16.ティータイムの爆笑、検査会場はプチ修羅場?
食事を終えると、すぐに食器は片付けられ、入れ替わりに香りの立つお茶が並べられた。
湯気が立ち上るのをぼんやり眺めていると、メイドさんが恭しく一礼しながら告げてくる。
「皆様、この後に適正魔力の検査を行うことになっております。お時間が来ましたら私共が呼びに参りますので、どうかこちらでお待ちくださいませ」
「わかりました」
義孝が代表して答えると、メイドさんは再び丁寧に頭を下げてから去って行った。
――残された俺たちの間に、ふっと会話の間が生まれたので紅茶を一口……
≪うんっま!≫
周りを見ると、皆もそう思ってるのか紅茶を楽しんでいた。
その中で、ティーカップを静かに置いた義孝が口を開く。
「……奏も、友莉も。もう大丈夫か?」
二人まとめて気遣う声音。さすがイケメン、抜かりがない。
奏はピクッと肩を震わせ、頬を赤く染めながら小さく俯いて――
「う、うん……友莉ちゃんが励ましてくれたから。これからのことは不安だけど……もう大丈夫だよ!」
と、少し照れ笑いを浮かべて答えた。
その表情には、義孝に心配してもらえたことへの嬉しさがにじんでいる。
「……そっか。良かった」
義孝も安堵したように微笑む。優しげなその顔を見た奏の頬はさらに真っ赤になっていった。
≪おいおい、朝から少女漫画のワンシーンか?≫
場違い感すら覚える俺である。
一方その隣で、友莉は腕を組んでふんぞり返り――
「アタシ?アタシはもちろん大丈夫!むしろ異世界ライフを全力で楽しむ気マンマンだから!」
≪そしてその空気をぶっ壊してくれるお前は尊敬するよ!≫
力強く宣言してみせた友莉に心の中で感謝した。あの空気の中に居続けるのはちょっとね……
「二人が大丈夫そうで安心したよ!悠斗はどうだ?」
なぜか俺にも目を向けて「大丈夫か?」と聞いてくる。
俺はとっさのことに驚くも「あ、あぁ、俺も大丈夫だよ!」と答えた。
すると、それならよかったと笑顔で返事をしてから、少し気まずそうな顔で続ける。
「それにしても悠斗が……来てくれて助かったよ」
「へ?」
不意打ちの言葉に、思わず間抜けな声が出た。
「不謹慎な言い方だけどな。同じ日本から来た同性の仲間がいるってだけで心強いんだ。」
「どういうことだ?」
俺は思わず首を傾げる。何がだ?と聞こうとしたところで、隣の友莉がニヤニヤと悪い顔をした。
「なに? アンタ、そっちの趣味があんの?」
「ちょっ……やめろ! 俺を巻き込むな!」
慌てて全力で否定する俺。なんで矛先が俺に来るんだよ!?
すると、奏が「え……」と小さく声を漏らした。視線をそちらに向けると、まさかのショックを受けている表情。
「ちょ、奏!? いや違うからな! そもそも意味わかってんのか!?」
俺が必死に弁解する横で、友莉は肩を震わせてクスクス笑っていた。
「ぷっ……あははは! いいリアクションするわね、悠斗!」
コ、コイツ完全に楽しんでやがる……。
奏が慌てて止めるけど、頬は真っ赤。
≪いやいや、奏さんや……もしかしてお腐りになってます?≫
そんなことを考えていたら、友莉が俺を見て親指と人差し指を少し離した状態でウインクしてくる。
≪ちょっとだけって……親友になにを布教してんだよ!≫
そんな俺たちのやり取りを義孝は不思議そうに見ている。
「お前たちはなんでそんなに騒いでるんだ? 俺が言いたいことは同郷の同性じゃなきゃ伝わらないこともあるだろって言いたいんだけど……」
そんな義孝の答えに「ふーん……」と友莉は面白くなさそうに答え――
「ノリの悪いヤツね」と付け加えた。
お前は俺たちに何を求めてるんだよと朝から疲れた心を紅茶を飲んで癒すことにした。
お?少し冷めててもそれはそれでうまいな!
その後は他愛のない雑談を四人でしていたのだが――――
「勇者の皆様、大変お待たせいたしました」
さっきのメイドさんが再びやってきて、深々と一礼した。
「準備が整いましたので、どうかこちらへ。魔力適性検査の会場にご案内いたします」
ついに来たか……。
俺たちは顔を見合わせてから立ち上がり、メイドさんに導かれるまま検査の会場へと向かうのだった。
――――
入った部屋は「召喚の間」より一回り小さいくらいだった。
天井も少し低く、光の反射も柔らかい。けど、そこに集まっている顔ぶれはとにかく濃い。
「……なんか、存在感バグってる人しかいなくね?」
「……同感。正直、召喚の間より人数は明らかに少ないのに、その代わり、濃縮された感じよね」
俺は自然と小声になってしまう。そんな俺の言葉に緊張のせいか隣を歩く友莉の声も自然と小さくなる。
服装も雰囲気も違う。王冠を付けているのはこの国の国王様だけだが、全員が宝石や布地に至るまで高価な物だろうと予想できてしまう。多分、エリオットさんが言ってた通り、各国の王や高位貴族たちなんだろう。
そんなことを考えていたその時――
「ユウトーっ!」
甲高くて元気な声が響いた。思わずビクッとする。いや、これ……昨日も聞いた気がするぞ?まさかのデジャブ?
視線を向ければ、光の加減で淡い桜色にも見える明るい銀髪をなびかせた少女が、笑顔でこっちに飛びついて――
ズベシャ!
「ふぎゃ!!」
短い悲鳴とともに、彼女の顔は漫画みたいに床に激突した。
≪仮にも皇女様が出していい声じゃないよなぁ……≫
見ると、彼女の足をがっちり掴んでいるもう一人の銀髪美女――ヴェルミナさんが呆れ顔で立っている。
「……お姉さま……?」
ヴェルミナさんが掴んでいた手を放すと、シアは地面に座った状態になって抗議をしだした。
「と、止めるにしても足を掴むのはダメだと思うの! 私、もう何度も地面や机とキスしてるんだから!」
泣きそうな声で訴える姿に、周囲の偉い人たちも目を丸くしている。いや、まずは立ち上がろうよシア……。
「……仕方ないなぁ」
俺は溜め息をつきつつ、シアに駆け寄ろうと足を踏み出す――その時。
「うおっ!? わっ!」
不意に背中を押され、俺はバランスを崩して前につんのめった。
危うく俺まで顔面ダイブするところだったじゃねぇか!と突き飛ばしてきた犯人の方を向くと――
「だ、大丈夫か? さぁ、俺の手を掴んで」
さわやかスマイル全開で手を差し出してきたのは――義孝だった。
≪おいおい、なんでわざわざ俺を突き飛ばしてラブコメ展開作ってんだよ!?≫
意味が分からずツッコむ俺をよそに、義孝はキラキラとした笑みを浮かべている。
……その笑顔の奥にほんのわずかな焦りと嫉妬があることに気づいたのは、友莉と竜族の三人だけだった。
「……その制服……」
だがシアは、義孝の手を取らず、じっと彼を見つめて小さく呟いた。
「あ、ああ。俺は天条院義孝。この世界に呼ばれた勇者の一人だ。よかったら義孝って呼んでほしい」
イケメンボイスで名乗りを上げる義孝。普通なら少女漫画みたいに「キャー!」ってなるか、真っ赤になってうつむく場面だと思う。
……が。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
シアは彼の手を取らずスッと自分で立ち上がり、優雅な動作で裾をつまむ。誰が見ても完璧なカーテシーを披露した。
「お初にお目にかかります。私はヴァルゼリオン竜皇国の第二皇女、シンシア・ヴァルゼリオンと申します。勇者様方には大変なご迷惑をおかけしていると思いますが、どうかお力をお貸しくださいますよう……よろしくお願いいたします」
その姿――まるで別人だった。
昨日まで俺に全力で飛びついてきて残念さ爆発だった少女が、今は皇女としての威厳を纏い、堂々と振る舞っている。
「な……」
義孝は完全に飲まれていた。「あ、ああ……精一杯頑張るよ」と、それしか言えずに固まっている。
対してシアは「ありがとうございます」と上品に一礼し、スッと彼の横を通り過ぎ……すたすたと俺の方へ。
「ユウト! 昨日ぶりだよね! 会いたかったよ!」
さっきまでの雰囲気はどこへやら。次の瞬間には子供のような満面の笑顔を俺に向けてきた。
≪う~む、初対面が初対面だからこっちの方がしっくりきてしまう……≫
そんなシアに、なんとなく胸の奥がじんわりと温かくなっていった。




