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天元物語  作者: 抜田 礼
ファンタジーの一面
40/59

◆3

 外に一歩踏み出すと夢も希望もない日常が広がっている。

 そのうち自動車やスマホでARと呼ばれる拡張現実が見えることになったとしても、それは明日明後日の話ではない。

 しかし、幸いにもこの天元には電子部品を取り扱っているお店があったりするのだ。

 概ね、ネット通販が主流な現代ではこういった店舗は時間と共に減ってしまう傾向にある。

 世の中の便利の登場で旧世代の素晴らしい部分が廃れていくのは何とも悲しいことではないか。

 では、何故天元の電子部品ショップは無くならなかったのか。

 それはフランチャイズチェーンがはびこるこの現代社会でボランタリーチェーンと言うわりと珍しい経営形態をしているからなのである。

 ザックリ説明するとフランチャイズはコンビニのように同じ看板を背負って他店と協力するものであり、ボランタリーチェーンは各々別の看板、別の業種なんかが協力し合っていくものだ。

 つまり様々な店舗が立ち並ぶ天元であるが、その多くの店は運命共同体であり、互いに助け合っているのである。

 この社会に於いて協力と言うものはサバイバルの基本中の基本と言ってもいい。

 職場でも私のように孤立してしまうような人間は徹底的に排除されてしまうように、企業や団体も同じ。

 孤立したところは時代に淘汰されるのが世の常なのである。



 今日ここに来たのはとある商品が店頭に並ぶと言う情報を聞いていたからだ。

「すいません、ラズベリーパイって入荷してますか?」

 私が店員に聞くと、随分とくたびれた店員が気だるそうにこちらを見た。

「ああ、ルナちゃんか。ラズベリーパイって言ってもピコのやつだけどね、そこにあるよ」

「ありがとうクギヒコさん」

 この店員のクギヒコさんとはそこそこ長い付き合いだ。

 見た目は不良っぽいが意外と面倒見がいい人なのである。

 私はクギヒコさんが指差したところへ行きお目当てのものを探す。

 そこには黒いケースに入って透明のフィルムで封がしてある電子基板があった。

 これが私のお目当ての商品ラズベリーパイと呼ばれる超小型コンピュータなのである。

 ICがそれぞれの機能を持った魔法石であるならば、ラズベリーパイはその上位互換。

 プログラミング言語を使った魔法詠唱で様々な魔法が扱える魔法装置なのである。


「クギヒコさん、これ三つください!」

「はーい。3240円ね」

 私は勘定を済まして商品を受け取った。

「いつもありがとね、しかしそんなに色々買って何作るの?今度見せてよ」

「わかりました、じゃあビックリするもの作ったら何かおまけしてください」

「えー・・・いいよ、じゃあ今後ともよろしくね」

 こんな感じで私は今もアナログなやりとりをして電子部品を購入している。

 しかし現代に於いて人との関わりはもはや時代遅れの産物になりつつあるのかもしれない。

 私がそう思う理由はインターネットの登場の前の世界を良く覚えているからだ。

 今では当たり前も当たり前、そもそもこれがなかったらインターネットは成立してないもの。

 そう検索エンジンの存在。

 この検索エンジンが存在しなかった世界を今の人々は想像できるだろうか?

 検索エンジンが無かった時代にあったもの、それが人の繋がりだったのだ。

 その地域にはある分野にやたら詳しい博士と呼ばれる人間がいて、分からないことや困ったことがあるとその人物に電話して聞いたり、会って相談したりしていたわけだ。

「もしもしアッ君?PS2がインターネットに繋げられるって本当?」

 みたいな電話を私もしたことがある。

 ゲームが上手い人間はクラスで重宝されたのをよく覚えている。

 仮に今そんな電話をしようものなら「ググレカス」「ヤフレカス」「ウィキレカス」と言われて終わるわけだ。

 AI云々で人間の存在価値が危ぶまれると議論されがちだが、私としては新世紀を迎えた辺りで随分と時代の流れを悲観したものである。


 でも昔が良かったとは思わない。

 その昔にはラズベリーパイは存在しなかったからだ。

 今日は帰ってこいつで遊びまくるのだ。

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