◆10
タケノリはパソコンを必死に弄りながら何かを確認しているようだった。
「どうしたタケノリ?」
俺が問うとタケノリは我に返ったかのように咳払いをした。
「いやなに、俺に仕事の依頼が来たんだよ」
「へぇ、どんな仕事だ?」
「宣伝用アニメの作成、2万円の依頼だ」
「2万円?アニメってそんなに儲かるのか?」
タケノリは深呼吸をして微笑を浮かべた。
「見たか俺の実力を!」
「馬鹿言うな、これからだろうが実力を発揮するのは」
「まぁ、細かいことは気にするな。これは序の口だ。この仕事を糸口に俺はじゃんじゃん仕事をこなしてさっさとここから出ていくからな」
「そうか、因みに相手はどんなやつなんだ?」
「天元製菓って言うお菓子屋だって」
「お菓子なぁ、ますます分からないな」
「何が?」
「何でわざわざプロじゃなくてお前に頼むんだ?」
「俺が凄いからだろうが」
「ふーん・・・」
「あれ?この写真のおっさん・・・どこかで・・・」
タケノリは画面に映った従業員の写真を見て目を細めて記憶をたどっているようだった。
「おはようございます」
後日、例の如くナナの明るい挨拶が事務所に響く。
「どうしたんですか?」
昨日見ていた写真を眺めて考え込んでいる俺たちを見てナナは尋ねた。
「ナナちゃん、この人に見覚えある?」
「んー・・・?あー覚えてますよ、え?タケノリ君忘れちゃったの?」
タケノリは全く持ってその通りと言った具合で何も言わずにナナの方を見た。
「ほら、トイレ掃除やらせてくれた人」
「あっ」
どうやらトイレ掃除無料出張サービスのお客さんの一人だったらしい。
「タケノリ君が掃除している時にタケノリ君のサービスも宣伝しておきましたので」
ナナは得意気に髪を靡かせた。
「流石ナナちゃんだな・・・」
俺はただただ感心した。
「じゃあさっそくタケノリには仕事をこなしてもらおうか」
「あー・・・その話なんだが・・・」
俺の提案にタケノリは何か言いたげだった。
「この案件は全員で協力してやりたい」
タケノリにしては弱気な発言だった。
「どうした?一人じゃ不安になったのか?」
「ちげえよ」
タケノリはナナの方に目を向けた。
「え?私?」
「本当はもっとちゃんとしたアニメでやりたかったんだが・・・あんたに声優をお願いしたい」
なるほどと俺はニヤリと笑った。
「あんたの夢が叶えることが俺の夢だった。頼まれてくれるか?」
「ヒューヒュー」
俺は今じゃ聞かなくなった言葉でタケノリを茶化した。
「お前もだノリオ」
「何?」
「俺はアニメは作れるが商売も宣伝もまるで分からねえ、助けちゃくれないか?」
俺とナナは顔を見合わせた。
そして満面の笑みでこれを承諾した。
後日から3人で協力しながらアニメ制作をはじめた。
俺は仕事の合間にタケノリにアドバイスをした。
ナナは俺たちの話をまとめて、例の不気味な絵でコンテを作成し、それをタケノリが修正していった。
そんな日々が、1週間ほど経過した。
「どう思う?」
タケノリが出来上がった映像を見せた。
多少安っぽく感じたがなかなか良い感じに仕上がったと思う。
デスクに大量に置かれた絵コンテを見ると黒魔術の儀式でもしたのかと言いたくなる有様だったが、過程はどうあれ結果は素晴らしかった。
「あとは音声を入れるだけか?」
俺はタケノリに尋ねるとタケノリは嬉しそうに頷いた。
タケノリはどんな気持ちで今日と言う日を迎えたのだろう。
本来であれば自己犠牲によって成立するはずだったナナの声優の夢。
俺が関わって若干タケノリの理想から遠ざかったんじゃないかなと思ったりもしたが、少なからずナナは今日、声優をこなすわけだ。
「じゃあよろしく頼む」
そう言ってからタケノリはナナに合図を出した。
沈黙を待ち、そしてナナは夢を掴んだ。




