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腹山 忠生

「誠司さん!!」

細野氏のワークショップが終わり次第、俺の姿を見つけた歩君が胸に飛び込んでくる。


「誠司さん!誠司さん!学校に来てくださっていたとは!」

歩君はスリスリと頬ずりしたまま、なかなか俺から離れてくれない。


「…なんだ?そのガキ。」

「今日お前に弁当を作ってくれた子だよ。訳あって預かってる子がいるって言っただろう?」


「へぇ〜一瞬、もう子持ちなのかと思って驚いた。」


「あっお前が東堂か!」

顔を上げるなり、歩君は東堂に向かって指を指す。


「…このガキ、初対面の癖に生意気だな。」


「お前、よくも誠司さんに恥を掻かせてくれたな!このクズ!」

「恥を掻かせられたのは俺の方だ。」

東堂は眉間にシワを寄せて歩君を睨む。


「ねぇ?誠司さん今日は一緒に帰りましょうよ! ホームルームも今日はなしで、もう帰って良いと先生に言われました。」


「そうなんだ? うーん。」


細野氏の周囲は既に別地区の署の異能警察にも囲まれていて、またこれから車で移動するそうだ。

一先ず、小学校では過激派組織の動きはなかった様子。

後のことは彼らに任せて、歩君を家まで送りながら署に戻っても良さそうだ。


「わかった。たまには一緒に帰ろう。」

俺が歩君の頭を撫でると歩君は満面の笑みを見せる。


「やったぁー!!ランドセル取って来ます!」

歩君はスキップで走っていった。


「はぁ?俺は一人で署に戻っていい?」

「ダメだ。」

「ガキと一緒なんて嫌なんだけど。」

「我慢しろ。」


俺は車に歩君と、無理やり東堂を乗せると車を走らせる。

「わぁ〜カッコイイ!!これが異能警察の車!!」

歩君が後ろの席で声を上げる度に東堂の眉がピクピク動く。


「早い!早い!誠司さんカッコイイ!!」

ほらまたピクリと動いた。俺はルームミラーで東堂の表情を何気なく観察していた。


「あっっ!!!!」歩君の甲高い声が車内いっぱいに響く。


「うるさいな!今度は何だよ!」

東堂は臨界点が限界にきたのか、ついに後ろを振り返って歩君に怒鳴る。


「あそこ!あそこに怪物がいます!」


「えっ何だって!?」俺と東堂は驚いて声を揃えて叫んだ。



  


現場へ急いで駆けつけて車を停まる。

「危険だから、歩君は車の中で待機しているんだ。東堂、急ぐぞ!」

俺は車のドアをバンと勢いよく閉めると東堂と怪物の姿が見える公園に急いで走って行った。


もう夕暮れ時、都会の喧騒が少しずつ静まり始めた頃、そこだけは人だかりができて騒がしかった。

人を掻き分けて、東堂と俺は怪物がいる中心地に飛び込む。


目の前には茶色の爬虫類のような肌、それに大きな足に鋭い牙と爪…。

ギョロリとした大きな目玉がこちらに向く。

「…恐竜!?」


「なんだ?お前達は??」

俺達の背後で低い声がそう言った。

急いで振り返ったが、先ほどの人だかり以外に声の主の姿が見えない。


「…ここじゃ。ここ。」

俺の上着の裾を誰かが引っ張る。

下の方を見えると、俺の背丈の半分もない小さな中年男性が俺を見上げていた。


「…あっすみません。この恐竜は一体…。」


「ああ、こいつか?こいつはな…。」

男性は歩き始める恐竜に向き直り、手に持っていた小型の投影機を操作する。

すると恐竜の姿はみるみるうちに消えてなくなってしまった。


「この装置は、我が開発した最新のホログラムプロジェクターだよ。周囲にホログラムのような映像を映し出すのじゃ。」


「えっ…。じゃあ実体ではないのか。」


「これを使えば、その場をエンターテイメントにできる。ほれ。」


男性はプロジェクターを操作し、広場が未来のテーマパークのように変わる様子を映し出した。ホログラムの遊具やゲームが次々と現れる。


「わーすごい!!懐かしい!」

歓声が上がる群衆の中から、歩君がはしゃいで飛び出してくる。


「こら!歩君、車の中に居ろと言ったじゃないか!」


「えっだって、誠司さん達が心配だったんですよ〜」と歩君は手をバタバタさせる。


「このプロジェクターを使えば、公園や広場を瞬時にテーマパークに変えることができる。例えば、子どもたちは恐竜の時代にタイムスリップし、恐竜の生態や歴史を学びながら冒険することも可能。我って天才。」


うん?この中年男性、何処かで見たことあるような…。


「…あなたは。」

「我は腹山 忠生その人なり。」


「あっ!」


ルチル アル・コーンの一人、腹山氏か!

背がここまで低いなんて知らなかった。

テレビで見るのと、実際会って話すとでは随分、印象が違うもんだな…。


俺が腹山氏に気を取られていると後ろの方から大きな歓声がまた上がった。 


「勝負だ!東堂!!お前をボコボコにしてやる!」


「やれるもんなら、やってみろ。」東堂は小型投影機を手に持つとぶっきらぼうにそう言い放った。


二人の間にホログラムで出来たキャラクターが現れる。

歩君側のカンガルーのようなキャラクターが瞬時に東堂の側のゴリラのような獣に襲い掛かった。


ゴリラは一歩後ずさると、カンガルーに向かって炎を口から吐き出す。

実にリアルな炎で周囲はオレンジ色に包まれ、人々の顔に反射した光がユラユラと揺らめくように映って美しい。


素早く炎を躱したカンガルーは、その拍子に高くジャンプして飛び上がる。そして、立派な長い足で踵落としをゴリラにくらわせた。


ゴリラの頭は激しく地面に打ちつけられる。その衝撃音が聞こえてこないせいか、リアル感がないのが残念だ。


カンガルーは着地すると瞬時に後ろへジャンプする。


「どうだ!参ったか!東堂!」


カンガルーのホログラムのキャラクターと同じポーズで歩君は右拳を高く上げる。

歩君にそう言われた東堂は歯がゆそうに顔を歪ませていた。


「ほう〜」

いつの間にか、腹山氏も俺の隣に並んで二人のゲームを感心したように眺めていた。


「操作方法をすでに使いこなしてる。若い人間は柔軟じゃの。」


「う〜ん。」

歩君が嬉々として、投影機を操作する背中を見ながら俺は腕組みをしながら考える。


「歩君、ゲーム好きだったんだ。知らなかった…。」


実は家には1個もゲーム機などない。

そういえば、歩君に何か欲しい物をせがまれたことが一度もなかった。

というか、東堂も何気に楽しそうに見えるな。すごく必死な姿は珍しい。


歩君と東堂のバトルがより加熱していくに従って、周りのギャラリー達の歓声も高くなる。

俺は一人それに取り残されて、腕組みをしながら考え込んでいた。


「今度、歩君の誕生日にはゲームを買ってあげよう…」




日がすっかり暮れると腹山さんは発明品を片付けていく。


「今日はオヌシ達のお陰で良い宣伝ができた。ありがとう。」


「いえ、こちらこそ勘違いして乱入してしまい申し訳なかったです。」


腹山さんは俺を見上げるとしばらくジーと俺の胸元を眺めていた。

「およ?オヌシ達、異能警察の人か?」


胸元の太陽の形をしたバッジは異能警察の証である。


「そうです。何か事件だと思ってここに掛けつけてしまったんです。」


「そうか、そういえば今日は周りの警護の動きが厚いから何事かと思ってはいたが…」


腹山さんはギャラリー達の奥で、控えている警察や警護の人間達をチラりと盗み見る。


「なあ?オヌシ達、今度我の家に遊びに来ないか?ゲームも沢山あるし、遊びたい放題じゃよ。」


「えっ!!本当ですか!行きます!」

歩君が体を前のめりにして、腹山さんの顔に近付いていく。


「あっもう歩君…もう仕方ないな。本当に良いんですか?」


「いいよ。色々お前さん達に試して貰いたいゲームがあるんじゃ。あんたも我のゲームで遊んでくれないか?」

腹山さんはそう言って、俺の隣の東堂の方にも目線を上げる。


「まぁ、別にいいよ。」

東堂は嫌がる素振りも見せず素直に頷いた。


「じゃあこれが我の連絡先じゃ、オヌシ達の休みの日にでも来てくれ。」


腹山さんは自分の背よりも大きな荷物を背負うとゆっくり去っていった。



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