☆銀連TIPS:『スペースヴァンパイア種』
スペースヴァンパイア種とは、人工的な遺伝子操作によって生み出されたアーキテクトミュータントである。
その興りは古く、まだ原生地球人が他星系種族とのファーストコンタクトを為す以前にまで遡る。
東ヨーロッパ土着の伝承に端を発する吸血鬼をモチーフとして設計されていることは説明するまでもないだろう。
眉目秀麗。不老不死。吸血衝動。変身・魅了能力。日光に弱い。などなど。時代を経て様々な創作作品で繰り返し語られるごとに、多くの特徴が付与され、魅力的なイメージが固められていった架空世界の住人である。
遺伝子工学の賜物である実在の種としてのスペースヴァンパイアは、時代ときどきの流行り廃りによって、所謂ヴァンパイアらしい諸々の特質の中から、その都度、好ましいものを選び取り、それこそ変身能力のように、自在の特徴を備えるのが常であった。
例えば、吸血鬼の代表的特徴と呼べる吸血癖についても、極めて抗い難い本能的な衝動として組み込まれていた時代もあれば、現在のように、単なる味覚的嗜好の一端に現れるだけの場合もある。
呼称の頭に付く〈スペース〉とは、宇宙世界開拓期に重宝された大気圏外での活動適性(強度の宇宙放射線耐性)に依拠したもの。
艦構造の洗練により宇宙線問題を克服し、また原始的な船外活動などもほとんど必要のなくなった現在では無用の長物であるが、無用であるが故に銀河連盟憲章による〈固有表現型遺伝子類の大粛清〉を免れ、彼らの種を同定するための指標の一つとして今なお残されている。
同じく一時期付与することが大流行した赤外線視覚は、出自が人工的に操作された結果であることが明らかである、という他星系種族からの主張を受け、彼ら天然の種族的独自性を尊重する観点から、遺伝子操作による付与が全面的に禁止された。
そのため、昔はスペースヴァンパイアと言えば、宇宙社会の主役を荷うエリート集団というイメージが付いて回ったが、こんにちメランらが暮らす世代の銀河連盟社会ではそのようなイメージは全く持たれていない。どちらかと言えば、人口割合が増えすぎて、陳腐化を厭う声が聞かれる程である。
このように、一概にスペースヴァンパイアと言っても、それがいつの時代かという背景情報なくしては、彼らの性質を型にはめて語ることが難しい。
古い映画やドラマ、果ては裁判の判例において、スペースヴァンパイアが登場した場合に膨大な注釈を必要とするのは、特に変化の激しいスペースヴァンパイア種特有の悩みの(或いは自虐的ジョークの)タネである。
なお、作中登場するイザベル世代の最新のトレンド様式は、発達した嗅覚を特徴としている。
世代を経ても一貫して変わらなかった容姿端麗(無論、原生地球種族の美醜感覚においての話だ)という特徴と併せて、その特徴は、交配適齢期の異性の発情を敏感に嗅ぎ取り、誘惑する手管に一役買っているらしいとの噂だ。