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04 異世界から来た聖女

「レティシア。それでは、早速帰りの天馬車まで、このまま向かいます。君の生活に必要なものは、僕は全てすぐに用意させますので、これからについては、着の身着のままで何の心配も要りませんよ」


 ヴィクトルはそんな会話をしつつも、歩みを止めない。ここで私は先程から彼に言いたかったことを思い出した。


「あっ……あの、ヴィクトル。実は私……さっきは不注意で転んでしまっただけで、別に足を痛めたりしていないんです……だから」


 私は抱き上げた腕から下ろしてくれれば自分で歩くと言いたかったんだけど、ヴィクトルは降ろす気はさらさらなさそうで、何故か城の階段を上へ昇り出した。


 今……確か馬車を、用意するって言ってたよね?


 簡単には戻れなさそうに言っていた遠方への移動だし、時間がかかるのかもしれない。


 用意された待合室か、何処かに行くのかもしれない……? このまま貴族の常識知らないで動くって自殺行為だし、本当にヴィクトルが出て来てくれて良かった……。


「レティシア。淑女が足を痛めていないと、こうして移動してはならないという法律はありませんよ」


「だって……その、私……重くはないですか?」


 私の着ているドレスは、王太子の婚約者として相応しくとても豪華で、とても重い……そんな私の心配を聞いて軽く笑うと、ヴィクトルは楽しそうに言った。


「辺境伯の仕事を、知っていますか?」


「え。国境を、守ること……?」


 唐突にされた質問に、私は何を聞くのかと戸惑った。確かヴィクトルはさっき、自分でそう言っていたはずだけど。


「そうです。敵や魔物を国境で退けている騎士団の司令官なので、この程度の重さをこの距離歩くことが出来ないようでは、とても務まりません。どうか、気にしないでください。僕がやりたくてやっているだけなので」


「……ごめんなさい」


 そんな彼にまるで力ない男性だと心配したように聞こえてしまったかもしれない。失礼なことを言ってしまった。


「謝るようなことでもないですよ。レティシア。公爵令嬢は、自分より身分の低い者に対し、このように簡単に謝ってはいけません」


 そっか……そうだよね。貴族って難しい。ヴィクトルに辺境に匿って貰う間に、勉強しなきゃ。


「ごめ……ふふ。まだ、謝るところでした」


 日本人って、他の国の人からすると、驚くくらい謝っているっていうよね……いけないいけない。合わせなきゃ。


 せっかく幸運すぎる偶然でヴィクトルに助けて貰ったと言うのに、怪しまれてもいけない。


「いや……僕の都合もあります。ドレスを着た君の歩幅に合わせていたら、目的の場所に到着するまでに夜が明けてしまうという危険性もあります」


 それは多分、ヴィクトルには茶目っ気を出した冗談なんだろうけど、それって確かに冗談で終われないかもしれない。


「ヴィクトルの言う通り……この速度では、私は絶対に歩けないです……」


 階段もこんなに颯爽とした速度で上がれないし、何もかもヴィクトルの言った通りだった。


 それに、彼は今夜中に自分の守護する辺境に出発しないといけないだろうし、早く行かなきゃと言うのならそうだろうと思った。


「……ああ。いけない。レティシア。顔を伏せて」


「はい?」


 私はヴィクトルが指示した通りに、顔を伏せた。そして、かなり移動してから、ヴィクトルが言った。


「……あれですね。なるほど。この世界の人間では見ない、特殊な顔立ちをしていました」


「え?」


「……これは、僕の推理なんですが、リアム殿下に近づいた女性はおそらく、この前に異世界から来たというあの聖女でしょう。違いますか?」


 えっ……異世界から召喚された、聖女ヒロインだったんだ。


 けど、すごい。もしかして、現代日本から来ているのかな? 生きていたのは同じ時代なのか、話してみたい気もする。


「あ。そうです。私が嫌がらせをしてしまった……人です」


 覚えてはいない……けど、悪役令嬢の私と聖女ヒロインの彼女の関係上、しかも婚約者の王子様から婚約破棄されたってことは、それなりの被害を与えたってこと。


 十中八九、彼女には嫌われている。もしくは、可哀想な人と哀れまれている。記憶は無いけど悲しい。


 だから、ここで私たちが顔を合わせてしまうのは、あまり良くないし、そういった意味では、さっきのヴィクトルの対応は適切だったと思う。


 ヒロインは自分を虐めていた悪役令嬢の顔なんて、もう見たくないよね。


「レティシアが、責任を感じる必要はありません。王家には、異常に異世界の聖女の血を神格化している風潮がありますから。リアム殿下もそういった利点に、目が眩んだのでしょう」


「そう……ですね。異世界からの聖女ならば、きっと、この世界の誰にも敵いませんから。だから、諦めのつくような気はします」


 まるで私のために用意されたヒーローのように助けてくれたヴィクトルが、そんな彼女の攻略対象ではなくて良かった。


 多分、主要人物っぽい男性二人は顔が良過ぎて、召喚された聖女ヒロインが居るなら、ここは乙女ゲーム世界。


 複数ヒーローと結ばれる逆ハールートでもなければ、攻略対象は彼一人のはず。


 元婚約者リアムだったら違う女性に取られてしまって良いのかって、そういう話でもないけど……リアム殿下がヒロインや悪役令嬢、はたまた誰を伴侶に選ぶかという選択は、彼自身が下すはず。


 だから、選んでもらう立場の私が、どうこう言える問題でもない気がする。

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