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02 素敵な辺境伯

「……ヴィクトル。今、大変なはずだ。デストレ辺境伯の君が、何故ここに居る?」


 信じられないと言わんばかりな表情の王子様リアム殿下は、私が転んで伏せていた短い間に階段を下りていた。


 私にとっては初対面に近い人なので、ここでどんなに嫌われていたり恨まれていたりしようが、心は痛むはずはない。だって、婚約破棄済みだし、好かれることはないと言い切れる。


 正直、美形王子様で、目の保養で素敵ー♡ とは、なってしまうけど、芸能人と一緒で、顔と名前を知っているだけだもの。


「……急な勅命で陛下に呼ばれたもので、王太子たるリアム殿下にも、こうしてご挨拶に。僕は臣下として十分に、礼は尽くしているはずです。殿下のこのような場に居合わせてしまうとは、驚きでした」


 挑戦的なヴィクトルさんの言いように対し、リアム殿下は不快そうに眉を顰めた。


「……ヴィクトル。レティシアを降ろせ。彼女は罪を犯した。僕たち二人はこの後、話し合いをしなければならない……足を痛めて歩けないのならば、僕が代わろう」


 あ……話し合い? 悪事についての取り調べとか、婚約破棄後の処遇を話し合うとか?


 正直、困る……だって、何話したら良いの。私は前世含め婚約破棄されたのはこれで初めてだから、何分手続きがわからないけれど、そういうものなのかもしれない。


「……レティシア・ルブラン公爵令嬢に罪があるとするならば、先ほど十分に罰は受けたはずです。王太子から公衆の面前での婚約破棄? 未婚の貴族令嬢ならば、それは死刑宣告に近いではないですか……なんと、非道な……」


 婚約破棄ってそういうものだしと、逆に冷静な私は変な知識があり過ぎなのかもしれない。怒っているヴィクトルさん対し、不機嫌なリアム殿下は重ねて言った。


「くどいぞ。ヴィクトル。先程の俺の言葉が、聞こえなかったのか? 今すぐにレティシアを離せ」


 リアム殿下が近付いて手を広げたので、王族の彼がここまで言うのなら降りるべきかと、私は抱き上げてくれていたヴィクトルさんの腕から降りようと身じろぎした。


 けれど、ヴィクトルさんは、腕に抱いた私を抱きしめたまま離さない。


 ……え? 王族に逆らって、この人は大丈夫なの?


 指示に従わないヴィクトルさんは、淡々とした口調で続けた。


「リアム殿下。非常に申し訳ありませんが、それは出来ません。それに、現在レティシア・ルブラン公爵令嬢は、婚約破棄され貴方の婚約者ではない」


「……なんだと」


「つまり、このような状態で私的な交流を持つことは、適切ではないかと。何か書類が必要ならば、ルブラン公爵家へ後ほど届けさせてください。取り調べならば、僕も同席を望みます」


「では、これは命令だ。ヴィクトル。レティシアを離せ」


「確かに彼女も僕も、陛下や殿下に仕える貴族ではありますが、要請に対し拒否権のない使用人でもありません。それに、女性にこのような酷い仕打ちをしておいて、すぐに二人での話し合いも何もないと思われますが……紳士的な殿下はその辺は、どう思われますか?」


 私は息を呑んだ。鼻で笑ってないけど笑ってそうなヴィクトルさん、強い。権力者であるはずの王子様へ、弁護士ドラマの弁護士並みな、まくし立て方をしている。


「ヴィクトル……」


 婚約破棄したばかりの女性に対し、そんな命令などありえないと肩を竦めたヴィクトルさんに、リアム殿下は鋭い目つきで睨んだ。


「……それでは、これで失礼します。もし、このように故意に傷付けた彼女に何か伝えたいことがあれば、第三者を通してご連絡ください」


「殿下、しっ……失礼します!」


 私はヴィクトルさんに続いて、リアム殿下に退出の挨拶をした。何故か、それを聞いて彼は信じられないといった表情になった。


 ……なっ……何? 悪役令嬢なのに、私、礼儀正しかった?


 私の性格が今までどうだったかは知らないけど、普通挨拶は基本だよね?


 呆然とした王子様と何故か歓声を上げて拍手をした貴族たちに見送られ、両側に居たドアマンが大きく扉を開いて、私たちは夜会を開催していた大広間から出ることになった。


 わー……すっごい。豪華ー! 私たちが居たのは、美しい白亜のお城だった。


 ヴィクトルさんは迷いない足取りで、城の広い廊下を歩いた。足が長い人って、普通に歩いているだけで、こんなにも速度が出てしまうものなの……?


 しかも、彼の身長が高いものだから、私からすると若干ジェットコースターみたいな感覚がある。


「レティシア……大丈夫ですか?」


 考え事をしてぼうっとしていた私は、不意に声を掛けられて慌てて頷いた。


「あ……はい。大丈夫です」


「本当に?」


 ヴィクトルさんの整った顔は息がかかるまで近く、私はもうそれだけで、顔から火が出そうなくらいに恥ずかしかった。


 ……近いー! 近いー! すっごく、格好良いけど!


 美形の問い正し、ときめき過ぎて、一乙女の胸を痛くした罪で完全に有罪だよ……慰謝料を払ってもらいたい。


 無理無理……こういうのって、画面越しだから、尊くてキュン死とか、愛し過ぎて病むとか悠長なこと言っていられるけど、リアルでこんなの難易度高すぎて、ここで可愛いこと言ったりなんなら強がりツンしたり、そんなの絶対無理ゲーだよ。


 ……これは、もう早々に恋が始まる予感しかしない。ここは乙女ゲームの世界っぽいけど、本当のところどうなんだろう。


 ……もし、そうならば、話は早いはず。多分、ヒロインはリアム殿下を攻略して結ばれているはずだから、ヴィクトルさんは攻略されていない。


 ここで彼本人に、面と向かって聞くわけにはいかないけど……ヴィクトルさんは、私のことをどう思っているんだろう……。


 乙女ゲームで婚約破棄されてしまう悪役令嬢って、役割上の問題で、ヒロインに負けていないくらい容姿は良いと思う。


 だけど、私の脳内では自分を飾ることに興味がない独身喪女が、美男に抱きかかえられている光景しか想像出来なくて、なんだかシュール。


 脳内自分像の修正が必要だから、取り急ぎ鏡が欲しいです。


 というか、いけない。このままずっと見るだけでいられそうだけど、ヴィクトルさんは、私の反応を待っているみたいだった!


「あ……あのっ、ごめんなさい……初対面なのに、こうして助けて頂いて……ヴィクトルさんが居てくださって、本当に助かりました」


 美男が間近なシチュエーションへの緊張のあまり、私がたどたどしく感謝の言葉を伝えると、ヴィクトルさんは不思議そうな表情をしてから頷いた。


「……? ああ。レティシア。僕のことは、ヴィクトルと。君の方が身分は上なので……しかし何故、君がリアム殿下に、婚約破棄されることになったんですか?」


 ん? あ。私……つまり、レティシアが属するルブラン公爵家より、ヴィクトルさんのデストレ辺境伯家の方が、格下になってしまうって話なのかな?


 公爵家って王家の血筋が入った最上位爵位だから、そうなっているのかもしれない。自分の死因もわからないうろ覚え現代知識によると、きっとそう。


 それに……うんうん。ヴィクトルだって、婚約破棄されるなんて、どうしてって思うよね。


 婚約破棄された理由、とても気になるよね……私だって、実際のところ、気にはなってる。普通に覚えてないし。


 けど、大丈夫。


 よしんば記憶がなかったとしても、悪役令嬢が婚約者の王子様から婚約破棄される理由は、大体、この理由一択だから。

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