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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
30/59

◆4

 人は何故宗教にハマるのか。

 マザー曰く、人々は救済を求めて教団の門戸を叩くと言う。

 きっとその期待に応えてくれたならば、信者と呼ばれる人間は増えていくのだと思う。

 俺自身は無宗教なのだが、今の俺を救ってくれる人間が現れたならば、或いは俺を精神疾患に追い込んだ連中に制裁を加えてくれたのならば、俺はその人間を少なからず信用することだろう。


 とは言えアババ教の体験を通して俺の目に映ったものを一言で言うのならば、理解し難い集団と言うのが正確だろう。

 一つの目標に従って集団が揃って行動する様子を見て不快感を感じる人は少なからずいると思う。

 会社の朝礼、軍隊の行進、虚ろな顔の人々で満たされた通勤電車。

 共通して言えることは、自由意志の欠如、人としての心の欠如。

 統率のとれた集団は個人としての死を連想させるがために、人はそれをよく思わないのだと思う。


 俺がアババ教で感じたものは一重にそんな不快感だったように思う。

 しかし具体的に言うと彼らはそれほどトチ狂ったことをしていたわけではなかった。

 常識から外れることもなく、妙な儀式も無ければ、神に必死に祈るなんてこともなかった。

 子供の世話をして、勉強をして、レクリエーションを楽しみ、食事をして昼寝をしたりするくらいだ。

 色々と身構えて参加したがために随分と拍子抜けしたものである。

 彼等は単純に赤ん坊の行動を観察し、そこから物事のヒントを見いだしているだけの集団だ。

 それがたまたま救済をもたらす宗教という枠組みに収まったに過ぎない。

 総裁であるマザーも、仰々しく着飾ってはいたが本人としてはもっと普通の衣服でうろつきたいと言っていた。

 正直宗教団体と聞いて随分と怯えていたが、こんな真っ当に救済をもたらしてくれる集団が最大の新興宗教と言うのであれば、天元という街は思いのほか平和なのかもしれない。



「んーーーーー・・・・・・」

 ミカは随分と難しそうな顔をして俺の書いた原稿を読んでいた。

「タケシ君、タケシ君的にはさ、読者に何を伝えたいのかな?」

「いや、最大の新興宗教はわりとマトモでした・・・みたいな」

「・・・うん、タケシ君、タケシ君、ちょっとここ立ってくれるかな?」

 ミカはそう言って俺を誘導した。

「はい、ドーン!」

 ミカが俺の顔面をぶん殴った。

「痛っ、何するんですか?」

「子供の作文じゃねえんだよ!読者に、マジで!?って驚かせるのが私たちの仕事なのね、あんた何を伝えたいって?もう一回言ってみ」

「えっと最大の新興宗教はわりとマトモでした」

「ふーん、あっそ」

「あなたの匙加減じゃないか!」

「あんたねぇ!私は50万円払うのよ!あんたこの文書に払える?50万円」

「言われた通りにやったんだから払いなさいよ」

「ダメよ!私は、マジで!?が欲しいの。サプライズが欲しいの、やり直し!」



と言うわけでなんとか宗教体験を終えて原稿を書いたにもかかわらず、50万円をもらい損ねた俺は再びケンジのところに来ていた。

「・・・・・・何してんの?」

 ケンジは必死に両手で一人ジャン拳をしていた。

「俺の右脳と左脳、どっちが強いか確かめてるんだよ・・・あっ左手が勝った!右脳の勝ち!」

「いいですね、自由で」

「話は聞いてるよ、報酬もらえなかったんだってな」

「読者がマジで!?って言わなきゃね、ダメなんだってさ」

 それを聞いたメグミが突然「マジで!?」と叫んだ。

「言ったんで報酬貰ってきて下さい」

「読者になってないし、そうゆうことじゃないでしょ」

 と俺が返す。

「じゃあ竜水教はマルチのインチキでしたって記事はどうだ?」とケンジが言う。

「困ります」とメグミ。

「そもそも竜水って中身なんだったんだよ」

「水道水です」

「コラッ、せめて飲料水にしなきゃダメでしょうが」

 ケンジとメグミのやりとりを呆れた目で見ているとスマホが鳴った。

「はい」と俺が出る。


「こんにちわタケシ君」

 どうしてこの番号を知っているのか、相手はマザーだった。


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