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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
37/59

◆11

 天元と呼ばれるこの薄汚い街を歩くと得体のしれない人間たちによく遭遇する。

 何を考えているのか分からず、何をするのか見当もつかない。

 良い奴なのか悪い奴なのか、どんな人間なのか、何を夢見て生きているのか。

 何もかもが謎な彼らと今日も一緒にこの街で生きているのは冷静に考えると随分と奇妙な状態なように思う。

 俺が孤独で苦しんだ時、俺は誰でもいいから助けて欲しかった。

 しかし、この街の連中は俺に手を差し出したりはしなかった。

 その理由はきっと俺が彼らに助けを求めなかった理由と同じなのだと思う。

 彼らもまた俺が得体のしれない人間に思えたのだろう。

 この街で孤独に苦しむ人間がどれくらいいるのかは知らない。

 しかしもし誰もが悲しみにくれるのならば、その苦しみはもしかすると一滴の涙で解決できるほどに些細なものなのかもしれない。

 その涙が俺の孤独を誰かに伝えてくれたなら、案外誰かが俺を助けてくれることもあるのではないか?

 少なくとも俺はきっとそうなのだと思う。

 これをアババ教の人間に言ったのならば、これも泣かなければ死んでしまうと言う赤ん坊の導きだとか言って全肯定してくれるに違いない。

 しかしそうだとしてもこの街の人間は涙も見せずに今日と言う日を頑張るのだろう。

 まったく誰が泣くことが恥ずかしいと言う常識にしてしまったのやら。



「お前の記事載ってるぞ」

 ケンジが俺にそう言ってムーさんの本を広げて見せた。

「【返り咲く竜水教、世界の恵まれない子供たちに水を施す旅】か、メグミちゃんも立派になったよねえ」

 結局50万円貰って仕事を終えた俺は、ミカに頭を下げて今後も仕事を手伝わせてもらうことになった。

 今はケンジとコンビを組んで色々な記事を書くフリーライターとして活動している。

 メグミはあれから俺の記事が話題となり順調に信徒を集め、さらに合宿以降アババ教との交流が増え、一部のアババ教徒からの支持を得たことで出資してくれる団体が現れるに至る。

 結果、莫大な資金と人員を得たことでマルチに手を出すインチキ宗教から一転、本格的な宗教団体として返り咲き、今は発展途上国などに支部を置く巨大な宗教団体へと変貌した。

 今は世界平和のためにメグミは各国を飛び回り、陣頭指揮を行っている。

 写真の中でメグミは俺たちが出会った頃の冴えない感じからは想像できないほど明るい弾けるような笑顔で子供たちと一緒に写っていた。

「いいなぁ!俺も世界を救えるなら救ってみてえよ!なぁ!」

「うるせえよ」

 大声で羨ましがるケンジに俺はそう言って距離をとった。


 マザーとのコネを持ったことで度々アババ教の取材に行くこともあった。

 あれからアババ教ではマザーの独断で護衛のツバキを次期マザー候補として擁立したことでそこそこ大きな話になったことがあった。

 取材に行くとあの気の強かったツバキがマザーとお揃いのドレスで着飾った上に緊張でガチガチになっている様子が見れて、あまり大きな声では言えないがとても微笑ましかった。

 何でも擁立させられた本人は最後まで大反対していたそうだ。

 色々あったがアババ教の連中はとても楽しそうだった。


 アババ教には何度か入信を迫られたが結局俺は入信しなかった。

 結局俺はこの小汚い街で、頭のいかれた相棒と一緒に仕事をする道を選んだ。

 出来る事ならばメグミとも一緒に行動したかったのだが、俺たちはそれぞれ最も幸せな道に進んだのだと思う。


 今日も俺たちはこの街で涙を見せずに生きていく。

 得体の知れない人間ばかりのこの街だが、そこには間違いなく誰かの幸せを願う者たちがいる。

 だからいつまでも悲観ばかりする必要もないと思う。

 大泣きすることは赤ん坊の特権かもしれないが、幸せいっぱいで笑うことは大人にも許されている。

 どうせ人前で泣かないのならば、せめて笑えるように。

 今日も俺たちは生きていく。

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