◆11
数日後アニメの納品を終えて俺たちは、大きな節目を超えたような気持ちで事務所で一息ついていた。
「社長、買ってきましたよ。はい社長はコーラ、タケノリ君はコーヒーね、はい」
手際よく缶を配ってナナは席についた。
「お疲れ、タケノリ、お前なら逃げ出すかと思ってたが、よくやり遂げたな。お疲れさん」
俺はタケノリに労いの言葉を投げた。
「ああ、まぁ俺の手にかかればこんなもんだ」
ナナにビンタされてからタケノリは割と大人しくなった。
「ナナちゃん、どう、夢を叶えた気分ってのはさ?」
「素直に嬉しいですよ。夢を叶えたことよりもタケノリ君が頑張ってくれたことがとても嬉しいです」
ナナははにかんだ笑顔を見せた。
「なんだそれ、自分の夢よりこんなイカレ野郎の頑張りのが上なのか?若い奴は分からないなあ」
「だれがイカレ野郎だ」
俺の発言にタケノリは食いつくが、他に誰がいると言うのか。
「正直夢を叶えたっていう実感がわかないんですよね」
ナナは困った顔でそう呟いた。
「やっぱり俺のアニメじゃダメだったか?」
ナナより深刻な顔でタケノリはナナに聞く。
「そうじゃなくて、私は私で今まで色々頑張ってたんだよ、今日私はアニメの声優をやったけど、それまでもドラマCDとかボイス素材とか売って頑張ってたんだよね」
「おっと・・・」
これは不味い展開かと俺は身構えた。
「今日私の念願は叶ったわけだけど、だったら今までの私は声優として成立してなかったのかも・・・なんて思うのは何か嫌だからさ、だから今日の所は私の夢よりタケノリ君の頑張りに乾杯って気分なわけ」
「・・・・・・そっか」
少し残念そうにタケノリは呟いた。
「何よりタケノリ君が頑張ってくれるほど私は良い女なんだぞって世に知らしめたいから、ね!」
「なんだよそれ!それじゃ俺が間抜けみたいじゃないか!」
タケノリの反応を見てナナは満足そうに笑った。
こうして便利屋ベンリマンは硬い絆で結ばれた感じになった。
その後タケノリはネットで仕事を募集し続けたが、安定的に仕事が来ることはなく、基本的に俺の補助とトイレ掃除が仕事の中心になって行った。
それは正直タケノリの理想に反することなのだろうが、それでも、彼は一つの目標を成し遂げたことでどこか満足そうに仕事をしていた。
そしてナナはタケノリと正式にお付き合いすることになるのだが、理想と現実のギャップが顕著に表れているらしく、タケノリが我慢に耐えかねて夜逃げすることがしばしばあった。
その都度俺とナナが力を合わせてタケノリを連れ戻すわけではあるが、男女の仲と言うのは好きか嫌いかで成立するほど甘くはないらしい。
ナナ曰く、巡り合うのは好きか嫌いかでいいが、いつまでも一緒にいるためには一緒にいる理由があるかないかが重要なんだとか。
最近は職場でよくそんな恋愛論について議論させられることが増えた。
面倒事は多いが、まぁ、なんだかんだ、便利屋ベンリマンは賑やかさが増していった。
結局のところタケノリの親父さんから300万円を貰うレベルにはタケノリは自立してはいない。
おそらく、まだまだこいつらと過ごす時間は続く事だろう。
早朝、事務所の電話が鳴り響く。
「はい、便利屋ベンリマンです。何かお困りですか?」
俺は電話の主に尋ねた。
電話でやりとりをして受話器を置く。
それを見計らったかのように事務所の扉が開いた。
「おはようございます社長?依頼ですか?」
「ああ、事態は緊急を要する、依頼者の自宅のトイレが逆流して床はクソまみれ、今も便所の水が吹き出しているらしい」
「そいつは大変だな。お前ひとりじゃ荷が重いだろう。床のクソは俺に任せろ」
タケノリも心強くなったものだ。
「よし、ベンリマン出動だ!」
今日も天元の街は救いを求める声で溢れている。
その声が鳴りやまない限り
俺たちは現れ続ける!




