プロローグ
[タイトルコール]
目の前の全てを疑え、疑うほどにその力は大きく強くこの世に権限する。
1秒1秒の間に虚空が果てしなく広がる。
私は時を止めたかった。だから、一旦思考を停止させた。
それでも、テレビモニターに流れ出る無数の文字と情報。そこから弾き出される羅列。
形や声でさえも、脳は全てを拒否したが私の目だけはそこから離れることはなかった。
『日上 明日香』
大きく自分の名前が写し出されると何故?と
疑問が頭を駆け巡る前に、後ろの方で携帯の着信音が鳴り響いた。
それが口火となったように、続けてPCのSNSの通知音、固定電話の着信音、インターフォンのコール音まで鳴り響き、部屋は隅から隅まで音と音で溢れ返る。
人工知能『カリプソフィア』―大いなる海の叡智―
は1400年の歴史上、1度も狂ったことがなかった。
そんな噂を私は1ミクロンも聞いた事がない。
しかし、今日のこの瞬間に恐らく狂ったのだ。それは間違いない。
もうこの都市も、沢山の人達の生活も、そして私自身の生活も間もなく終了するのだろう。
私は肩を落としたようにその場にへたり込む。
その時に足が当たった反動で、後ろのテーブルから携帯が転がり落ちた。
クルクルクル、パッタン。
携帯はゆっくり私の目の前で止まったかと思うと、着信音の主の名前を表示する。
画面に表示された名前を見て、私はその瞬間ひどく安堵した。
久しぶりに大きく息をしたようだった。
私は吐いた息をもう一度、勢いよく吸い込むと躊躇なく携帯を拾って、通話ボタンを開放する。
「――――はい。もしもし…………」
「――――――――――」
「――――−−」
「……」