22.乙女はまさに喜怒哀楽!
突然吹き出した俺に、友莉と奏が同時にこちらを見て驚いたように声を上げた。
「ちょ、いきなりどうしたのよ?」
「悠斗くん、大丈夫?」
「な、なんでもない! ちょっとむせただけだから!」
慌てて両手を振って否定する俺。
だが、そんな俺を見た友莉の目が――スッ……と細くなった。
「ねぇ、悠斗?」
「な、なにかな?」
「もしかして――アタシたちのステータス、見たんじゃないの?」
その声の低さ、まるで尋問官。笑顔で攻めてくる奏も怖いけど、絶対零度の視線で見られるのも十分に怖い……。
俺は慌てて両手をぶんぶん振る。
「い、いや、まぁ……そうだけど! でも友莉も見たんだろ!? おあいこってことでいいよな!?」
そう、コイツから仕掛けてきたんだからセーフ――なはず。
「まあね。確かにアタシも見たわ。勝手にやっちゃったし、それを責めるつもりはないのよ」
そう言って、ニッコリと真っ黒な笑顔を浮かべた。
「でもさ、アンタ……余計なものまで見えたんでしょ?」
「な、ななな……なんの話かなぁ!? 見てない見てない!」
「アタシのスキルに【超感覚】があるのは知ってるわよね?」
「っ! えっと、その……不可抗力というか……!」
あ、終わった……完全に逃げ道が塞がれた。
こうなってしまったらとる行動は一つだ――
俺は両手を合わせて「ご、ごめん……ほんと、わざとじゃないんだ……!」
その時、隣の奏も気が付いたようで、手を口に当てて顔を真っ赤に染めた。
「も、もしかして……悠斗くんのエッチ!」
「ち、違うって! そういうつもりじゃないんだってば!」
世の男性諸君!陰キャのラッキースケベはハイリスク・ローリターンと言う事を言わせてほしい!
そう誰かに向かって叫びながら俺は友莉と奏に平謝りしながら弁明する。
「仕方ないじゃないか! ここまでハッキリ見えるとは思わなかったんだよ!!」
必死に言い訳する俺に、友莉がゆっくりと腕を組む。
「……ふ〜ん。じゃあ、とりあえずビンタ一発で許してあげるわ」
「え、ちょ、待――」
振りかぶる友莉に俺は目をギュッとつぶる。
――が、その手をぱしっと誰かが掴み――
「ストップ、ストップ!」
「シンシアさん!? これは正当な罰よ!」
俺が目を開けると、慌てた様子で友莉が頭上に上げた腕をつかむシアの姿があった。
「うん、それは分かるんだけど……今のユウトにそれやると、痛い思いするのユリの方だよ?」
「……は?」
友莉がキョトンとしながら瞬きを繰り返し、奏と俺も首をかしげる。
「ど、どういうこと?」
シアはにっこり笑って説明を始めた。
「えっとね、今のユウトには【天龍燐】ってスキルがあるの。これはね皮膚の上に薄く魔力――というか、ユウトの場合は竜力の鱗で覆われてるんだよ!」
「……鱗?」
「そう。このスキルって衝撃を受けると、自動で防御しちゃうの。しかも、ユウトのは通常の龍燐よりもはるかに硬いんだよね!」
「えっと……それってどのくらいなの?」
「人間族を基準にするなら、一枚で宮廷魔導士の上級魔法を十発くらいは耐えられるかな。しかも割れてもすぐ再生するから、普通の攻撃はほとんど通らないよ!」
シアの答えに友莉と奏は不思議そうにしながら俺を見ている。俺は自分の身体を見ながらシアに聞き、その性能が予想以上だったことに驚くしかなかった。
「……なにそれチートすぎるんだけど!」
友莉がめちゃくちゃ呆れた声を出す。
≪いや、お前のスキル構成も大概だと思うぞ……≫
「だから、ユウトのやっちゃったことは今回は許してあげて? その代わりって訳じゃないんだけど、二人のスキルについて教えるから!」
そうシアは微笑みながら、不思議そうにしている友莉と奏を順に見た。
「ユリには、【鑑定】の注意点と出力調整の方法を教えてあげる。それから【偽装】の強みと組み合わせ方についてもね!」
「……偽装との組み合わせ?」
「うまく使えば、強者にも気づかれずにスキルを使えると思うよ! ユリならすぐに使いこなせるんじゃないかな」
「……なるほど、それは面白そうね」
友莉は腕を組んで何かを考えたあと、好奇心に満ちた顔で頷いた。
「そしてカナデには、私が【精霊の祝福】と【妖精の悪戯】の正しい使い方を教えるのはどうかな?。
それから――閉じたままの【霊視】のスキル、開眼を手伝ってあげるね!」
「えっと、霊子ってなんですか?」
奏は不思議そうにシアに問いかけると、シアは「あ、そっか!」と合点が言ったようにポンと手を叩いた。
「カナデにはね、【霊視】と【料理】と【歌唱】のスキルがまだ発現みたいだから、そのお手伝いと――あと、“特殊スキル”の使い方も教えてあげる!」
「ほ、本当ですか!?」
奏は、自分にまだスキルが眠っていることに驚く。
それは友莉も同じだったらしく、「まって!アタシそれ知らないんだけど!?」と奏よりも驚いていたが見えなかったのだろうか?
「それは竜眼が通常スキルより強い特殊スキルだからだよ!」
「あぁ~だから俺にも見えたのか!」
「な、なるほど……つまり二人はアタシが見えない部分まで見られてるとはね。恐れ入ったわ」
さらに呆れた表情になる友莉に、シアが優しく笑う。
「もちろん。二人とも素質はスゴイと思うよ!私が少しアドバイスするだけで十分に強くなれると思う!」
シアがそんな風に二人に教えている光景を見ていると、胸のあたりがチクリと痛んだ。
≪……ほんと、迷惑かけっぱなしだな俺≫
――――
シアからいろんなアドバイスをもらっていた二人の表情はさらに明るくなっていた。
早く試したくてウズウズしてるんだろうな。
「スキルって戦闘系しかないのかと思ってたけど、他にもあって良かったわね!」
「うん!料理は好きだから、それを補助してくれるのは嬉しいよね!」
「じゃあ今度、奏の部屋で料理と歌を披露してもらわなきゃね!」
「突然なに言ってるの友莉ちゃん!」
真っ赤になった奏を友莉がいじりながら楽しそうに談笑している。
ふと俺はシアに、なんで奏に発現しなかったスキルがあったんだと聞くと――
「たぶんだけど、こっちの世界の食材を使わなかったとか、曲を知らないとかじゃないかな?」
どうやら戦闘系のスキルと違い、生産系のスキルは実際にそういった行動をしないと発現しないらしい。
奏のスキルが発現していないのにレベルが高かったのは、向こうでやっていたけど、こっちではやっていないからだろう。
霊視については、先天的に特殊な瞳がないと発現しないらしい。
しかし奏の場合はこっちに呼ばれた時に精霊と妖精に気に入られたために手に入れた特殊な事例みたいだ。
「さて今回はシンシアに免じて許してあげる。だけど次やったら、アンタの黒歴史ばらすからね!」
「はい! 肝に銘じます!」
コ、コイツ、俺に物理が通用しないからって精神攻撃を仕掛けるとか悪魔か!
誰とも付き合いなかったはずなのに、なんで昔の黒歴史を知ってんだよ!
「そ、それから!」と奏が続ける。
「今日見たことは……絶対、内緒にしてね!」
「も、もちろん! 絶対言わないから!」
「むしろ忘れなさいよ!」
真っ赤な顔になって睨む二人を見たシンシアが「大丈夫!制御方法は私がしっかり教えるから!」と胸を張って宣言した。
しかしそれは――
「な、何かしらこの敗北感は……」
「友莉ちゃんはスタイルいいよ……私なんて……」
シアに教えてもらっている最中に二人は仲良くなっていたせいか、豊満な胸を持つシアの行動は二人にとって勝利宣言をされていると思ったに違いない。
「え?え? いきなりどうしたの二人とも?」
「シンシアちゃんは何も悪くないよ……」
「そうね……ちょっと現実の残酷さを知っただけよ……」
「えぇ~……」
シアは視線で俺に助けを求めるも、どうすることもできないと静かに首を横に振ることしかできなかった。




