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天元物語  作者: 抜田 礼
アババ教
28/59

◆2

 男はケンジと言う名前のミュージシャンらしい。

「いやぁ、失敬失敬、お見苦しいところをお見せしてしまヴぉえああああ!」

 ケンジは大量の水を吐いた。

「何してんすか?」

「いやね、最近竜水教って宗教団体に入ったわけよ」

「竜水教?」

「そう、この竜水を飲んで体を清めることで幸せを追求しようって団体なわけ」

「つまり、身を清めようとしてこうなったと?」

「いやっ、これは神の怒りを体験しようとしてたのね」

「神の怒り?」

「そっ、竜水教は水を神として崇めているから水飲んで死んだら神の怒りになるわけだよ」

「はぁ・・・」

「あとちょっとで神の怒りに触れて竜水教に一言モノ申す口実を掴めそうだったんだけどな!惜しかったな!」

「意味が分からないんですけど、一言モノ申すために死ぬんですか?」

「そうだよ!」

「死んだら一言モノ申せないですよね?」

「あ!そうか!お前天才だな!東大卒か!?」

「東大生が聞いて呆れるでしょうよ、何なんですか」

 どうやらかなり面倒臭い人のようだ。



「あの、あなたの力を借りるよう言われて来たんですけども」

 色々言いたいことはあったが面倒くさかったので要件を優先することにした。

「依頼?言っとくが俺は安くないぜ!」

 何だかこのノリにも飽きてきたので俺は無言でプリンが沢山入った袋を差し出した。

「おっ・・・話は聞いてるよ、宗教団体の記事を書くんだって?力になるよ」

 男は袋を受け取るなり態度をコロリと変えた。

「僕何も聞いてないんですけど」

「ようするに色んな宗教団体に加入している俺がお前にこの天元にある宗教団体を紹介しろってことだろ?お安い御用だヴぁぁぁぁぁあああ!」

 ケンジは再び水を吐いた。

 俺は呆れてその光景を見ていた。



 とてもじゃないが色々と大丈夫そうではない男のようだ。

 いくら50万円と言えどもこの男と行動するリスクを考えると判断を誤ったように思う。

 そんなことを考えていた矢先にインターホンが鳴る。

「悪いけど代わりに出てくれるかな」

 ケンジにそう言われて、仕方なく俺は扉を開けた。

「はい」

「あ、あの、竜水教の者ですけどケンジさんいますか?」

 そこには一人の冴えない感じの女性が立っていた。

「ああ、いますよ」

「えと、あの、失礼します」

 竜水教の女は俺と目を合わさないように中に入って行った。


「ケンジさん!いい加減お金払ってください!」

「すいません!」

「すいませんじゃなくてお金払ってください!」

「そんそんそん!」

「意味分かんないですよ!お金払ってください!」

 ケンジのところに戻るとよく分からないやり取りが行われていた。

「もう、勘弁してよ・・・」

 女は泣き崩れてしまった。

「あの何があったんですか?」

「え?・・・えと、あの・・・・・・あーーーーーーもういいか・・・。」

 女は何かしら諦めた様子だった。


「マルチ商法?」

「はい、私実は借金ありまして、お金に困って竜水教を立ち上げたんですよ」

「あなたが教祖様ってことですか?」

「はい、で、ケンジさんは初めての信者様でして」

「はぁ」

「ケンジさんを通してネズミ算的に会員を増やして金を巻き上げる計画だったんですよ」

「えげつないですね」

「でもケンジさん、お布施はもちろん、売りつけた竜水の代金も払わなくて」

「容易に想像できますね」

「結果的に私もう破産寸前なんですよ」

「完全に身から出た錆びじゃないですか」

「そうなんですけども・・・今月中に10万円ないと私本当にヤバいんです、人助けと思ってお金くれませんか?」

「10万円・・・。」

 なんだか可哀そうに思えた俺は少し悩んだ。

 もしかすると人手は多い方が今後何かと便利かもしれない。

「分かりました、もし今後僕に協力してくれるなら10万円建て替えますよ」

「いいんですか?あ、私メグミって言います、私に出来ることなら何でも言ってください」


「じゃあこの3人でアババ教に行こうか」

 突然ケンジが提案する。

「アババ教?」

 メグミがそう問いかける。


「って何?」

 と俺が呟いた。


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