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天元物語  作者: 抜田 礼
あうと おぶ ばーちゃる
20/59

◆6

 その日、俺を面倒に巻き込んだ元凶と会うことになった。

「やっほ、来てくれたんだ。」

 このクソアマは相変わらず鬱陶しい。

 こいつのせいで、俺の家にはこいつの要求に無条件で従わなければ殺されてしまうみたいな雰囲気が生まれてしまった。

 このクソザコのためにどうして俺がこんな目に遭わなければならないのか。

「今日はどう?行きたい場所ある?」

 またしてもこいつは意味の分からないことを言う。

 一体何なんだ。

 何も言わず不機嫌そうにしている俺を見てスズカは笑ったまま眉間に皺を寄せた。

 本当に何なんだこいつは。

「はいはい、じゃあ行先は私が決めるね。行こう。」

 スズカはそう言って歩き始めた。

 俺はスズカについて行った。


 天元の街の朝はあまり好きではない。

 静寂を掻き消す室外機や換気扇の音が鳴り響き、世の中の歯車のように働く人間どもが働きだす。

 行きかう人々に活気などはなく虚ろな目で面倒くさそうに今日と言う日を過ごす。

 嫌ならば寝ていればいいじゃないか。

 この世の中の人間は馬鹿しかいないのだ。

 俺だけが正しい、俺だけしか頼りにならない。

 分かりきっていることだ。

 しかし一緒に歩いているスズカの目には別の世界が見えているように思えた。

 何故笑っていられるのか。

 こんなどん底の街をハルカは笑顔で跳ねるように軽やかに歩みを進めていく。

 何がそんなに楽しいのか。

 

 しばし歩いた後スズカは俺を保育園に連れてきた。

「ねえ、覚えてるここ?」

 このクソアマは思い出めぐりをしに来たらしい。

 本当にそんなだからイジメられるんだと思った。

 過去に何の意味がある。

 人生は今が楽しいか否かだ。

 今を過去に費やして何の意味があるんだ。

 とは言え阻喪があれば殺されるのでここは適当に合わせておくしかない。

「俺たちが通ってた保育園だな」

 それを聞いたスズカは何かとても嬉しそうだった。

「そうそう、ねえ、何か思い出さない?」

「何が?」

 俺がそう言うとやはり眉間に皺を寄せた。

 何だこいつは・・・と思ったが。

 そんな時に俺の脳裏に一つの思い出が蘇った。

「あっ」

「何々?何か思い出した?」

「そう言えばお前昔腹減るとアリ食ってたよな」

「余計なこと思い出すな!」

 スズカは俺を小突いた。

「あっ」

 今度はスズカが何かに気が付いた。

「何だよ」

「あんた笑えるじゃん。」

 スズカはしてやったりみたいな顔をした。

 俺もそう言われて驚いた。

 何故俺は笑っているのか、意味が分からなかった。

「なんで隠すの?笑ってた方が可愛いよ?」

「うっせえ」

「はっはっは、照れ屋さんだ」


 その後スズカと一緒に商業施設等を見て回り、一緒に食事などをして過ごした。

 帰り際スズカは俺の顔をしきりに覗き込んだ。

「何?」

「ねえ、また笑ってよ」

 鬱陶しい。

 不機嫌そうにしている俺を見てスズカはむくれた。

「ケチ!」

 死ねクソアマ。

「あーあ、昔はいつも笑ってたのに」

 何を言っているのかよく分からなかった。

「今の君は怒ってばっかり、泣いてばっかり、笑顔の君はどこへ行ったのかな?」

 こんな世の中で笑ってるお前の方が異常なんだ。

「えいっ」

 突然スズカは俺の頬を引っ張った。

「笑えこの野郎」

「何すんだよ」

 俺はスズカの手を振り払った。

「どう?思い出した?」

「何のことだよ」

 俺がそう言うとスズカは難しそうな顔をした。

「ダメか」

 残念そうにしているスズカ。

 妙な沈黙の空気がその場に流れた。

 気まずかったので話題を探してみて、ふとヒトシのことを話そうと思った。


「スズカ?」

 その矢先で突然男の声がした。

 声の方を見ると貧相な男がいた。

「また学校来なくなったから心配してた」

「やめてヨシノリ」

 歩み寄る男を突き放してスズカはそう言った。

 男は困惑した表情を見せた後こちらを睨んできた。

 どうやらまたしても面倒事に巻き込まれてしまったらしい。

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