14.居留守失敗!?から始まる異世界女子会
「じゃあ義孝や他の人が来ても、しっかり居留守を使いなさいね!」
「うん、ありがとう友莉ちゃん」
「いいわよ、これくらい!」
そう言い残してから私は寝室を出て、隣の部屋を通り抜け、外へつながる扉に手をかけた。
――義孝ねぇ。
別にアイツが嫌いなわけじゃないけど、正直苦手だ。
武道をやっているせいかケンカでは負けないんだろうけど、やたらと自分から問題に突っ込んでいくあの性格がどうにも好きになれない。アタシなら周りに助けを求めるとか、別の方法を考えるもの。
それに……。
「自分が絶対正義って思ってるとこがねぇ~……」
小声でつぶやきながら扉を開け放った、その瞬間。
ゴンッ――!
「あうっ!?」
鈍い衝撃音と一緒に、女の子の短い悲鳴が飛び込んできた。
「えっ……?」
慌てて扉の外をのぞくと、金色のゆるふわなロングヘアの少女が額を押さえてしゃがみ込んでいる。
「だから言ったじゃないですか。扉の前でうろちょろしてたら危ないですよって……」
「うぅ~……」
隣には落ち着いた雰囲気のメイドさん。どうやら、この少女が入るかどうか迷って扉の前でウロウロしてたところに、アタシが勢いよく開けて直撃させちゃったらしい。
「え、え~とぉ……」
≪ちょー気まずいんだけど!!≫
頭の中で絶叫するも、口からは言葉が出ない。そんなアタシをよそに、メイドさんが少女を立たせ、こちらに向き直ってきた。
「勇者様。よろしければ中へ入れていただけますか?」
「え、あ、ど、どうぞ……」
突発イベントに思考が追いつかず、気づけば二人を部屋に招き入れてしまっていた。
≪奏に『知らない人を簡単に入れちゃダメ!』って注意したばっかりなのに、アタシがやらかしてどうすんのよ!≫
空気的に断れるわけもないわよね……
――――
扉が閉まり、部屋の中は三人きりになる。
「お初にお目にかかります、勇者様! 私、この国の第一王女、イリス・セレディアと申します!」
さっき額をぶつけた少女は、なんとお姫様だった。専属メイドらしき女性もすかさず頭を下げる。
「こちらは専属メイドのマリアです」
「はあ……これは、ご丁寧にどうも……私は羽里友莉です」
自分でも驚くくらい素っ気ない声が出た。≪なにそっけなくしてんのよアタシぃぃ!!≫と頭の中で悲鳴を上げつつも、緊張でどうしようもない。だって王族よ!?さっき全力でドアぶつけた相手が、よりによってこの国の第一王女だなんて……。
≪アタシ積んだんじゃないの……?≫
「ユリ様とおっしゃるのですね!」
そんな不安をよそに、イリス王女はにこやかに笑った。普通なら怒って当然なのに、この子はまるで気にしていない様子。その明るさに逆に面食らう。
「マリアにお茶の用意をさせていますので、少しお時間をいただけませんか?」
視線の先にはティーワゴン。香り高い紅茶と彩り鮮やかなお菓子が並んでいた。
「え、ええ……」
曖昧に返事しながらも、心の中では別のことが引っかかっていた。
――奏。
隣の部屋で泣き疲れて眠ろうとしている彼女のことが気がかりだ。それでも情報は欲しい。
だからこの機会を逃すわけにはいかない……。
私はちらりと寝室に目をやり、小さくため息をついた。
「……静かにしていただけますか?」
イリス王女は「はい、わかりました」と小さく答え、穏やかにうなずいた。
その仕草に思わず胸の内が少しだけ和らいだ。
≪意外といい人なのかも……?≫
そう思いつつも警戒は解かない。テーブルを挟んで向かい合い、メイドのマリアさんが紅茶を用意してくれる。
「それで、アタシたちにどんな御用ですか?」
そうアタシが切り出した後、紅茶をひと口。
≪うんま!≫
普段は紅茶なんて飲まないけど、これは絶対に高いやつだ。
≪さすが王族、庶民じゃ味わえないものを見知らぬ人間に出すとは……≫
そんな感想を胸にしまいつつ柄にもなく味わっていると、イリス王女が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「まずは、改めて謝罪させてください。いきなりこの世界にお呼びして、皆様の日常を壊すことになりました。本当に申し訳ありません」
「ちょ!?タンマタンマ!別にアタシは怒ってないから、頭を上げて!」
敬語とかタメ口とか、そんなの吹っ飛んで慌ててしまう。
「ですが……」
「まあ、確かに驚いたけど。そっちにも事情があったんでしょ?」
「はい。ぜひ勇者様方のお力をお貸しいただきたいのです」
「なら謝罪はいいから、その事情を教えて!」
……って言ったところで、ふと気づいた。
≪やば!王女様にタメ口じゃん! これ捕まったりしない?いやもう遅いかぁ……≫
冷や汗が止まらないアタシに、不安そうな顔を向けるイリス王女。
すると、横のマリアさんがクスクス笑いながら声をかけてきた。
「勇者様は国賓ですし、今の状況はこちらに非があります。さらに言えば、この場は非公式。イリス様は天然なお姫様ですから、勇者様とお話しできるのを楽しみにしていたんですよ」
「なので気にせず普段通りで大丈夫ですよ。舞い上がることはあっても、決して怒ることはありません」とマリアさんのフォローにイリス王女が――
「な、なにを言ってるんですかマリア!」と、顔を真っ赤にしてアワアワする。
そんなイリス王女の姿に、どことなく奏を重ねてしまったアタシの緊張は、いつの間にかどこかへ消えていた。
≪うん、この王女様――イリスは、めっちゃいい娘だ!≫
そう確信してマリアさんを見ると、彼女は得意げにウインクしてくる。どうやらこの専属メイドさん、とてもフレンドリーらしい。
なんか、アタシに似た雰囲気を感じるわ。
気づけば「イリスと奏を二人まとめてからかって遊ぶアタシとマリアさん」を想像して、思わず笑みがこぼれてしまった。
その様子を見たマリアさんは、ニコリと笑いながらイリスに向かって言う。
「ほら姫様、勇者様をほうっておいてよろしいのですか?」
「え? あ! も、申し訳ありません!」
慌てふためくイリスの姿に、アタシはもう緊張どころか笑いをこらえるので精一杯だ。
「いいよ気にしないで! それより、口調を崩すけど……不敬罪とかで捕まえない?」
軽口を叩いてみると、イリスは「そ、そんなこといたしません!」と必死に否定してくる。……ああもう、もっとからかいたくなるじゃないの。
そんなやり取りのうちに、気づけばお互い呼び捨てで話せるほどに打ち解けていた。マリアさんとも仲良くなったけど……イリスと並んでソファに座りお茶を飲んでいるけど、職務放棄を雇い主の前でしていいの? いや、アタシは構わないけど、ちょっと不思議な気分になる。
試しに「マリアさんってメイドだよね?」と聞いてみたら、「非公式の場なので問題ありません」と言って、自分で淹れたお茶を優雅に飲んでくつろいでいる。
「え、え~と……これ、どういう状況なのかな」
寝室の扉からひょっこり顔を出した奏が、呆れ顔でそう言った。そう、私たちは本題をすっかり忘れていたのだ。
どうやら奏は、アタシに居留守を使うように言われたのと、相手が王女様だと聞こえたらしく、泣きはらした顔を見せたくなくて出てこなかったらしい。でも、紅茶やお菓子の匂いと楽しげな雰囲気に、我慢できなくなったとのこと。
≪まあ、どちらにせよ奏が立て直せてよかった≫
そう思っていると、いつの間にかマリアさんが奏に近づいており――
「あらあら、せっかくの可愛らしいお顔が大変なことに……失礼しますね」と奏の顔にそっと近づけた手から柔らかい光が発せられる。
いきなりのことでキョトンとしている奏の顔は、マリアさんの手が離れると元の綺麗に治っていた。
アタシは、初めて見る魔法への興奮と、マリアさんのやさしさは同じ女でも見惚れるレベルだ。
奏はとっさのことに固まってしまっていたが、慌ててお礼を言った後アタシの隣に駆けよって来た。
≪このメイドさん、マジで有能過ぎないかしら……≫
マリアさんの優しさに感謝した後、イリスたちが来た理由を聞くことにした。
どうやら彼女たちは、奏が召喚の間で泣きじゃくってしまったのを心配して様子を見に来たこと。そして、この世界に呼んだことへの謝罪と、呼んだ理由を話せる範囲で説明してくれるという。
確かに理由を知っているのと知らないのとでは、気持ちの整理も全然違う。そうして奏を交え、イリスはこの世界の現状や抱えている問題、昔あった戦争の歴史などを王女としての立場から話してくれた。
≪準備の時間はまだ十分ありそうでよかった≫
アタシは「すぐ戦場に放り込まれない」と胸をなでおろしたけど、奏はやっぱり不安そうだ。
「今悩んでも仕方ないでしょ。それに面倒ごとになったら義孝を盾にすればいいのよ!」
「それは酷いんじゃないかな?」
「どうせアイツなら勝手に突っ込んでいくんだからいいのよ!」と、紅茶をひと口。
その後は、この世界の美味しいものや景色の話を聞かせてもらったり、私たちの世界のことを話したりして盛り上がった。途中で義孝が訪ねてきたけど、イリスたちの存在がバレるのはまずいし、奏もまだ会う気持ちの準備ができていないだろうから、アタシが追っ払ってやった。
――女子会に男子は不要よね!
義孝が来たと知ったとたん、イリスが真っ赤になって黙り込んだので、マリアさんが彼女の淡い恋心をあっさり暴露。イリスはアワアワするし、アタシも負けじと「奏も同じだよ」と暴露したら、奏が真っ赤になって「な、なんで言っちゃうの!」と涙目になっていた。
「では、このマリアが、皆さんに男性へのアプローチを伝授いたしましょう!」
ノリノリで言い出すマリアさんに、奏とイリスは真剣に耳を傾ける。
――そうしてアタシたちの女子会は夜遅くまで続いた。




