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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
29/59

◆3

 アババ教、それは天元にある最大の新興宗教団体なのだそうだ。

 赤ん坊が信仰対象であり、赤ん坊から教示を得て活動する宗教団体らしい。

 アババ教と言う名前もその宗教団体の代表であるマザーと呼ばれる女性の赤ん坊が発した言葉がその由来だと言う。

 そんな安直な決め方をしたものだから何の宗教団体だか分からないわけであるが、その割には信者も多く尚且つその信仰は非常に厚いと言う。

「アババ教なぁ、何で赤ん坊を信仰してるんだ?」

 俺はケンジに聞いてみた。

「それを確かめて記事にするのがお前の仕事なんでしょうが、ねえ?」

 とケンジはメグミに話をふった。

「え?あ、知らないです」

 とメグミは一言返した。

 虎の子を持ち帰るなんて大袈裟な表現を用いたがただインタビューをして記事にするだけなのだから、一応大きな問題にはならないだろうとは思ってはいる。

 しかし、その仲介にケンジが入ると言うのが不安で仕方がない。

 かと言って自分でアポをとるのもどうかと思うわけだが・・・。



「ケンジさんはアババ教の一員なんですか?」

 と俺はケンジに聞いてみた。

「いや、違うよ」

「コネがあるとか?」

「いいや」

「えー・・・」

「でもどうせなら大御所狙いで行かないと面白い記事にならないだろ?」

「でも何かあったら、僕天元で暮らせなくなりますよね?」

「そうだね!お前よく気が付くな!前世は大統領か?」

「知りませんよ、そもそもコネもないのにどうやってアポとる気なんですか?」

「体験させてくれって頼めばいいんじゃないか?」

「僕入信したくないし、絶対後で断れなくなりますよそれ」

「そうなの?」

「あの・・・」

 とぼけるような態度をとるケンジに呆れていた俺の隣からメグミがそっと出てきた。

「それって私の10万円の立て替えに関わる問題なんでしょうか?」

「それは・・・」

 俺が答えようとするとケンジが俺を押しのけて前に出た。

「関わる問題だよ!こいつが面白い記事書かないと報酬出ないから、あんたの立て替えなんか出来ないよ!」

「行きましょうアババ教!」

 ケンジの言葉を聞くなりメグミは積極的に俺をアババ教へ行かせようとしてきた。

 俺は返す言葉を見つけられなかった。



 後日俺たちはアババ教の建物の前に来ていた。

 天元の中ではそこそこ立派なビルを構えて、アババ教はそこにあった。

「今更ですけど本当に大丈夫ですかね?相手は宗教団体ですよ?」

 とメグミは言った。

「あんた教祖だろうが、それにあんたが行こうって言ったんだぞ」

 と俺が呆れてそう返した。

「大丈夫大丈夫、体験するだけって念押ししてOKもらったから」

 とケンジが俺たちにそう言った。

「何でインタビューじゃなくて体験なんだよ」

「その方が面白いからに決まってるからだろうが、インタビューなんか体験中にやれるだろ」

 俺は溜息をついて教団の建物の中に入って行った。

 中は随分と清掃が行き届いていて、高級ホテルを連想させるほどだった。

 カウンターへ向かい受付係に声をかける。

「あの体験しに来たんですけど・・・」

 今更ながら本当に自分が間抜けな人間に思えてきた。



「アババ教によくぞ辿り着きましたね。もう大丈夫ですよ」

 受付係は笑顔でそう言い、俺たちを建物の奥へと案内した。

 やっぱりどこまでも高級ホテルのような内装だった。

 そんなことを考えていた矢先、どこからともなく鈴の音が聞こえてきた。

「おっと・・・すいませんが道を開けて立ち止まりください」

 俺たちは壁際に立たされた。

「我々の総裁、マザーのお通りです、貴方たちは運が良いですよ」

 そう言われてふと、道の奥を見ると護衛と思しき人たちに囲まれた、婦人が歩いてくるのが見えた。

 マザーと呼ばれるその人は白無垢にも似たドレスに身を包み手を前に結んで歩いてきた。

 やはり宗教家と言うだけあって妙に神聖な雰囲気が漂っていた。

 しばし眺めていると一人の護衛が俺たちに気が付いた。

「おい、そいつらは誰だ?」

 と護衛が言った。

 よく見るとその護衛の顔はまだ幼さが残っていた。

 二十歳前後と言ったところだろうか。

「彼らは今日体験に来た方たちでして・・・」

 と案内係が説明をはじめた。

 色々と怖いが、問題を起こさず今日を終えればミッションコンプリートだ。

 大丈夫、何も焦ることは無い。

 そう思って何気なくマザーの方を見た時、マザーも偶然こちらを見て目が合ってしまった。

 俺が少し焦った様子を見てマザーは優しく微笑んだ。


「ねえ、今日はずっとこの建物にいる予定よね?」

 とマザーが一番近くにいた女性護衛に問いかける。

「そうですけど、ダメですよ、気安く部下の仕事に手を付けるのは」

 と女性の護衛は返した。

「いいじゃない、この子たちは私が案内するわ、あなたは下がっていいわよ」

「はい、失礼します」

 と言い残して受付係はカウンターへ戻って行った。

 マザーは俺たちに歩み寄り

「よろしくね」

 と言って再び微笑んだ。



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