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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
31/59

◆5

 アドレス、それは住所を意味する。

 昔メールでのやり取りが主流だった頃はその意味を調べてみて、随分とアナログな印象を受けたものである。

 ひと昔前ならば知らない人間が住所を調べて訪問するなんてことはよくあったが、何でもかんでもプライベートの枠組みに収めて秘密を作りたがる現代社会に於いて、関わりの薄い人間が訪問することは、なかなかの面倒事になっているわけで。

 無論親しい間柄でもない人物からの突然の電話も同様である。

 それはさながら、訪問セールスと同等の面倒くささと胡散臭さが伴う。

 それが宗教団体のトップからともなればなおさらである。

 この一本の電話は住所を調べて自宅に押し掛けたのと同等の意味を持つ。

 正直何故マザーが電話をかけられたのかは分からなかったが、腹の立つケンジの顔を見れば概ね予想は出来た。

「あれから身体の調子はどうかしら?」

 親しい間柄のようにマザーは話しかけてきた。

「ああ、まぁ元気です」

「私たちが思いのほか怪しい団体じゃなくてガッカリした?」

 ふとミカのダメ出しが頭をよぎった。

「いえ、わりと安心してました」

「そう、それは良かったわ、でも私としてはあなたたちともっと仲良くなれたらと思っているの」

「はぁ」

「3日後に教団の合宿があるのだけど、あなたたちさえ良ければ参加してみないかしら?本来は有料なのだけど私からの招待と言うことで無料で参加できるのだけど」


 新たに記事を書かねばならぬ状況にある俺としてはそこそこありがたい申し出ではある。

 しかし今度こそ危ない思いをしそうな気配もある。

 ある意味ではこの返答が入信の意味を持つかもしれないわけで・・・。


 そう思っていた矢先にメグミが俺のスマホを取り上げた。

「喜んで参加いたします。よろしくお願いします」

 唐突に身勝手なことを言い出すメグミ。

「ちょっと何やってんの!」

 慌ててメグミからスマホを取り上げようとするがメグミはそれを躱して逃げる。

 はい、はい、と言いながら日程を確認しているのが分かった。

「了解しました。ではよろしくお願いいたします」

 そう言ってメグミは電話を切った。

「3日後に行くことになりました」

 と言ってメグミはスマホを俺に投げた。

「えぇ・・・。」


 何故メグミがそんなことをしたのかは聞かなくても分かった。

 とりあえず俺はケンジを睨みつけた。

 それに気が付いたケンジが慌ててドジョウすくいを始めたが意味は分からない。

「あんた俺の電話番号アババ教に教えたろ?」

「あっ、そっちか、うん教えた教えた、何ならお前の履歴書もバッチリ送っておいたから」

「ちょ、何余計なことしてんすか。だいたい俺の履歴書ってどうやって手に入れたんだあんた?」

「もちろんミカちゃんからだよ、こいつをヨロシクって」

「だからって宗教団体に転送するのはおかしいだろうが」

「そうか?そうか、そうだな、ごめんちゃい!」

 ケンジはひたすら腹の立つ男だった。

「まだ何か隠してないだろうな」

「もう大丈夫、何も隠して無いよ、でも強いて言うなら取材費渡してくれって頼まれてたのを黙ってる」

「何で黙ってんだよ、渡せよ取材費」

「いいよ、はい」

 あっさり差し出したケンジだったが、それをメグミが物凄い勢いで奪った。

 メグミが中身を確認すると5万円出てきた。

 チッっとメグミの舌打ちが聞こえてきたが、俺はこの汚い大人達を呆れた目で見る事しか出来なかった。



 3日後俺たちは再びアババ教の建物に来ていた。

 メグミの話によると、今日から数日間、この教団で寝泊まりするらしい。

 案内係に連れられて俺たちは5人ほどの参加者がいる部屋に通され、そこで待機していた。

「なぁ、具体的に何するか聞いてる?」

 と俺がメグミに聞いた。

「楽しく寝泊まりするのが目的とだけ聞いています。プログラムが気に入らなければ無理に参加する必要もないから楽しんでくださいとのことです」

 俺たちがそう話していると部屋に護衛を2人引き連れてマザーが入って来た。

 マザーは俺を見ると例の如く微笑んで手をふった。

 それがどんな意味をもつのか皆目見当もつかなかったが、ただただ、面倒な予感だけはした。


 今日から数日間、俺は無事に過ごせるのだろうか?

 無事に過ごしてしまったら記事は書けるのだろうか?

 そう疑問に思ったところでようやく自分が酷く面倒くさい状況にあることを自覚した。


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