19.定番の水晶クラッシュ!陰キャ勇者はチート級!?
これから起こるであろうトラブルを想像すると、どうしても足は重くなってしまう……。
しかも回避不可なんだから笑えない……。
「ドキドキワクワクするイベントが、ドキドキハラハラになるなんて誰も想像できなかっただろうなぁ……」
自嘲気味に呟きながら壇上を歩き、前の四人が検査を受けた時と同じ立ち位置に立つと、視線が一斉に俺へ集中する。
≪うわぁ~……。これまでの人生でここまで注目されたことあったっけ?≫
心臓がバクバクいっている。冷や汗が背中を伝って、服がじっとり張りついた。
よく他の四人はこんな状況で平然と検査できたよな……。いや奏はかなり緊張してたっけ……。
俺が属性を知るための水晶に手を伸ばそうとした瞬間――
「勇者様、少しいいですかな?」
司祭の制止の声が響き、俺は思わずピタッと手を止めた。
「えっと……どうしたんですか?」
「確認なのですが……ユウト様で合っておりますな?」
「そうですけど……」
俺が怪訝そうに返すと、司祭は深く頷いた。
「では、今から結界を張りますので、もう少しお待ちください」
そう言ったお爺さん司祭は持っている錫杖の柄で床にコンッと叩く。
瞬間――壇上全体が淡く光に包まれ、ドーム状の透明な膜が俺たちを覆った。
「な、なんだ……!?」
「結界……だと?」
ざわめきが観客席に広がり、俺自身も何が始まるのか頭の中はクエスチョンマークが乱立している。
大きな騒ぎにならないのはおそらく、観客側でもより豪華な場所に座っているお偉いさんが騒がなからだろう。
俺はシアたちの方を見たが、彼女たちにも慌てた様子はない……。
「フォッフォッ! 驚かせてしまいましたな」
お爺さん司祭は穏やかに笑い、俺に説明を始める。
要約すると――
・俺の中にある魔力――じゃなくて竜力は膨大であること
・竜力は扱いが難しく、魔脈が活性化することで暴発する可能性があること
……と言うことをあらかじめエリオスさんが伝えてくれたらしく、この結界はその安全策らしい。
≪つまり俺は“危険人物”ってことですね?泣きたいです!≫
思わず漏れそうになった心の声を飲み込みため息を漏れる……。
「何かあっては困るという心配もありますからな……」
「……ですよね」
俺が落ち込んでいると、司祭が穏やかな雰囲気で言葉を重ねる。
「ですがなユウト様。 今は危険でも、将来的に扱えるようになればそれは素晴らしいあなたの力になる。その力に汚点を付けないための処置であり……それだけ期待されているということも心の隅に留めてください」
そう、にこやかに告げる司祭に、俺の心を少しだけ軽くしてくれた。
「ありがとうございます!」と、俺がお礼を言うと、司祭は満足げに頷く。
再び目の前の水晶を見下ろす。
≪まずは属性診断の水晶だな。……ヴェルミナさんの話じゃ、魔力の代わりに竜力で満たされている俺は固有属性――竜属性になっているだろうって話だけど……≫
これまで見てきた四人は、それぞれ赤、青、茶、紫、緑、白、黒と色を変えて光った。
基本は七属性――火・水・土・雷・風・光・闇らしく、また氷や炎といった上位属性は、今の人間の技術じゃ測れないと聞いている。
≪つまり無反応の可能性もあるってことか……。いや、それならそれで面倒ごとになりそうだけど、少なくとも誰も割っていない水晶が割れるよりはマシだよな!≫
そう祈るような気持ちで、俺は慎重に水晶へ手を伸ばしていく。
≪……あ、でも水晶が割れるとしたら、魔力量測定の方じゃないのか?≫
そんなことを思ったのがフラグだったのかもしれない……。
――俺の手が水晶に置かれた瞬間。
バンッ!!!
耳をつんざく爆裂音が響き渡り、目の前の水晶が一瞬で粉々に砕け四方へ飛び散り、その衝撃波で近くにいた司祭は後方に押しのけられ、その顔には露骨な動揺と驚愕を浮かべている。
「うわっ――!」
「きゃあっ!」
「な、なんだこれは――!」
俺は驚いた声を上げたが、同時に暗く濃い青紫の稲妻が俺の身体からほとばしる。竜力で作られたそれはバリバリと音を立てて壇上の床を焦がし、時には破壊したことで観客席からは悲鳴とざわめきが重なり合い、会場は一瞬にして混乱に包まれていった。
この時の俺は気づいていなかったが、どうやら司祭の結界は俺の竜力によってあっさり砕け散っていたらしい。
本来なら結界に弾かれて収まるはずが、それを無視して広がった光景に、司祭が唖然とするのも当然だろう。
≪ちょ、待てよ……もうこれ“普通の勇者”じゃなくて、“終末の魔王”って言われてもおかしくないんじゃね?≫
幸いなことに、見守っていた観客たちに被害は一切出なかった。壇上の床へのダメージがスゴイことと、二つの水晶とその台座が破壊されたが、観客席の貴族たちには怪我一つない。
その理由は――
「大丈夫かい、ユウト?」
俺の前に立つエリオスさんが、穏やかな笑顔で問いかけてきたからだ。
いやいや、この状況でその笑顔は反則でしょ!?
「えっ……エリオスさん!?」
「いやぁ~こうなることは予想はしていたからね。念のために、司祭殿の結界の外側に僕の結界を重ねておいたんだ」
「……ま、マジですか」
つまり想定の範囲内だったらしい……。
被害が出なくて良かったけど、あらかじめ教えてほしかったなぁ……。
「シアからユウトにどれだけの力が流れているのか未知数だったからね。念のために姉さんも結界を重ねてくれて、シアにも君に流れる力をセーブしてもらっていたんだよ!」
万全のフォロー体制に驚きながらも、「と、とにかく助かりました……!」と言い、俺はその場にへなへなとしゃがみこんだ。
「まあ、後のことは僕たちに任せてくれていいよ!」
被害は抑えられたとはいえ、魔力を検査するための水晶やその周囲を見て俺は顔を引きつらせながら「よろしくお願いします」とエリオスさんの言葉に甘えることにした。
それを聞いたエリオスさんは穏やかにうなずくと、少し離れた位置にいるお爺さん司祭に声をかけに行った。
どうやらこのお爺さんもエリオスさんの結界に守られて無傷で済んだらしい。
ただし本人はフリーズ状態で、目を見開いたまま固まっていた。
エリオスさんが苦笑を浮かべて声をかけると、やっと我に返り、「た、助けてくださりありがとうございます」と頭を下げていた。
しかし、その間にも観客席は大混乱だ。
「な、なんだったんだあれは……!」
「魔力暴走か!?」
「ば、馬鹿を言うな! あれほどのものが魔力暴走なものか!」
「ひぃっ……だ、だがもし制御できれば、最上級の力になるぞ……!」
「ぜ、是非にこの身で味わってみたい……」
恐れ、驚き、打算が入り混じった声が飛び交う。
……最後、変な扉を開いた奴いなかったか?
「ユウト!」
と、声がした方を見ると、瞳をキラキラ輝かせたシアが今にも駆け寄って来そうになり――
ドゴン!!
ヴェルミナさんの鉄拳制裁を受け床に顔面ダイブしていた。
「この光景っていつもなんですか?」
そう俺がエリオスさんに聞くと、「ユウトに関係することに対してくらいかな」と苦笑しながら答えてくれた。
俺はこれからのことを考えると頭を抱えたくなったけれど、あの無邪気な笑顔を見るとそれもいいかと思えてしまう。
≪……何にせよ、大きな被害が出なくて良かった。……まあ完全にモブルートに戻ることはできないだろうけど……≫
ため息をつきながら、粉々になった水晶の残骸を見下ろした。
≪まずはシアから貰った力を制御できるようにならないとな!≫
陰キャの俺をあんなに慕ってくれるシアたちに、少しでも答えたいなぁと思い始めるのだった。




