10.両手に花!?美人姉妹に挟まれて判明した力
俺はとんでもない女の子に気に入られたんだなぁと、改めて彼女を見つめた。
当の本人――シアは、ヴェルミナさんに頭を撫でられながら、まるで子犬のように嬉しそうに目を細めている。
「さて、話を戻すぞ」
シアの頭をなでていたヴェルミナさんは、そう言い俺に顔を向ける。
「ユウトに流れ込んだシアの力が、どう影響を与えたのか調べたいのじゃ」
「そ、それは……俺としてもありがたいですけど。何をするんですか?」
「お主の手を握り、妾の魔力を流して詳しく見る」
「……え」
ドキッとした俺は思わず体を硬直させる。これは必要なことだ、他意なんてない……と自分に言い聞かせているとヴェルミナさんが言葉を続けた。
「なにせ妾の竜眼をもってしても、まったく見えんからの」
「り、竜眼?」
「お主たちの世界で言うなら“鑑定スキル”といったところじゃな」
「あ、スキルとかあるんですね!」
スキル――その言葉に思わずワクワクしてしまうのは仕方ない。
オタク的に、異世界へ召喚されたのならスキルと魔法は外せないだろ!
「一応補足しておくと、スキル持ちは少ないよ」
エリオスさんが穏やかに続ける。
「才能がある人や、その道で修行をしてようやく芽生えるからね。だいたい1~3個くらいじゃないかな」
「そうなんですか?」
どうやら戦闘系のスキルは兵士や冒険者、生産系なら鍛冶師や薬師といった専門職に限られるらしい。
しかも全員が持っているわけではなく、戦闘系ならベテランと呼ばれるし、生産職なら貴族が抱え込むほどの一流の人たちだそうだ。
中には最初から持っている人もいるけれど、そう言う人は親からの遺伝で持ってたりで周りからも羨望を集めるそうだ。良い意味でも悪い意味でも……
「他の勇者はそれぞれ複数のスキルを持っておるようじゃがな」
「……なるほど」
やっぱり勇者は特別らしい。
俺が相槌を打つと、ヴェルミナさんは「それじゃこっちに来てくれ」と手招きしてきた。
え、ちょっと待って……もしかしなくても、あの美人姉妹の間に座れってこと!?
二人は俺が座れるように端に寄り、ヴェルミナさんはそこをポンポンと叩いて催促し、シアは目をキラキラ輝かせながら待っている。
≪俺にはハードルが高すぎる状況なんだけど!?≫
世の男性諸君!羨ましいと思うだろ?
だがな、相手は大人気アイドルや女優クラスの美人姉妹、しかも王族だ。
空腹状態で目の前に豪華な料理が並んでいるのに、手を付けたら不敬罪とか言われて首が飛ぶ可能性がある――
そんな状況が本当に羨ましいか?
一般的な高校生の俺には、これはまさに デッド・オア・アライブ的なシチュエーションだぞ!
誰かと交換できるならしたいけど、本音で言うともったいなくて交換したくないこの葛藤――分かってくれる人はきっと俺の同士だ!
「ほれ、なにをぼうっとしておる」
「ユウト、早く早く!」
二人の圧に屈し、緊張しながらその間に腰を下ろす。
シアはすぐに俺の肩へと頭を乗せ、幸せそうに目を閉じた。……が、彼女は知らない。
それが俺の理性をガリガリと削っていることを。
≪と言うか警戒心なさすぎません?≫
向こうの世界にいた時、イチャつくカップルを見ては「リア充爆ぜろ!」なんて思っていたのに、今の俺は完全に「両手に花」。
リア充爆発どころじゃない。免疫ゼロの俺の心臓が爆発する。
美少女と美女に挟まれて固まるのは、仕方ないと思うんだ。うん。
「さて、手を貸してもらうぞ」
「は、はいっ!」
「そんなに緊張せんでも良いのだがな」
反射的に裏返った俺の声にヴェルミナさんが唇の端を釣り上げ、「ククク」と笑う。
その声音だけで鼓動は早鐘を打ち、手のひらにはじっとり汗がにじんだ。
……俺、ほんとに生きて帰れるんだろうかとか考えていたら、「それじゃあ始めるぞ」と言い、ヴェルミナさんは俺の左手を両手で挟むように持ち目を閉じた
すると、そこから温かな何かが流れ込んでくるように感じた。
≪この感覚が……魔力なのかな?≫
多少の違和感はあるが、痛みも苦しみもない。むしろ不思議な心地よさに包まれていく。
右肩にはシアの頭と柔らかな息遣い、左手にはヴェルミナさんの手の温もりに包まれ、とどめとばかりに両側から漂う甘い香り――。
ラノベ小説なら間違いなく鼻血が出るシチュエーションに耐え抜いた俺は、ある意味で紳士だと思う。
目をきつく閉じて素数を数えながら必死に理性を繋ぎ止めていると、ヴェルミナさんがふぅっと息を吐いて手を離した。
「どうだった、姉さん?」
エリオスさんが問いかける。
ヴェルミナさんは少し考え込むようにしてから答えた。
「……これはまた……。エリオスよ、今回の国王たちと話し合う場には妾も同席しよう」
「そんなにスゴイことになってるの?」
エリオスさんが恐る恐る聞くと、ヴェルミナさんは真顔で告げる。
「スゴイなどという生ぬるいものではない。ユウトはほぼシアと同じスキルを持っておる。劣化版じゃがの」
「なっ……!?」
エリオスさんが目を見開き、「それはまた……すごいね」とつぶやいた。
俺は気が付かなかったが、周りの使用人の人たちも驚いていたらしい。
「えっと……すみません。話についていけてないんですけど」
俺は左手を軽く上げて言うと、隣のシアが「お姉さま、ここでは教えられないこと?」と尋ねてくれた。
「まぁ、ここの者たちなら問題なかろう」
ヴェルミナさんがそう言った瞬間、彼女の背後にスッと一人のメイドが現れ、俺は驚く。
近づいてきた音とか気配とかまったくなかったんだけど!
まるで最初からそこに居たかのようにさえ思える。
「ヴェルミナ様、結界の強化は終わっております」
「うむ、気が利くの!」
労いの言葉にメイドは一礼し、また音もなく下がっていく。
――異世界皇族のメイドさんって、スゲェ……。
俺が感心していると、ヴェルミナさんはさっきのメイドさんから書くものも受け取っていたらしく、俺のステータスを書き出してくれた。
どうやら口頭だけで説明しても分からないだろうと配慮してくれたらしい。
そうして書き留めた内容を見せながら真剣な顔で説明してくれる。
「まず竜族の特有スキルについて――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
唐突に声を張り上げた俺に、その場の全員が俺に視線を向ける。
いや、いきなり大声出した俺も悪いけど、全員で≪どうしたの?≫みたいな顔しないでほしい……
俺の隣に座っているヴェルミナさんは細い眉をひそめ、呆れたようにこちらを見てきた。
「……なんじゃ、いきなり大声を出して」
「いやいやいや! しょっぱなから“竜族の固有スキル”って言いましたよね!? 俺、いつ人間やめたんですか!?」
「ふむ……まあ、それも含めて後で説明するから待っておれ。 このままでは全然話が進まんのじゃ」
困ったように細い眉をひそめ、出来の悪い生徒を見るような目で俺を見てきた。
こっちとしては予想の斜め上を行っているどころか、天井を突き抜けたようなことを聞かされたんだから仕方ないだろ……!
「大丈夫、ちゃんとユウトの質問にも答えるからさ」
俺が不安そうな顔をしているとエリオスさんが宥めるように微笑む。
「そうそう、大丈夫だよユウト! 私もサポートしっかりするからね!」
シアが無邪気に俺の腕にしがみついて、にこーっと笑顔を向けてきた。
シアさんや……その二つのメロンに俺の腕を埋めないでもらえませんか?
俺のライフはどんどん削られて風前の灯火です……
「わ、分かりましたから……とりあえずシアは離れてくらないですか?」
俺がそう言うとすごく名残惜しそうに離れる。
あの、そんな上目遣いで見ないでもらえませんか?
そのやり取りにヴェルミナさんとエリオスさんが呆れたように笑うと――
「それじゃあ、簡潔に説明していくぞ」
ヴェルミナさんが椅子に深く腰を掛け、指先でテーブルをコツコツと叩きながら語り始め――
その内容を聞いた俺は、なにこのチートスキルはと唖然とするしかなかった。




