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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
32/59

◆6

 宗教の話をしたならばきっと相手は良い顔をしないことだろう。

 概ね宗教と言う単語から連想されるものは救済等と言った明るいものではないからだ。

 多くの場合は不安を最初に感じるのではないかと思う。

 半強制的なお布施、謎の商売、変な儀式、無理やりの友好関係、理不尽なルール、身勝手な犯罪行為。

 宗教団体に関する不安は概ね古今東西共通のものと思われる。

 救済を求めてやって来ても結局は金づるにされて人生を台無しにされる。

 そんな定番な展開をこの国の人間はよく知っている。

 だからこそ宗教は煙たがれる。

 それでも門戸を叩く人間は、冷静な判断を欠いたか、或いは数奇な運命に導かれたのか・・・。

 いずれにしてもそこで救済を得たと語る人間の笑顔は求人写真に写った社員や、政治家のポスターのように歪なものを含んでいるように思えてならない。

 きっとそこにあるのは仮初の救済なのだろう。

 その仮初の救済を本人がどう思うかなのだろう。



 マザーの長い長い話から合宿は始まった。

 マザーの話曰く、俺たちの中には赤ん坊がいるのだと言う。

 人間は成長するのに比例して、その思考や行動が多様化するものであるが、全てのベースは生まれたばかりの赤ん坊なのだそうだ。

 赤ん坊が一人で何もできないように、人は助け合わなければならない。

 赤ん坊が一日一睡で生活できないように、人には休息が必要不可欠である。

 赤ん坊が自身の感情に素直なように、人には素顔をさらけ出す時間が必要である。

 この合宿では赤ん坊が示した道しるべに従い、助け合い、休息し、素顔の自分で生きてみることを心掛けてほしい・・・とのことだ。

 もしも俺たちの中の赤ん坊が微笑むことが出来たならば、この教団の存在理由がきっと分かることだろうと言ってマザーはいつもの笑顔を見せた。

 俺の親程の年齢なのだろうが、マザーと呼ばれる女性はなかなかの美貌を保っていた。

 その笑顔から察するに、昔はかなりモテたのだろう。


 マザーの話の後、俺たちにタブレット端末が支給された。

 その端末からリアルタイムで赤ん坊の様子を見ることが出来た。

 今後赤ん坊の様子を見ながら数日間生活するのだそうだ。

「どうですか?何か良い記事のアイデアは浮かびましたか?」

 メグミが俺に尋ねてきたが、べつに驚くようなことは無いと思った。

「全く・・・あれ?ケンジは?」

「ケンジさんなら先ほど教会の人に相談があると言って何処かに行きましたよ」

 いきなり単独行動なんて、ケンジらしいと言えばケンジらしいのだが、一緒に行動しているとただただ不安しか出てこなかった。


「よう、待たせたな」

 しばしの間の後ケンジの声がしたので振り返ってみたわけだが、そこには下半身をオムツのみにしたケンジが立っていた。

 正直ダメな大人も頭のおかしい人間も山ほど見てきたし、俺自身もその同類なわけだが、このケンジと言う男はそれらを遥かに凌駕していると思った。

「なんでオムツなんすか?」

 俺がそう尋ねるとケンジは不思議そうな顔をした。

「何でって、赤ん坊の真似して生活していいってことは、ウンコを我慢しなくていいってことでしょうが!今日から俺はリアルタイムウンコマンになるんだ!」


 突如現れたリアルタイムウンコマン。

 彼の登場でアババ教はカルト宗教へと変貌したと、この時思った。


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