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「いいか、今日からお前は便利屋ベンリマン2号だ」
朝礼にてタケノリにそう伝える俺。
「なんだそれ?」
腑に落ちなかったのか間抜け面でそう返すタケノリ。
「俺がベンリマン1号でお前は2号だ」
「ふざけてんのか」
「俺は本気だ。そんでベンリマン2号の仕事はズバリ、ホームヘルパーだ」
「ホームヘルパー?なんだそれ」
「ああ、簡単に言えば老人や障害者のお世話のうち介護に該当しない生活援助が主な仕事だ」
「俺に死にぞこないとキチガイの面倒を見ろって言ってんのか?」
「語弊を恐れずに言えば・・・そういうことだ」
「冗談だろ・・・」
「とりあえず今日は一緒に、ミユキさんの家に行く。お前は一日ミユキさんの頼み事を聞く、簡単だろ?」
「頼み事なら何でも聞けってか?」
「良い質問だ、聞かないといけないお願いは調理、洗濯、掃除、買い物、あとは聞ける範囲でいい、親切にメモしておいてやったぞ。いいか?くれぐれも粗相のないようにな」
メモ帳とペンをタケノリに投げてやると、器用に片手でそれを受け止めた。
「よし行くぞ2号」
事務所を出る俺とタケノリ。
タケノリはひたすら嫌そうな顔をしていて、俺はそれを見て非常にご機嫌だった。
アパートの一室を訪れる俺とタケノリ。
インターホンを鳴らすとお年を召したご婦人が出てきた。
「あら、今日は一人じゃないのね?」
「ええ、ベンリマンのニューフェイスですよ、今日は彼の教育指導も兼ねてまして、まぁ気にしないでください」
まずは洗濯機の前に行く俺たち。
「お前洗濯したことある?」
「・・・・・・」
「だろうな、いいか?とりあえず洗濯する衣類はこの籠に入ってる。全部入れて、電源を押して洗濯ボタンを押して、スタートを押す。すると水量が設定される、その水量に合わせて洗剤を入れる。キャップに目盛りがついてるからそれ見て量を調整して入れろ。それが出来たら最後に蓋を閉じれば洗濯が開始される。覚えたか?」
「・・・・・・」
「おっと、今言ったことも実はさっきのメモ帳に書いてあったりして」
「先に言えよ」
「調理をしたことは?」
「・・・・・・」
タケノリはすかさずメモ帳をめくった。
「書いてあるなら最初からそう言えばいいだろ」
「いいか?この仕事に限らず世の仕事ってのはマニュアル通りで全てが丸く収まるほど甘くはないんだ。メモ帳にそう書いてあるからってお前はそれをこなせるのか?」
「俺に出来ないことはねえ」
「そうかい、その勢いで頑張れ」
そう言ったところで俺のスマホが鳴った。
「はい、便利屋ベンリマンです・・・はい、あ、分かりました、すぐにそちらに伺います」
そう言ってスマホを切る。
「さっそくだがお前にこの場の全てを任せることになったんだが・・・出来るんだよな?」
「・・・・・・ああ、余裕だ、さっさと行ってこい」
「期待してるぞ2号」
俺はそう言い残して別の依頼先へ向かった。
別件を片付けて時刻は午後4時を回っていた。
「ぼちぼち迎えに行かなきゃな・・・」
そう呟いた矢先にスマホが鳴った。
「はい便利屋ベンリマン」
「もしもし」
「ああ、ミユキさん、相棒は役に立ってますか?」
「それが・・・」
俺はミユキさんの言葉を聞いて背筋が凍り付いた。
午後7時頃俺はタケノリの部屋のドアをマスターキーを使って開けた。
「ああ、ご苦労様」
そこにはタケノリがいた。
「なんで逃げ出した?ミユキさん昼飯も食えなかったのにお前に何かあったんじゃないかって心配してたぞ」
「そうかい、死にぞこないは想像力豊かで退屈しないな」
「何か言いたいことはあるか?」
「ねえな、それに逃げてねえ、お願いが聞こえない場所に移動しただけだ。頼まれたことは全部やったさ」
「よくわかった」
俺は持っていた荷物を床に置いてハンマーを取り出した。
「なんだ?そんなもんで俺に勝てると思ってるのか?はっはっは・・・は?ちょっと待てそれって・・・」
「ああ、お前がマトモに仕事をこなしたら渡そうと思ってた、お前のパソコンだよ」
俺はハンマーを振りかぶって思い切りそれを振り落とした。
思ったよりも頑丈で一撃で粉砕とは行かなかった。
「やめろぉぉぉぉおおおおお!」
タケノリが俺に飛び掛かって俺を押し倒した。
「あああああああああああああああ!」
タケノリは俺の上に馬乗りになって顔面を殴り続ける。
俺はその腕を掴んでタケノリを引き寄せ、そのまま抱き着いて体を反転させてタケノリの上に乗り胸ぐらを掴んで床に押し付けた。
「ああ、幾分か気分がマシになったぞ、大事な物壊される痛みが分かったかクソ野郎」
「お前が何したか分かってんのか!」
「そっくりそのまま返してやる!ずっと引きこもって何夢見てたか知らねえけどな!お前が周りに何してたか考えたことあんのか!パソコンは修理できる、だが過ぎ去った時間も、失った信用ももうどうにもならねえんだよ!それを分かってんのかお前は!」
「お前に・・・お前らに何が分かるってんだ!」
タケノリは涙を流しながらそう叫んだ。
「だったら話してみろ・・・お前の言い分を、言えば納得できる内容なんだろうな?」
タケノリは力なく頭を床に置き落ち着きを取り戻した。
俺は胸ぐらから手を放してタケノリの上からどいて床に座り、タケノリが話を始めるのを待った。
「俺は夢なんか見てねえ・・・」
タケノリはゆっくり話し始めた。




