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地味男子、美少女を助ける

「おはよー」


「おはよう」


春も終わりを迎える通学路で大勢の生徒達が挨拶を交わしながら歩く。

俺・池本智也(いけもとともや)は、そんな生徒達の様子を黙って見ながら歩く。


「……ふぅ」


長い坂道を歩いてようやく自分の通う学校・中洲川高校に到着する。

県内でもそれなりの進学校であるここに家から近いからと言う理由だけで通う事にしたが、この坂道は正直きつい。週5で3年間通うには無理があるかも知れなかったと入学して1ヶ月以上たった頃に気がついた。まぁそれも後の祭りと言うやつだ。どうせ3年経つ頃には慣れるだろう。

そんな事を考えながら我がクラス1年1組の教室の扉を開ける。


「おはよー」


『……』


……返事は誰からも返ってこない。一応顔は向けられるが、それも扉が開いたから思わず目線がそちらに行っただけと言うものだ。直ぐに皆元に戻り、ホームルームまでのそれぞれの時間を過ごす。


「……」


まぁ、仕方がない。こんな地味な奴誰も気にしないか。

俺は中肉中背、平凡な顔と黒い髪と言う地味な容姿な事もあり目立たない。ぶっちゃけクラスメイトに名前も顔も覚えられていないかも知れないとすら思っている。

まぁ、平穏な生活を望む俺からしたらそれもいいかな思っているが。


「おはよう樋山さん」



そんな事を考えながら席に着くと、すでに席に着いて本を読んでいる隣の席の生徒に挨拶をする。


「……」


俺が挨拶した相手、樋山由香里(ひやまゆかり)さんは

こちらに目を向けたが、直ぐに読んでいた本に視線を向け直す。

黒い髪で二つの三つ編みを作り、眼鏡をかけている。

制服をきっちりと着こなしており真面目な印象を受ける。

まぁ、彼女も所謂地味な生徒で、俺と同じくクラスでは空気の様な扱いをされている。

少しスレンダーだが、それなりに美人で、見た目を変えれば華やかになるのではないかと思っている。


「……」


相変わらず無口だな。

隣の席と言う事で挨拶は毎日しているが、返してもらった事はない。会話はしたことはあるが、必要最低限の事しか話ていない。


「……はぁ」


半ば諦めた気分で鞄から教科書とノートを出し、授業の準備を済ませる。


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いいじゃん。一緒に遊ぼうぜ」


「遊びませんよ!!」


「いいから行こうぜ」


「嫌だと言っているでしょう!!」


土曜日。家にいても退屈だからと街に出てみたら、女の子が二人の男と言い争っているところに遭遇した。

どうやら男達がナンパして、それを女の子が拒んで、男達がしつこく誘うから女の子もムキになっている様だ。


周りでも何人かがその様子を見ているが、全く助けに行かない。

まぁ、それはそうか。あんなのに関わろうとは思わないよな。可哀想だが、ここは見て見ぬフリをしよう……。


「嫌だってば!!離して!!」


背後から一際大きな女の子の声が聞こえる。

思わず振り返ると、男の1人が女の子の腕を掴んでいる。強引に引き連れようとしているのだろうか?

流石にこれは見逃せないか……いや、俺が出しゃばったところで……。


「誰か!助けてください!!」


「っ!!」


その言葉を聞いた瞬間、俺の迷いは消え、気がついたら3人の元に向かっていた。


「おい、やめろよ。その娘嫌がってんだろ」


「ああん?」


「誰だお前?」


「あ……」


いきなり現れた俺に男達の視線が集中する。


「嫌がってるんだから、手を離せよ」


「なんだお前。この娘の連れか?」


「違うけど、助けないとと思っただけだ」


「は〜、正義の味方気取りかよ。だったら力ずくで助けてみろよ!!」


そう言うと男の1人が俺に向かって殴りかかってくる。

それを俺は素早くかわし、ガラ空きの腹に拳の一髪を見舞う。


「ぐふっ」


そのまま男が道に倒れ込む。


「お、おい!大丈夫か?」


仲間がやられたためもう1人の男が女の子の腕を離し、仲間に駆け寄る。


「今だ、逃げるぞ!!」


「あっ」


その隙に俺は女の子の手を取り、急いでその場を離れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ、はぁ」


「はぁ、はぁ」


俺たちは少し離れた公園のベンチに座り、息を整える。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます……」


「あぁ、いいですよ。思わず体が動いたようなものなので……」


顔を上げると女の子がお礼を言いながらこちらをまじまじと見てきた。


「あれ?池本くんじゃないですか」


「……え?」


何故か女の子が俺の名前を言ってきた。

なんで分かったんだ?悲しいが俺にこんな美少女の知り合いはいない。もしかしたら人違いかも……。


「あぁ、この格好じゃわからないですよね」


そう言うと女の子は鞄から眼鏡を出してその美しい顔にかける。


「あっ!」


「私です。樋山由香里です」


その顔は多少化粧をしているので地味さは全くないが、間違いなく樋山さんだった。


読んでいただきありがとうございます。

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