27.活性化する竜力と、皇女とメイドの争奪戦?
「そんなにすごいことなの?」
俺がそう尋ねると、二人はそろって大きく頷いた。
「うん! Lv2の竜眼でそこまで見えるなんて、本当にすごいことだよ!」
シアがそう言うと、セリィが驚いたように俺を見たあと、シアに確認するように訪ねた。
「お待ちください、シア様。ユウト様の竜眼は“まだ”Lv2――とおっしゃいましたか?」
「うん、本当だよ!」
それを聞いたセリィは、まるで人気アイドルを目にした少女のように、目を輝かせて俺を見つめてきた。
≪セリィって、こんなに表情豊かだったのか≫
クールな印象しかなかったから、そのギャップがまるで子供のようで、思わず微笑ましくなった。
そんな俺の反応に気が付いた彼女は、すぐに「コホン」とわざとらしく咳払いをして、落ち着いた声で言った。
「おそらくですが、“戦闘状態”だとユウト様の本能が判断したのだと思われます。
そのため、ユウト様に流れる竜力が一時的に活性化し、竜眼が強化――いえ、成長されたのではないでしょうか?」
「あ、それあるかも!」
シアが頷くと、二人は「他のスキルも強くなってるのかな?」「可能性は高いですね」などと盛り上がりはじめた。
どうやら竜族と言う種は、根っからの戦闘狂なのかもしれない。
しかし俺はあえて声を大にして言いたい――
≪お二人さん? 当の本人を置いてけぼりにしないでいただけませんかね!≫
いや、女子トークに割り込むなんて芸当、陰キャの俺にできるわけないけどさ。
二人の話題の中心って俺ですら把握できていない自分のスキルなわけで――
≪これって二人が落ち着くのを気長に待つしかないんだろうなぁ……≫
そんなことを考えているうちに、俺の手にあるカップはすっかり空になっていた。
だが、すでに気づいたのか、セリィがそっとポットを持って俺の隣に来ると静かに注ぎ足してくれる。
≪いつも思うけど、ここの使用人の人たちってレベル高くない?≫
ここの使用人は、いつもこちらが気づく前に動いてくれる。
その気遣いはさすが皇族に仕える人たちなのだと感心もするが、さっきまで夢中で話していたのに気配もなく現れるので驚いてしまう。
「申し訳ありません、ユウト様。つい夢中になってしまって……」
「い、いや、別に……ありがとう」
紅茶を注ぎ終えたセリィは、半歩後ろに下がると気まずそうに謝った。
どうやら恥ずかしかったのか、耳まで赤く染まった彼女の仕草が、妙に可愛らしく見えて――今度は俺の方が落ち着かなくなってしまった。
――――
あれから、たわいのない話――というより、俺のスキルをネタに盛り上がっている二人を眺めていた。
セリィは変わらず紅茶がなくなれば注ぎ、茶菓子が減ればアイテムボックスから取り出していた。
驚いたことに、この世界のアイテムボックスはスキルでもあり、魔法でもあるらしい。
ただし、人間族などの短命種で使えるものは少ないとのこと。
≪まあ、セリィは長命種の竜族だしね≫
何度目かの紅茶のお代わりをもらうと、不意にセリィが真剣な表情で俺を見てきた。
「ユウト様。どうか私に竜眼をお使いください!」
「えっ、いきなり!?」
驚く俺をよそに、シアも興味津々な顔をしている。
どうやら、他のスキルにも興味を示していたセリィに、俺が“本当のステータス”を見せたのがきっかけだったらしい。
だが――その提案内容は、正直かなり困るものだった。
「いや、まだ使いこなせてないし……。この前も大変だったんだよ?」
「乙女の秘密についてでしょうか?」
「うっ……そう。見るつもりはなかったけど、たぶんまた出ちゃうと思う」
あの時、友莉と奏のステータスを覗いたら、スリーサイズまで表示され、それがバレてしまいブチ切れられた。
あれをもう一度経験する度胸なんて持ち合わせていない。
しかし彼女は少し恥ずかしそうにしながらも、それくらいの覚悟はできてますからと言わんばかりの表情で続ける。
「それなら問題ありません。私は知られて恥ずかしい体型ではありませんし、ユウト様になら見られても構いません!」
「ちょっ!? セリィだけズルい! ユウト、私にも使って!」
「いやいや、落ち着いて二人とも!?」
確かにセリィは小柄だけど、スタイルはかなりいい。
シアと比べると――いや、どことは言わないが、少し控えめ……いや、身長を考えたらむしろバランス取れてるんじゃ?
顔も小さくて整ってるし、あの二人でユニットでも組めば、向こうの世界なら確実に大ブレイクだろう。
そしてシアさんや……お願いだから、これ以上カオスにしないでくれ。
「ですが、竜眼を使いこなすには練習が必要ですし、判定精度の確認も大事です」
「それなら、私だけでいいと思うの!」
セリィが理屈で押す一方、シアも負けじと主張する。
二人の間で火花が散るのを見ながら、俺は小さくため息をついた。
≪主従を超えて仲がいいのは分かったけど……美少女二人に“視て”って迫られる俺の方が恥ずかしいんだが≫
そんな俺の内なる声はもちろん二人に伝わることはなく、形勢はセリィに傾いていく。
「シア様、よくお考えを。ユウト様とシア様は魂約されています。
つまり、見えたとしてもその影響かもしれませんし、そもそもシア様の【天竜燐】をユウト様が抜けるとは思えません」
「うっ……たしかにそうかも」
シアがたじろぎ、考え込む。
確かに俺の力の源はシアなので、見ることはできないだろう。でもね、問題の本質は違うと思うよお二人さん。
「えっと、二人とも? 別に練習は俺一人でも――」
そう言いかけた俺に、二人が同時に身を乗り出してきた。
「いえ、それでは不十分です!」
「セリィの言う通りだよ!」
セリィの強い主張に、シアが即座に同意する。
「もし慣れていなければ、戦闘中に必要のない情報を見てしまうかもしれません。
それに……他の女性のステータスを余計な部分まで覗かれるのは、シア様も私も複雑です」
「そ、それはイヤかも……」
セリィの説得力のある言葉に、シアまで味方につく。
いや、ちょっと待って、セリィはシアの専属メイドだよね? 俺の訓練相手になる流れおかしくない?
「あのさ、セリィ? 今の流れだと、見られてもいいって聞こえるんだけど」
「先ほどもお伝えしました通り、一向にかまいません!
私はシア様の専属メイドで――いずれはユウト様のメイドになる可能性もありますから!」
「ちょ、ちょっと待って!? いつの間にそんな話になったの!?」
セリィはすごく熱のこもった眼差しを俺に向けて来る。
しかし、そんな陰の民には眩しすぎる視線に屈するわけにはいかない。
「なんでそこまで必死なの!?」
俺の叫びに、様子を見ていたシアが苦笑しながら教えてくれた。
「あはは、たぶんね。セリィはユウトのこと、すっごく尊敬してるんだよ。
竜族の女性ってね、強者に対して“魅力的”だと感じるんだ!」
「え……強者? 俺って、シアの力を借りてるだけじゃないの?」
素朴な疑問を口にすると、セリィが興奮したような声でシアの説明を引き継ぐ。
「だとしても十分に強者と言えます! ユウト様が見えたものは、【竜眼】がLv8以上でなければ見えません!
私が知る限りでは、今の竜王様や竜妃様くらいだと聞いています!」
「いや、さすがにそれは――」
俺が否定しかけると、シアが小さく笑って補足する。
「厳密に言えば、何の強化もなしに見えるのはお父様たちだけかな。
竜力で強化すれば他にもいると思うよ。
多分ユウトは竜力しか持ってないから、純度が高くて自然とスキルが底上げされてるんじゃないかな?」
「なるほど……理論上は、その通りですね」
二人の話を聞きながら、俺はようやく納得する。
どうやら俺の【竜眼】が急成長したのは、竜力が全身に馴染み始めているかららしい。
「ですが、そうなると……」
「うん! 竜力は純度が高くなるほど扱いが難しいからね。
恥ずかしいけど、ユウトになら全部見られてもいいよ!」
「私も、竜力操作のお手伝いをさせていただきます!」
なんで満面の笑みなんだ、この二人。
セリィさん? たぶん俺より強い人、あなたの国に山ほどいますよね?
シアもそうだけど、本当に竜族の女性って、みんなこうなのか?
≪いや、さすがにそれはないか≫
謎は深まるばかりだが、二人が本気で俺のことを思ってくれているのは分かる。
――だからこそ、俺はその気持ちに応えるように、その提案を受け入れることにした。




