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07 追い掛けて来た王子様

 私は朝食の後は図書館へ向かい、この国の貴族文化についての勉強をした。


 とは言っても、専門書を何冊か一度読んだだけですんなり理解出来るから、この身体は既に学習して会得している知識だからかもしれない。


 私は朝食後は腹ごなしの散歩と言って、デストレ城の中を探索をしていた。堅固なデストレの城塞は巨大で、そのすべて巡るには、かなりの時間を要すると思う。


 今朝は城門のあたりで何やら騒ぎがあったようで、ざわざわと騒がしく、城壁に居た私はすき間から顔を覗かせ何気なく見ると、そこには見覚えのあるまばゆい金色が見えた。


 え……あれって、もしかして、リアム殿下ではない?


 邪魔者の婚約者と婚約破棄して、ようやく好きな女性と結ばれることが出来るようになった彼が、どうして……こんな王都から遠い辺境のデストレに居るの?


 リアム殿下はヴィクトルと話をして、やがて諦めたのか、臣下数人を連れて引き下がって行った。


 その日の夕食時にも、ヴィクトルはいつも通りで私に誰が来たとか、何も言わなかった。


 彼の態度を見るに……もしかしたら、リアム殿下は私がここに来てから、会いに何度も来ているかもしれない。


 元婚約者の私に、会いに来たのは……どうして?


 リアム殿下は、明確に婚約破棄を言い渡したはずなのに。


 うーん……婚約破棄したものの、やっぱり君が好きパターン? 後になって、後悔したとか……。


 けど、もしそうならば、ヴィクトルが私を助け抗議したあの時に、それを種明かしされてないとおかしいよね。


 だって、私はデストレ辺境伯ヴィクトルの未来の結婚相手としてここに来ている訳で、それを理解しているならば強硬に止めるはずだもの。


 メイド長テレーズにヴィクトルから聞いている振りをして、それとなく確認すれば、どうやらリアム殿下は父王の陛下からも、色々と勝手をしてと怒られているらしい。


 だから、ヴィクトルは仕えるべき王族と言えど、あんな風に追い返していたんだ。納得。


 単に婚約破棄されて可哀想だった私を助けてくれたヴィクトルに対し、私に会わせろと何度も何度も迫っているらしい。


 なんなの……自分が私に一方的に婚約破棄した癖に、行動が一致しない。


 けど、プライドの高そうな王子様があんな風に門前払いされてしまえば、もう帰ったよね……きっと。


 それからまた数日して、テレーズからデストレ城内に、小さな花畑があると聞いて、私はそこへと遊びに行く事にした。


 なんでも、その花畑は山の中にあるものの、切り立った山の中にあって、進入路が何処にもないから、外だけど安全なのだ。


「……わー! すっごく、綺麗!」


 色とりどりの花畑は自然の産物のはずなのに、まるで庭師に計算されたような配置で咲いていた。


 城塞都市デストレに慣れてきた私は、腹ごなしのための散歩は割と自由にさせて貰っていて、その日だって場所を聞いて一人で到着し花畑に夢中になっていた。


 ……誰かが近くに居ることになんて、まったく気が付かず。


「……レティシア」


 その声を聞いて何気なく振り返り、私は驚きで目を見開いた。


「えっ! リアム殿下? どうして、ここに?」


 そこに居たのは、ヴィクトルに追い返されたはずのリアム殿下だった。


 略式だろうけど王族らしい立派な服も薄汚れていて、状況から見ると城塞都市の高い壁をよじ登って来たのかもしれない。


 おっ……王子様だよね? 守られる立場でひ弱でも許されそうなのに、身体能力がすご過ぎて怖い。


 ……っていうか、この人、私が見た時から、ずっとデストレに居たの? 王族って、普通は公務で忙しくないの?


 私は彼を見て警戒を隠さずパッと立ち上がると、リアム殿下は必死な表情を隠さずに慌てて言った。


「まっ……待ってくれ。とりあえず、俺の話を聞いてくれ!」


 それは、無理ではない? だって、あんな風に婚約破棄された婚約者から、何の話を聞くの?


「わっ……私は、話はないです!」


 花畑の中を走り出そうとしたら、ぬかるんだ沼に右足を取られてしまった。必死で足を抜こうにも抜け出せず、へたりこんでしまった。


 嘘でしょう……やだもうっ……リアム殿下の前から去ろうとしたら、どうしてこうなるの? 恥ずかしい……穴ほって埋まりたい。


「レティシア。落ち着いてくれ。こういう沼は、慌てて抜け出そうとすればするほど、嵌まっていくものなんだ。ほら……大丈夫だ」


 リアム殿下は服や手が汚れるのも構わずに、助け出してくれた。私の勘違いでなければ、私に向ける表情や視線がすごく優しい。


 彼はハンカチも持っていたけれど、自分よりも足が汚れて座り込んでしまった私を先に拭いてくれた。


「この前も……転んでしまったのに、恥ずかしい……ごめんなさい」


「大丈夫だ。君は……本当に、そういうところも可愛い」


 不意に甘い視線を向けられて、危うく恋の沼に落ちそうになった。


 待って。待って……これって、私のこと……まるで、好きみたいに見えるけど?


 だって私たち、婚約破棄した王子様と、悪役令嬢だよね……?


「ごめんなさい……私、もし必要な手続きがあるのなら、ちゃんとします」


「え?」


 そう言えば、リアム殿下は婚約破棄した後に、罪を犯した私と話があると言っていたような気がする。


 けど、私は前世の記憶を取り戻したばかりで、彼に対し失礼なことをしてしまった。


「リアム様には、愛する人が居るんでしょう? だと言うのに、元婚約者の私を追い掛けるなんて、きっと……何か重要なお話が、あるんですよね?」


 リアム殿下は私の言葉を聞いて、暫しぽかんとしていた。超絶美形な王子様のぽかん顔って、とても珍しいよね。結ばれることのない元婚約者だけど、目の保養には変わりないわ……。


 私たちはしばらくお互い違う意図で見つめ合い、はっと我に返ったリアム殿下が片手を上げて首を横に振るまで続いた。


「いや、待て……待て待て待て。レティシア……君は記憶がなくなっているんだな。やはり、そうだったのか。ヴィクトルに操られるような、おかしな術でも使われたと思っていたが」


 記憶がなくなったことに、気が付かれた? それはそうだよね。実際ないし。


「きっ……記憶に混乱があることは、その通りです」


「やはり……ヴィクトルは、それを知っているのか?」


「いいえ。ヴィクトルには、それは言っておりません。けど……私は聖女様との仲を、引き裂くつもりはありません!」


 前世の記憶を取り戻し、この世界での常識も取り戻しつつある今、リアム殿下に貴族令嬢時代の記憶がないことを今初めて認めることになり、私は緊張してしまった。


 だって、リアム殿下……さっきは私に悪意がなさそうな味方っぽいムーブをしたけど、それって、まだ確定した訳ではないし……。


「いや、待て。どうか、落ち着け。レティシア。記憶を失っているんだろう? 君のその話は誰に吹き込まれた? あの婚約破棄は、演技で偽装だ。必要あってやったことで、俺はレティシアを裏切ったことは一度もない」


「え?」


 今度は、私はぽかん顔をする番だった。自分では見えないけど、ぽかんとしていると思う。


 だって、そうせざるを得ないっていうか……。


 ……偽装婚約破棄って何?


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