」
小さな声が聞こえて視線を下ろすと、
私の膝の上で小さく丸まって眠っていた女の子が、可愛くあくびをしていた。
≪え? いつの間に膝の上で寝てたの!?≫
驚いて固まっていると、女の子がゆっくりと顔を上げ、私と視線が合う。
二人して、ぱちぱち……と数度の瞬きを繰り返した。
数秒の沈黙が落ち――
私は勇気を振り絞って、そっと声をかけた。
「えっと……どちらさま、かな……?」
少女はまた瞬きし、逆に問い返してきた。
「もしかして、見えてる?」
「う、うん……見えてるよ」
私が頷くと、少女はぱぁっと花が咲くような笑顔になり、
ふわりと宙へ浮かび上がって、私の目の前まで飛んでくる。
「ホントに!? ホントに見えてるの!?
声も聞こえてるの!? 嘘だったら、やだよ!?」
「う、うん……見えてるし、声もちゃんと聞こえる……」
私が言い終えるのと同時に、少女は全身で喜びを表し、
くるくると宙で踊り始めた。
その気配に気づいた周囲の小人たちや女の子たちが、一斉にどわっと集まってくる。
「え? 見えるの!? 聞こえるの!?」
「ホントに!? ホントに!?」
「やったぁ!! やっとだー!!」
「はぁ〜……待ちくたびれましたわ」
「これでいっぱいお話できるね!」
一気に周囲が騒がしくなり、私は状況についていけず
思わず友莉ちゃんとカタリナ先生に助けてと視線で訴える。
「先生、これって……?」
「まあ見たまんまって感じなんだけど、カナデの特殊スキルの影響ね」
「そんなにすごいスキルだったの?
いや、なんとなく予感はしてたけど……」
二人とも!お願いだから私の状況も見てぇ……!!
その願いむなしく、
“妖精の小人”と“精霊の少女”たちのテンションが落ち着くまで、
私はただオロオロとするしかなかった。




