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☆銀連TIPS:『侵略者としての統一銀河連盟』

統一銀河連盟という組織について、本稿だけを頼りに理解を試みようとする諸氏の中には、もしかするとこれまでの項を読み、「統一銀河連盟とはなんと平和的で立派な組織なのだろう。大盟主地球人万歳」という感想を抱いた者もいるかもしれない。

確かに、数百年というおよそ短い期間に巡り合った多数の知的生命体とことごとく友好的な関係を築き、それが数千年経った今なお続いている(それも目立った武力衝突もなく)という事実は賞賛に値するだろう。


だが、物事には表があれば裏もあるもの。……と、こんなふうに書くと誤解されるかもしれないが、どうか早合点は待って欲しい。

実は地球人が連盟という看板の裏で、他星系での資源収奪や人身売買といった非道に加担していた、などという報道映えしそうな短絡な物語は存在しない。少なくともここで語るべき規模のものは存在しなかった。

ここでいう裏とは、所謂地政学的必然に類する補足である。


所謂いわゆる〈大会合時代〉に生じていた各種族間の関係は、規模こそ違えど、本質的には地球の大航海時代に西欧諸国がアフリカや南北アメリカ大陸、アジアに対して持ちえた優越的構造と大差がないと言える。

違っていたのは先駆者たる地球人類がかつての歴史とその後に残した禍根を知っていたことと、それに、自らの道徳心を損なうことに見合わないと思う程度には資源的に満ち足りていたことだ。

他の知的生命体とえて軋轢あつれきを生まずとも、同等の資源や土地は他の、より原始的な惑星から獲得すればよいのだ。彼らが到達していた科学力と宇宙の広大さはそれを可能にしていた。


収奪競争に代わって当時の地球人類が気を配ったのは、自分たちよりもより高度な科学技術を有した知的生命体によって、いつか自分たちが発見、あるいは既に監視を受けているのではないかというリスクについてであった。


リスク──言い方を変えれば〈恐怖〉である。

今ここで自分たちが科学技術的に劣る他星系種族に対し侵略や殲滅という野蛮な態度で接すれば、いつの日か自分たちがそれとそっくり同じ構図で仕返しをされるのではないかという〈恐怖〉だ。

聡明さや善性などではなく、彼らの種族に備わった臆病さが、非暴力と融和を標榜する統一銀河連盟を成立させたのである。

仮に自分たちが太刀打ちできない程の相手と遭遇した場合、自分たちも同じように厚く遇されることを期待し、また、それが叶わない場合でも、多くの味方と連合することで、その存在に対抗しようと試みたわけだ。


しかしながら、それからさらに時が過ぎ、あまねく宇宙の端々にまで目を行き届かせることができるようになった頃、彼らは、どうやら本当に、この宇宙においては自分たちが先頭走者であったことを知ることになる。

結局、覇権のために争い続ける悪の宇宙帝国や、根本からの相互理解を妨げる高位存在などはどこにもいなかったのである。

その、実に都合のよい偶然が、その成功体験が、彼らの種族的意識の中に別の重要な思想の種子を育むことになるのだが……、本項においてそれは大きな脱線となるので、ここでの言及は控えることとしよう。



ところでお察しのとおり、平和的な態度で接したというだけで、遭遇時の武力衝突を避けたり、以後約一万年にも及ぶ長きに渡り内紛もなく繁栄を築き得たと考えるのは無理がある。もちろん、それについても別の説明が必要だろう。


活動圏が太陽系を越え、外宇宙に繰り出した頃の地球人類は、当然それ以前から、自分たち以外の知的生命体と遭遇した場合の対応方法マニュアルを検討していた。

それは決して場当たり的ではなく、純粋な善意でもなく、極めて周到に準備されていたという点で邪悪的とすら揶揄やゆされる外交様式であるのだが──、彼らは自分たち以外の知的生命体と遭遇すると、決まって自分たちが持つ科学技術を相手に教え、分け与えることをしたのだ。

真っ先に与えたのは、ほぼ無尽蔵というべきスケール感で生み出すことのできるエネルギー技術である。


何故か──?

一見大盤振る舞いにみえるそれが罠なのである。

地球人類は自分たち自身が辿った足跡から、エネルギー問題の解決が、皮肉なことに種族全体の活力を奪うことを理解していた。

争うことや富を得ることに意味がなくなることは、即ち科学的・文化的な停滞を生んだ。

先駆者である地球人類たちにとってはまだ、ワープ航法による外宇宙への船出や原子資源マテリアル獲得という動機が残されていたわけだが、それと同じ技術が、外からやって来た者たちによって、何の苦労もなく手に入った他の星系人種の場合はどうだろうかと想像してみて欲しい。


もちろん何もかも一足飛びには起こらない。社会構造の変化も、それに伴う人々の意識の変化も、何世代にも渡る時間を掛けて行われるものだ。

だが、長いスパンで見た場合、地球人類と遭遇した星系種族の社会は──それがどんな社会形態であるにせよ──恐ろしく似通った成長カーブを描き、自発的な活力を失っていくのが常だった。

何故なら、およそどんな分野においても、地球由来の科学が巨大な壁としてそびえ、彼らの先を行っているのだから。

地球人類に対し、彼らが畏敬の念を払い、統一銀河連盟に従順にみ従うのは、彼らの自発的意思ではなく、地球人たちが予め周到に準備していた方策によって、そのように仕向けられているからと言ってよいだろう。


そして、その武力なき拡張のサイクルを獲得した地球人類(=統一銀河連盟)は、探索の精度と規模を増し、この広大な宇宙に彼らの目の届かない陰をなくすことに全力を傾けた。

生命が存在し得る惑星には予め目印ビーコンを置き、何千年という規模感で外から観察を続けた。そして稀に文明社会のおこりを認めると、適当なタイミングとプランに則って、統一銀河連盟が新しい星系種族を〈発見〉するのである。


ある日突然、空から自分たちを凌駕する別の知的生命体が降臨し、偉大な叡智を授けてくれる。それまで彼らにとって深刻であった問題は全て無きものとなり、生活水準は眩暈めまいがするような向上を遂げる──。


もはや重ねて言うまでもないだろう。

統一銀河連盟にとってそれは本当の意味での善意の現れではない。成長の段階にある新興種族に〈大きなふた〉をすることで、科学技術や社会、文化に一意の方向を与え、自分たちと相容れない進化をしようとするイレギュラーの発生を決して許さないための、利己的な動機に基づく行動なのであった。


存在しない──〈見えないもの〉によって、自らがおびやかされるかもしれないという〈恐怖〉が統一銀河連盟が維持・存続される動機であり、創造時から続く、彼ら銀河連盟人という種の根本原理なのである。

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