17.勇者集結と残念皇女、検査前のカオス劇
――この感覚は一体なんなんだろう。
義孝に見せていた威厳ある皇女姿から一転、俺に向ける笑顔は無防備で……なんだか、ペットが飼い主にだけ甘えるみたいに態度を変えるのを見て、ほっとするような安堵感が胸に広がった。
ついそんな風に思ってしまったせいか、彼女の背中に犬の尻尾が幻のように見えて――思わず手を差し出してしまう。
「シア、お手!」
「わんっ!」
ノリノリで返してくるシアが可愛すぎて、俺は心の中で吹き出した。
≪……やべぇ、なんかめちゃくちゃ楽しい!≫
シアが次は?次は?と言うような期待の満ちた目を俺に向けて来る。
すると、彼女の後ろから――「お主たちはいったい何をしておるんじゃ……」と呆れたような声が聞こえた。
ビクッと肩を跳ねさせ、声のした方に視線を向けると、呆れた顔のヴェルミナさんと苦笑いのエリオスさんが立っていた。
「ユウト、これでもシアは皇女だからね。そう言うことは人前ではやらないようしてくれるかい?」
「あはは……すみません」
「それとシアは、ユウトを見つけたからって飛びつきに行かないこと!」
「居ても立っても居られなくてつい……」
そうエリオスさんに俺とシアが注意を受けてしまった。
ふと、服が引っ張られ「ちょっとユウト!?」と友莉が小声で呼びかけて来た。
どうやらなぜ俺が他国の皇族と仲がいいのか気になったらしい。
「あ〜、一応紹介するな、この娘はシンシア、さっき義孝に挨拶していた通り竜皇国ヴァルゼリオンの第二皇女様だよ。それからこちらの二人が皇太子のエリオスさんでシンシアのお兄さんとエリオスさんの姉のヴェルミナさんだよ」
そう言った後、≪あれ?普通こういうのって、まず自分側の友達を紹介するんじゃなかったっけ?……まあエリオスさん達は気にしてなさそうだしこのままいくしかないよな≫と思い、同じように皇族の三兄弟にも奏と友莉を紹介する。もちろんこっちは丁寧語を使ってだ!
「皆さんとはちょっとした事情があって仲良くなったんだよ」と、理由は詳しく話せないのでにごした。
義孝の紹介は別にいいだろ。さっき突き飛ばされたし……。
そんな義孝はシアの挨拶を受けてからポーっとフリーズ中である。奏に声をかけられてようやく再起動したのかこちらに近づいて来た。
「え〜と、悠人がシンシアさんたちと仲良くなったのはいいんだけど、そのシンシアさんがすごく不機嫌な顔をしてアンタを見てるわよ……?」
と、言われシアの方を見ると、いかにも私不機嫌ですと言わんばかりに頬を膨らませて不満そうな顔をしていた。
慌てて、「どうしました?」と声をかけたら「け・い・ご!」返されてハッとする。
「えーと、わかった!これからは無くすから機嫌直して!」
「ホント!?ホントにホント!」
と、まるで子供のようにはしゃぐシアに、年貢の納め時かと諦めて敬語をやめることにした。
あ、ヴェルミナさんとエリオスさんも?……もうどうでもいいよと、諦めることにする。
「なんでアンタは、召喚されて早々に主人公してんのよ?」
「俺が聞きたいよ・・・」
こう言うのは義孝の役目だろうにと思いそちらに向くと、シアの皇女モードと残念モードの差についていけなかったのかまたもやフリーズしていた。
正直、こんな光景は向こうで絶対に見ることはなかったろうと思う。友莉なんかはそんな義孝を気にも留めず、早々にシア達との会話を楽しみだして、奏はそんな固まってしまった義孝にアワアワしている。
途中、ヴェルミナさんが友莉の顔を間近でジッと見つめて、「お主……どこかで見たことあるような……」と呟き、クールビューティーな顔が急接近したことで友莉が真っ赤になると言うハプニングも発生した。
そんなやりとりをしていたら、突然ーー
「おい隠キャ!テメェ昨日はずっと引きこもってやがったのか?せっかく探してやったのによぉ!」
とか言ってくるトラブルメーカーこと赤城 獅童が乱入して来た。
なんと言うかイベント大量発生でまだお昼にもなってないのにお腹いっぱいだ。
「ん?へぇ〜いい女連れてるじゃねぇか!俺にも貸してくよとシアに近づき手を掴もうとする。」
それを止めに入ろうとしたら、また義孝が割り込み「やめろ!」と赤城の手を掴む。
「んだよ王子様?テメェには関係ねぇだろ!」
「そんなことはない!彼女は俺の友人だ!」
と、赤城と義孝の睨み合いが始まるのだが、そこに慌てて友莉と奏が二人を止めに入った
「二人とも落ち着きなさいよみっともない!」
「そ、そうだよ!今はたくさんの人も来てるんだよ!」
そんな二人を外野は黙ってろと怒鳴る赤城にさらにキレる義孝。
「その辺にしてもらえるかな」と、エリオスさんが二人の横までやって来る。
「まったくじゃな、おなご二人が止めようとしておるのに、恥ずかしくないのかお主らは・・・」
俺も止めに入れば良かったのだが、見事に出遅れてしまった……
そんな二人にくってかかろうとした赤城に、エリオスさんはにこやかに威圧して、ヴェルミナさんは隠そうとぜず睨む。
その圧力にさすがの赤城もうっとなり黙ってしまった。
≪無理もないだろう。二人とも、見た目人間でも竜だし……≫
一緒に威圧されていた義孝も、少し青い顔をしている。
そんな二人の様子をみた龍のお二人は威圧を解き、エリオスさんが口を開いた。
「まあ君たちが妹を気にいるのはわかるけど、彼女は皇族だよ?それも、君たちを保護しているこの国よりもずっと影響力が強い竜皇国のだ」
「だからなんだってんだ?こっちとら誘拐されてんだぞ?」
そう赤城が文句を言うと、バカバカしいと今度はヴェルミナさんが口を開く……
「だからこそ、妾たちは礼を尽くしておろう?お主の行動はな、普通なら首が飛ぶようなものじゃ。例えこの国の王族であっても、飛ぶのが掴もうとした手に変わるくらいの違いじゃぞ?」
そう言われた赤城は「ぐぅ!」と言った後、チッ!と舌打ちして、踵を返す。
「わぁったよ!」と、この場から離れていく。去り際に「オイ隠キャ、テメェは後で覚えとけよ!」と、不穏なことを捨て台詞にして……。
≪俺、なんもやってないんだけど……≫
義孝はフンと鼻を鳴らして赤城の方を一瞥した後、さわやかな笑顔でシアに向き直り、「大丈夫かい?」と声をかける。
――けど。
当のシアは騒動が始まると俺の横にスッと移動していた。今はというと……チラチラこっちを見ては顔を赤くして、また視線を逸らすを繰り返している。
「……? 聞こえてないのか?」
義孝は首を傾げて不思議そうにしているが、たぶん聞く気がそもそもないのではなかろうか。
その様子を横で見ていた友莉は、必死に笑いをこらえながら――
「ぷっ……だ、ダメ……おもしろすぎ……」と小声で震えているし、
奏は「え、えぇ〜と……」と困ったように目を泳がせている。
さらに、エリオスさんは苦笑いで肩を竦め、ヴェルミナさんは深いため息。
「やれやれ……」と声に出すあたり、完全に呆れモードだ。
完全にカオスな空間に、もう好きにしてくれと考えるのを放棄した瞬間――
周囲がざわつき始めた。
「ん? なんだ?」
思わず俺も顔を向けると、視線の先――三段くらい高くなっている壇上に白い司祭服のようなものを纏った、白髭の長いお爺さんが現れていた。
「どうやら始まるようだね」
エリオスさんが静かに呟く。
ついに――俺たちの魔力適性検査が始まるようだ。




