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天元物語  作者: 抜田 礼
便利屋ベンリマン
50/59

◆3

「ん・・・・ん?・・・あ?なんだここ?どこだ?」

 男の声を聞いて俺は目を覚ました。

「ああ・・・ようやく気が付いたか・・・ふぁー・・・」

 とても眠い、時計を見ると9時を少し回った辺りに針があった。

 社宅の一室で拘束された間抜けな男を見て心底うんざりした気持ちがこみ上げる。

「おい、お前、さっさと拘束を解け、ぶっ殺してやるよ」

「・・・・・・。お前が俺の立場だったらそれ聞いて拘束解くと思うのか?まったく何年引きこもるとここまで馬鹿になれるんだか」

「何だ?ビビってるのか?本職が引きこもりのお守の負け犬じゃそりゃそうか!はぁーっはっはっはははは!」

「その負け犬に負けたからお前はここにいるって説明しなくちゃわからないのかこの馬鹿!本当に情けないやつだな」

「俺がお前に負けたって?俺がいつお前に負けを認めたんだ?お前みたいな間抜相手なら縛られたままでも殺せるぞ」

「ほぉ、やれるものならやってみろ」

 俺はそう言って男の顔を覗き込んだ。

 その刹那、男は俺の顔に淡を吐きつけた。

「うわっ、何しやがるこいつ!」

「はぁーっはっはっはっはっは!」

「この野郎!」

 俺は男の胸ぐらを掴んだ。

 しかしその瞬間を待っていたかのように男は俺の腕に物凄い勢いで噛みついた。

「痛っ!離せクソ野郎!」

 男を振りほどき距離をとった。

「はぁーっはっはっははははは!拘束された奴相手に逃げ出しやがったぞこいつ!情けねえなぁ!!はぁーっはっはっははははは!」

 こいつは想像以上にイカレてやがる。


 洗面台で顔を洗って男の前で座り再び話を試みる。

「よう間抜け、涙は綺麗に拭き取って来たか?はぁーっはっはっははははは!」

 挑発に乗っても話は進展しないままか・・・。

「いいか?お前は今日から俺の部下としてここで働く、ついでにここはお前の住居になる」

「は?何言ってんだお前?」

「お前の優しいお父さんに泣きつかれてな、お前が独り立ち出来るまで面倒見ろってのが俺が請け負った依頼だ」

「あっそ、だが知ったことじゃねえな、これは立派な監禁だ、すぐにボコボコにして警察に突き出してやるから覚悟しやがれ」

「嫌ならもちろん出てっても構わない、だがもしお前が一人で親父さんの家に帰ろうものならすぐに叩き出すようお前の親父さんから頼まれてる、それも拒めば精神病院に叩き込む手筈も整えてるって話らしいぞ」

「何?」

「それにここは社宅だからな、お前が働かないって言うなら住む資格はない。お前が逃げ出せばその時点で帰る場所を失うことになる」

「そんなことが許されると思ってるのか」

「逆に今までのお前の生活が許されると思ってたのか?おめでたいな、俺はとても優しい男だが、お前の親父さんほど甘くはないぞ、いいか、黙って俺の下で働け、そんで自分の力でここから出てけ、分かったか?」


 男はよほどショックだったのか黙り込んでしまった。

「腹減っただろ?近くの店で飯と飲み物は買っておいてやった。今日と明日はこれで済ませろ、そんで親父さんから金を預かってる。ここに30万円ある。今後はこれで自分でやり繰りしろ、ガスと電気代、水道代は経費で落とす、家賃は毎月2万円基本的に給与から差し引くから滞納できると思うなよ」

 男の反応はない。

「時給は1200円、9時5時の休憩は合計1時間半、週休完全2日で土日休みだが、今後お前の体力を鑑みて調整するつもりだ、ここに契約書を置いておいた、明日までに提出しろ、さもなくば追い出す。わかったか?」

 やはり男の反応はない。

 俺は溜息をついて男に近寄った。

「暴れないって約束できるなら拘束を解いてやる。約束できるか?」

 男は面倒くさそうに溜息をついた。

「さっさと解け」

「約束できるか?」

「ああ、さっさと解け」

 俺は少し考えたが、拘束を解くことにした。


 正直暴れるかと思ったが男は大人しかった。

「たしかタケノリだっけ?俺はノリオだ、まぁ色々思う所もあるだろうが、頑張ろう、じゃあな」

 俺はその場を去ろうとした。

「なぁ」

 急にタケノリが俺を呼び止めた。

「パソコン、パソコンが必要だ、俺のパソコンをここに持ってくる、それが大人しく働く条件だ」

「条件?甘えるなよ、それにあの部屋にお前の金で買ったものなんて一つもねえだろうが、いいか、これは取引じゃない、お前には選択の余地がないんだ!」

「頼む・・・」

 また喧嘩をふっかけてくると思ったが、思いのほか物分かりがいい。

 だが・・・。

「そうだな、お前が俺の顔に淡を吐いてなかったら考えただろうな、クソして寝ろバーカ」

 俺はそう吐き捨てて部屋を出た。


 さて、騒々しい日々が始まるな・・・。

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