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天元物語  作者: 抜田 礼
あうと おぶ ばーちゃる
15/18

◆1

 舐めかけのチュッパチャップスを吐き捨てて俺は叫んだ。

「死ね!死ね!この雑魚が!」

 モニターに映った相手プレイヤーが息絶えるのを見て俺の頭の中で愉悦が爆発した。

「キモ!よわ!最初の威勢どこ行ったんだ雑魚!雑魚!雑魚!」

 愉悦が奏でる音をこれでもかと言うほど相手に聞かせてやった。

「おっかしいな・・・なんで当たらねえのかな」

 相手プレイヤーの声を聞き俺はニヤリと笑った。

「お前が下手くそなだけ、あと一勝したらお前アカウント消せよ」

 負ければ自分がアカウントを消すとゆうリスクはあったが、所詮は俺が勝って当たり前のゲームを少しでも面白くするくらいの役割しかなかったらしい。

「すいません、アカウントだけは許してください」

 相手は半べそをかきながら弱弱しくそう言った。

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。

「ダメでぇーす!お前はここで終わりでーす!」

 啜り泣く声を聞いて俺は高らかに笑った。

「雑魚!雑魚!身の程を弁えろ雑魚!!」

「はい、ボコしまーす」


 何が起きたか分からなかった。

 急に俺のキャラクターが頭から血を吹きその場に崩れ落ちた。

「は?」

 困惑する俺を待たずに再開する戦い。

 開始間もなく弾幕がキャラクターを襲い10秒と経たずにその場に崩れ落ちる。

 これで4勝・・・2敗。

 俺が負けるなんて有り得ない!!

「お前何したんだよ!」

「はいザコー」

 相手プレイヤーの煽り文句と共に崩れ落ちる俺のキャラ。

 3敗、そして4敗。

 負ける・・・?俺が・・・?

 心拍数が上がるのを感じずにはいられなかった。

 心臓が煩いくらいに鳴っていた。

「やめ・・・やめろよ・・・」

 気が付くと俺は涙を流して震えていた。

「何ー?」

 襲い掛かる敵の弾幕。

「頼むからアカウントだけは勘弁してくれー!」

 泣きながら懇願する俺。

「じゃあ、雑魚は私でしたって言ったら考えてもいいよ」

「雑魚は私でした!すいませんでした!」

「はい、これが君の答えだ」

 頭から血を吹いて倒れる俺のキャラクター。

 それと一緒に俺もその場で倒れて力の限り叫んだ。


 その後泣きながら相手の配信者に謝ったが身内の視聴者からも非難が相次ぎ俺は号泣しながらアカウントを消した。

 終わった・・・全てが終わった。

 放心状態で泣いていた。

 しかし追い打ちをかけるかのように固く閉ざされていたはずの俺の部屋のドアが蹴破られた。

「今何時だと思ってんだユウタ」

 親父が静かに、しかし確かに激しい怒りを感じさせる声で俺に言った。

「うっせえな!入ってくんなよ!」

 俺は感情が生み出す言葉をそのまま吐き捨てた。

「それが親に対する言葉か」

「そうだよ!とっとと出てけ!」

「わかった」

 親父は黙って出ていくかと思ったが外に置いてあったハンマーを持ちだして来た。

「何する気だよ!やめろよ!」


 その日、俺は大切に育ててきたアカウントと、ゲーミングパソコンを失った。


「俺が何したって言うんだー!」



 不登校になって2年目を迎えていた俺に起きた悲劇。

 あれから引きこもり続けていた部屋のドアは取り払われ、俺の部屋は外から丸見えになった。

 暇でゲームをしたくてもパソコンがない。

 スマホで動画を見ていると時間はつぶせるが何も面白くない。

 俺の居場所はゲームの中にしかなかったのにそれもなくなった。

 死んでやろうかとも思ったが・・・やっぱり死にたくはない。

 何にしてもゲームもなくドアもない部屋に居ては落ち着かないので俺はかなり久々に外へ散歩に出かけることにした。


 時間は3時を回っていた。

 俺の住む天元と呼ばれる街は無駄に入り組んでいてここに住んでいたとしても俺のような引きこもりなら迷子になりそうな場所だった。


 俺はなんとなくこの街にある神社へ向かった。

 人知れず佇む無人の小さな神社ではあるが、子供の頃はよくここが遊び場であった。

 何がどうして今の俺があるのだろう。

 そう思って社を眺めているとどこからともなく女の啜り泣く声が聞こえてきた。

「何だ・・・?」

 暇だったので俺は声の主を探してみた。

 どうやら声は社の裏からするらしい。

 俺は植木の間を縫って声の方へ向かう。

 するとそこにはうずくまって泣いている女性の姿があった。

 俺は背後から近づいてそっと彼女の肩に手を置いた。

「きゃああああああああ!」

 その瞬間彼女は耳を貫くような悲鳴を上げた。

「うわあああああああああああ!」

 俺も悲鳴を上げてその場で腰を抜かした。

 何が何だか分からなかったが俺はその場で泣いてしまった。


「何・・・?誰・・・?」

 と彼女は言ったが俺が言いたいセリフだった。


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