18.ついに始まる魔力検査!ドヤ顔する奴は前座が定番!?
「ほれ、お主たちは前に移動せよ」
ヴェルミナさんがひらりと手を振り、俺たちは返事をして壇上前へ向かう――が、彼女はふいに俺を呼び止め、無装飾の銀の指輪を差し出した。
「え、えっと……これ、なんですか?」
俺がそう問いかけると、彼女は口元を近づけ、小声で囁いた。
「隠蔽の指輪じゃ。お主のスキルは――知られん方がよいからな」
「……!」
俺のスキル群が周りに知られた時のことを想像して思わず息を呑んだ。
確かに、あのチートスキルのフルコースは隠すに越したことはないだろう……
「助かります。ありがとうございます」
「右手の薬指につけるがよい。誰かに問われたら、シアとの婚約指輪と言えば済むじゃろ。シアにも同じ物を渡しておくからの!」
そう言い残し、去っていく。最後の部分を口にするときは表情が柔らかくなっていたので、俺とシアの関係を祝福してくれているのだろう……。
≪エリオスさんも、ヴェルミナさんもなんでそこまで乗り気なんだろ?≫
祝福されるのは嬉しいけど、俺とシアが出会ったのって昨日なのだ。普通は不安になるもんじゃないか?
俺はとりあえず言われた通りに指輪を右手薬指にはめると、シュッ、と指に吸い付くように収まった。
≪魔法ってスゲェな≫
さっきまでの疑問はたったこれだけで吹き飛んでいってしまった俺は、やはりファンタジーに興奮しているんだろうな。
余談だけど、俺のすぐ隣で当然のように一緒に前へついて来ようとしたシアは、ヴェルミナさんにガッシリと腕を掴まれて連行されていった
「え、ちょっと! 私もユウトと一緒に――!」
「席は別に用意してあるし、言うことを聞かんのなら、ユウトとの婚約指輪を渡さんぞ?」
「そ、それはダメェー!!」
シアは慌てながら「ま、また後でねユウト!」と言って、ヴェルミナさんに腕を引かれながら去って行った。さすが、姉と言うべきなのか、扱いが上手い……。
そんな様子を苦笑いしながら眺めている俺に、隣に来た友莉が、「なにボケっとしてんのよ」と、呆れたように声をかけてきた。
前を見ると、義孝と奏は少し離れた位置を歩いている。
「ヤベ!」と言って、俺も前へ移動を始めた。
友莉は俺の隣を歩きながら、ジトーっとした目を俺に向けて来る。
「影の薄い隠キャが異世界召喚で目立つのは定番だけどさ……アンタの場合、目立ちすぎじゃない?」
「……好きで目立ってるわけじゃないよ」
「ふーん……」
意味深な目で俺を上から下まで眺める友莉。
いや、その「ふーん」の中身を言ってくれよ。気になるだろ。
――――
俺たちが少し高くなっている壇上の前まで来ると、白い司祭服に白髭をたっぷり蓄えた――いかにも聖職者、という老人が口を開く。
お爺さん司祭は簡潔に挨拶し、「適正魔力測定」の説明をした。
・この世界の誰もが魔力を持つが、魔脈を活性化しないと使えない
・スキルも魔力が通っていないと発動しない
・二つの水晶に触れて、①適性属性 ②概ねの魔力量 を測る
・ステータスプレートは『ステータス』で出現。他人へ提示可/心で念じれば自分の頭にも映る
俺は右手の指輪を見下ろす。――つまりこれは、ステータス表示やスキル鑑定の際に指定スキルを隠せる便利アイテム、ってことだ。
「ヴェルミナさんに感謝だな!これがなかったら面倒ごとになってたぞきっと……」
試しに心で『ステータス』と念じる――が、何も起きない。
≪なるほどな。魔脈が活性化してからじゃないとダメか≫
「では、順番に前へ」
そんなことを考えていると、司祭が「では、順番に前へ」と声を掛けた時には、すでに獅童が壇上中央に置かれた二つの水晶の前に向かっていた。
……よし、この際もう名前呼びでいい。何かあっても友莉がフォローすると言ってたし。
「はやっ!?」「くぅ、先越された!」
隣の友莉が唇を尖らせる。――いや、俺は最後確定だからどうでもいいけど。
まず獅童は属性水晶に手を置く。瞬間、赤・茶・緑の三色が同時に浮かぶ。獅童は集まった人たちに水晶が見えるよう誘導されていたため、壇中央の光は周りの貴族たちにもはっきり届く。
「ふむ、三属性か」「珍しいが……少し期待しすぎていたかもしれん」
ざわめきが起き、獅童の眉間に不機嫌の皺が寄る。
――続けて魔力量水晶。触れた瞬間、白い光がぶわっと広がり、壇上前の貴族たちが驚きの声を上げる。
まるで部屋の照明を一斉につけたみたいに、十分に眩しい。どうやら魔力量は貴族たちの予想を超えてかなり優秀みたいだ。
そんな周りの反応に満足したのか、獅童はドヤ顔で戻っていく。
≪うわ……試し撃ちの的にされませんように≫
俺が顔を引きつらせている間に、友莉が勢いよく手を挙げて前へ。
「今度はアタシ!」
友莉は二つの水晶みてから、属性の水晶に手を置く。すると獅童より多い色が次々に灯りだした。
「おぉ〜!」「す、素晴らしい! 五属性など大賢者様にも比肩する快挙じゃ!」
友莉が「よっしゃ!」とガッツポーズ。続けて魔力量へ手を添えると――
正面ハイビーム級の白光。「目が目がぁ~!」と言いたい気持ちをグッとこらえた俺は偉いと思う。
その光の発生源にいる友莉が、あまりの眩しさに思わず手を離したことで光が収まったが――
今度は「おおおおお……!」というどよめきが広間を揺らした。
≪前座が獅童って言われても反論できないやつ……≫
そっと獅童に目をやる。
≪うっわ。眉間の皺、さっきより深い≫
そんな獅童には気づかずに「すごいね友莉ちゃん!」とスキップで戻って来た友莉を、奏がはしゃいで迎える。
義孝は「俺も続かないとな!」と壇上へ向かって行った。
さてと、一体どんな結果を出すのやらと眺めていたら、唐突に「マジで?」と隣から声がした。
俺はそちらを向いて見ると、友莉が額に手を当てて何やら考え込んでいた。
「どうしたんだよ?」
「い、いや! なんでもない! 気にしないで!」
「いや、気になるわ」
「いいから、ほら! 義孝の属性がわかったみたいよ!」
そんな俺の疑問に友莉は答える様子がなく、慌てて話題を逸らしたのでこれ以上はやめようと俺は壇上の様子に意識を向ける。
どうやら義孝は六属性なようだ。続いて魔力量は――友莉より一段弱いが、それでも広間に驚嘆が走る。
さすが主人公……と俺が感心していると、友莉が小声で「えぇ〜……どういうこと?」と首をかしげる。聞くなと言いながら気になることを投げるのやめてくれよ……。
そんな友莉への疑問が残るものの、義孝が戻ってきたのでそれぞれに声をかけた。
「よ! さすが王子様」
「王子様呼びはやめてくれ、悠斗……まあ、友莉ほどじゃないが悪くない結果でよかった!」
「二人ともすごすぎて緊張しちゃうよ……」と不安げな奏に、義孝が笑って励ます。
「大丈夫! 何かあっても義孝に丸投げすればいいのよ!」
「それ、励ましじゃないよ友莉ちゃん……」
そんなやり取りをしてから奏が水晶の前へ移動する。結果は三属性の適性があり、魔力量は義孝と獅童の中間くらいだったのだが、その光は柔らかく、森林浴をしているような雰囲気が漂った気がした。
≪他の三人とは違うように感じたけど気のせいか……?≫
俺はそんな疑問を顔に出さないようにして、ほっとし顔で戻って来る奏を出迎えることにした。
その後は俺を除いた三人で談笑。――で、俺はというと。
「……はぁ。重い」
壇上へ向かう足取りは、まるで処刑台行きの囚人。何かしらのトラブルが起こる――全会一致で予想されているのだから、仕方ない。
「どんなトラブルが起きるのかあらかじめわかっていたら……いや、どちらにしろ嫌すぎるな」




