30.白の世界で出会った謎の存在!未確認アルファとは!?
「ここは……どこだ?」
気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。
上も下も、右も左も――すべてが“白”。
地平も境界も存在せず、ただ光に満たされた静寂の世界。
唯一、自分の足元にだけ“地面らしきもの”があり、そこに映る俺の姿が波紋のように揺れている。
まるで水面の上に立っているようだった。
「うわぁ……真理の扉でも出てきそうな場所だな」
思わずそんな感想が漏れた。
頭の片隅で、どこかの国家錬金術師が遭遇した“白い部屋”が再生される。
……いや、今そんなこと考えてる場合じゃない。
「えっと、もしかして……俺、死んだ?」
率直すぎる感想がそのまま口から出た。
その瞬間――
「カーハッハッハッハッ!!!」
空間全体が震えるほどの高笑いが響き渡った。
反響もないのに、まるで天と地の両方から聞こえてくるような不思議な響きだ。
「なんだよ今度は!?」
声の方を探して見回すが、誰もいない。
ただ“声”だけが、空から降ってくるように響いていた。
「あぁ〜すまんすまん! 突然なにかが現れたかと思い、様子を見ておったのだがな。
いきなりお前が妙なことを言い出すものだから、つい吹き出してしまったわ!」
低いようで高い、不思議な響きの声。
どこか愉快そうで、けれど圧がある。
まるで“声そのもの”が、この空間を支配しているかのようだ。
「アンタ……誰だよ? どこにいるんだ?」
俺の問いは、距離という概念のないこの空間に吸い込まれていく。
少しの沈黙のあと、声だけが再び響いた。
「ふむ……そっちへ行くのは面倒だ。気にするな。
それに、久々に懐かしい夢を見ていたところを、お前に起こされたのだぞ?」
どこか拗ねたような言い方だ。
俺だって来たくて来たわけじゃないんだけど。
どうやらこの声の主は、意外と精神年齢が低いらしい。
「……寝てたのかよ」
「当然だ。せっかくの心地よい眠りを邪魔しおって。
まったく、このまま寝続けて大ごとになれば、我が怒られてしまうではないか!」
“誰に怒られるのか”突っ込みたいが、たぶん聞いても答えてくれないだろう。
「……悪かったな。で、俺がここに来た理由は知ってるか?」
「うむ――知らん!」
「即答かよ!」
思わず全力でツッコむ。
「まあ、放っておいてもそのうち戻れるだろう」
「“そのうち”っていつだよ」
声の主は、まるで時を計るように少し唸ってから、のんびりと答える。
「二日ほどだな。ここと向こうでは時間の流れが大して変わらんようだ。良かったではないか!」
「……いや、それ全然良くないから」
つまり――俺がここで二日過ごす間、現実でも同じだけ時間が経つということらしい。
≪いや、普通にヤバいって。シアたち絶対探しまくってるだろ……≫
そう考えて頭を抱える。
どうにかして早く戻る方法を見つけなきゃいけない。
……とはいえ、手がかりはこの声の主――未確認α(アルファ)に聞くしかなさそうだけど、教えてはくれそうにないんだよなぁ。
「ほう……自分のことより、あの子の心配とは殊勝なやつだ」
「そりゃあ、いろいろ世話になってるしな……」
そう返したところで、ふと違和感に気づく。
……今、こいつ、俺の心の中を読んだ?
「……アンタまさか、心を読めるのか?」
確認するように尋ねると、未確認αの声が少しムッとした。
「質問しかできんのかお前は!? それと“未確認α”とはなんだ!」
理不尽に怒られた件について文句を言ってもよいでしょうか?
いいえ――
「仕方ないだろ、名前がわかんないんだから!」
こういう理不尽には正論をぶつけてやる!
“名前を名乗らないほうが悪い”という俺の心の声が届いたのか、
この未確認αは、しばらく黙りこんでから言った。
「むぅ……ならば“アルファ”と呼ぶことを許してやろう。特別だぞ?」
「発音が変わっただけじゃね?」
「お前たちの言語に変換するのは難しいのだ!」
しぶしぶ言いながらも、やたら誇らしげにそう言ってくる。
とりあえずツッコんでおいたら、案の定また怒られた。
「で、なんでシアのことを知ってるんだ?」
尋ねると、アルファは「ふむ……」と少し考え、間を置いてから――
「暇だから、お前に稽古をつけてやろう!」
突拍子もない提案が飛び出した。
「は……?」
いや、なんでそうなるの!?
≪いやいやいや! 脈絡なさすぎだろ!? ちゃんと答えられないのか、このオヤジは!?≫
心の中で全力ツッコミ。どうやってこの話を修正するか考えていると――
「お前は学ばんのか!? それから誰がオヤジだ! 誰が!」
……あ、やっぱり聞こえてる。
≪これじゃ簡単に文句も言えないじゃないか!≫
「お手軽感覚で言うものではなかろう!?」
完全に漫才状態だ。
しかもこの声の主は「まったくお前ら異世界人と言うヤツはどうしてこうなのだ」とか、ちょいちょい気になる単語を混ぜてくる。
「本当にアルファって何者だよ?」
問いかけても、案の定、返事はない。
ため息をひとつ吐いて、気を取り直して別の質問を投げる。
「それで、どうしても帰してくれないのか?」
「む? なぜそこまで帰りたい?」
「シアたちを心配させてるからだよ。ここがどこかも分からないけど、今ごろ絶対探してると思う」
「お前はアホなのか、それとも鈍いのか。もう察しはついておろうに……」
アルファの呆れ声に、俺はしかめ面になる。
「あぁ~……やっぱりそうか」
明確な答えがない限り信じたくなかったが、多分ここは――
「精神の世界……もしくは、魂の世界ってことか」
そんな言葉を口にしても、アルファは特に反応を示さない。
たぶん、当たらずとも遠からずだろう。
「つまり、俺って二日間眠りっぱなしってこと?」
「さっきからそう言っておろう」
「どうしてこうなった!?」
「どうでもよかろう!」
「いや、どうでもよくないからな!?」と言う魂の叫びは華麗にスルーされてしまった。
「どうせ我も、お前がここに居てはおちおち眠ることができんのだ。
だから暇つぶしに、お前を鍛えてやる!」
「さっきも言ってたけど、“鍛える”ってどうやってやるんだよ?」
ここが精神世界だと仮定しても、その方法が想像できない。
ちなみに魂の世界と考えないのは、単に怖いからだ。
チキンハート? 臆病は陰キャのデフォルト装備だよ。
「お前は口に出すことを覚えたらどうだ?」
「アルファは、人の心を読まないでくれませんかね?」
「勝手に聞こえてくるのだ、馬鹿者!」
……どうやら意外と世話焼きらしい。
思わず笑ってしまう自分に、少しだけ余裕が戻った。
最初はどうなるか分からず不安だったが、
アルファの言葉が本当なら、どうあっても二日間はこのままなのだろう。
それなら――やるしかない。
「で、俺は結局どうすればいいんだよ?」
「なに、簡単なことよ! お前はまだ“あの子”から流れてきた力――竜力の扱いがなっておらん。
そのせいで余計なものまで見えておるのだろう?」
なぜそこまで知ってるんだよ、という言葉は飲み込んで頷く。
「なら、ここで竜力の循環を習得すればよい。……見ててやる!」
その声からは「ほれ、早くやれ」と言いたげな空気が漂っている。
「なんかやけに楽しそうじゃないか?」
「当たり前だろう? 未熟なお前が右往左往する姿など、酒の肴にちょうど良いではないか!」
「せ、性格悪ぃなぁ……」
どうやら本当に、暇つぶしのオモチャ扱いらしい。
だが竜力の練習を見てくれるなら、それは俺にとってむしろ好都合だ。
≪……この調子だと、高みの見物で酒でも飲んでそうだな≫
思わずそんな光景が浮かんで、湧き上がる文句をグッと飲み込む。
「ふん! 気持ちよく寝ていたのを起こした罰だ!」
「不可抗力だろ!」
「だから妥協案として“見ていてやる”と言っておるだろう? 安心せい、ヒントはやらん!」
「そこはくれよ!」
「ほれほれ、さっさと始めよ!」
「こ、このヤロォ……!」
俺はアルファに促されるまま、竜力の循環の練習を始めた。
≪循環って……どうやるんだよ。
ラノベだと“魔力”を血液みたいに体内で巡らせるんだっけ?
俺の場合は“魔力”じゃなく“竜力”だから……それで合ってるのか?≫
とりあえず試してみるか。
身体の中にある竜力を意識し、身体の隅々へと流れるように――ゆっくりと巡らせていく。
≪まず、自分の竜力を認識して……あ、これか。
そこからこの竜力を体の隅々まで行き渡らせるように……血液が巡るみたいに――≫
そう思いながら集中していると、突然、別の“声”が響いた。
『【竜力感知Lv1】【竜力循環Lv1】を取得しました』
機械的な声。まるでシステムメッセージみたいだ。
驚いていると、それは続けざまに告げた。
『【竜力感知Lv1】は周囲のエネルギーを吸収。
【万能感知Lv1】へと進化しました。
また、魂の回路の損傷を修復――拡張に伴い、ユウト・キリシマの存在進化が進行しました』
……ツッコミどころが多すぎる。
≪いやいや、どういうこと!?≫
思考が止まりかけたそのとき――
「カーハッハッハ! これはあの子の影響か! まったくもって面白い!」
アルファが愉快そうに笑い声をあげる。
「なにやら楽しそうだな……俺にも分かりやすく説明してくれませんかね?」
「ん? 面倒だから断る!」
「いや、そこは教えろよ!」
「それに、別のことをやらねばならんからな!」
「おい待て、それどういう――」
言い終える前に、視界が急激に暗転した。
「まさか……こやつが“あの子”の番とはな。……仕方ない、少しだけ力を貸してやるか」
その呟きは、誰にも聞こえなかった。




