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天元物語  作者: 抜田 礼
あうと おぶ ばーちゃる
25/59

◆11

 現実にはクソみたいなやつしかいない。

 だから俺の人生はクソまみれなんだ。

 星屑を繋いで星座が生まれ、多くの物語が生まれるのだとしても、俺と言う人間の物語はそんな綺麗ごとで産み落とされることはないだろう。

 クソを焼いて、下水で煮詰めて、ようやく奇行に気が付いた神様がどうしようもなくなって便所に捨てた無駄に行程を重ねたクソが俺って言う人間の物語だ。

 だからこそ俺は現実に居場所を求めたりはしなかった。

 ここではないどこかを夢見て、俺はゲームの世界に身を投げた。

 それがいけないことだと思ったことは一度もない。

 全ては現実を生きている人間どもが悪い。

 恵まれない子供が全て救われるべきと言うのならば俺に生活資金を渡してずっとゲームをやらせてくれる団体がいてもいいではないか。

 戦争も貧困も俺以外の馬鹿な大人どもが引き起こした面倒事に他ならない。

 そいつらを黙らせてひたすらゲームをやらせておいたら世界はどんなに平和か。

 愛だの正義だの、くだらないことのために俺の生活を邪魔をするから世界はクソなんだ。

 そう、世界はクソなんだ。

 俺がどんだけ頑張っても、俺の人生はクソなんだ。


「ねえ、このドリアって料理美味しいね」

 その日俺とスズカはイタリア料理のファミレスで食事をしていた。

「ああ、これでイタリアに行く手間が省けたな」

「この店日本の系列店だし、店員も日本人だし」

「でもイタリアの料理だし」

 俺は食べながらつまらなさそうに答えるとスズカはむくれていた。

「イタリアってどんな国だっけ?」

 何気なく俺はそう言った。

「芸術、ミラノ、ドゥオモ、冷静と情熱のあいだ」

「冷静と情熱のあいだ?」

「本当に無知だな、やっぱり実際に行かなきゃだね」

 ドリアをスプーンで口に運ぶスズカ。

「美味しいー・・・フランス料理も捨てがたいけど、永住するならイタリアも悪くないかな」

「日本で食えるなら日本で良いだろうが」

「そんなの行ってみないとわからないじゃない」

「行く前に永住考えてただろうが」

「だって美味しいんだもん!」


 あれから俺とスズカは世界旅行と称して他所の国の料理を食べ歩いている。

 やはりクソな俺の人生では簡単に世界旅行どころか海外旅行も難しい。

 スズカは早く海外旅行へ連れていけと俺を急かすが、10年後もそんなことはないだろうと思っている。

 なんてったって俺以外の人間は全員クソだから。

 俺がスズカを世界旅行へ連れて行ってやりたいと思ってもそれを手伝ってくれるような人間はいまい。

 とは言え、世の中には数少ないが世界をより良くしようと動く人間もいるにはいる。

 ゲームを生み出してくれた人間がいるように、文明の発達を促してくれた人間がいるように、クソと一緒にひりだされた哀れな人間が世の中にはいるのだ。

 そいつらのおかげで、俺の住むこの国この場所ではある程度の妥協をすればある程度の願望は叶うように出来ているらしい。


 その日何気なくスマホで世界一周旅行の費用を検索してみたところ、値段は100万円ほどあれば曲がりなりにも世界一周は出来るらしい。

 誰もが知るクソゲーである労働をして金をかき集め、1カ月に1万円貯金するとして8年と4カ月。

 二人で行くならば16年と8カ月、もっと本格的な旅行にするならば、300万円は欲しい所であるから25年。

 気が遠くなるが、頑張れば出来なくはないのかもしれない。

 馬鹿みたいな夢物語みたいな夢でも、ある程度は妥協すれば手の届くところにそれはある。

 俺はこんな小汚い場所で生きているが、スズカの言うように、俺が頑張れば世界に羽ばたくことも可能なのであった。

 スズカがいなかったら知りもしなかった事実だったかもしれない。


 世の中はクソだった。

 しかし俺は孤独ではなかった。

 馬鹿げた話ではあるが、俺はあの女のために頑張ることにした。

 果たして俺はお金を集めることができるのか。

 果たしてあの女はそれまで待つことが出来るのか。

 考えれば考えるだけ不合理なことだと思った。

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