☆銀連TIPS:『ミャウハ族と獣人種』
銀河連盟に初めてミャウハ族がお目見えしたときの衝撃は、それだけで分厚い本が何冊も書けるほど強烈なものであった。
主に専門家を唸らせたマダグ族との違いは、説明不要の、その分かり易い見た目にある。
地球人類が挙って宇宙に繰り出すより遥か昔から、彼らの紡ぎ出す空想の世界には、ネコ科の動物をそのまま人間の体格にしたような亜人種が息づいていた。
それがイラストやCGではなく、実際に血肉を持った存在としてそこにあり、尚且つ地球から遠く離れた惑星で、彼ら独自の文明を築き上げていたと知ることは、当時の地球人類にとってすこぶるロマンを掻き立てる出来事だったのである。
遭遇当時のミャウハ族は、文明の科学水準で言えば農耕革命から緩やかな産業革命へと至る過渡期にあった。
地球人類との力の差は歴然としていたが、誇り高い彼らは星々の向こう側からやって来た来訪者に対し、安易におもねることなく、一定の距離感を保ったうえで良き友となった(幸いなことに地球人類も、遠い異星で振舞う異邦人の分別を弁えていた)。
他の多くの星系種族が参集した今日の銀河連盟社会では殆ど例がないことだが、地球から別の知的生命体が活動する惑星への集団移住が最も多く行われたのはミャウハ族の母星であるゴルロゴラル星で、そこでは地球人類による初めての訪問から九千年近く経った今も両者が密接に結び付いた独自の文化が築かれている。
犬型獣人種のアーキテクトミュータントの歴史は、このミャウハ族との出会いなくしては語ることができない。
それ以前より、自らの身体に犬猫のような体毛を生やす好事家もいないではなかったが、それらはあくまで一世代限りのもの。特殊メイクや整形手術と大差がなかった。
だが、ミャウハ族という実例を知り、彼らとの仲を深め、遂には混血を始める段階にまで至ると、子や孫が金色の体毛を生やして生まれてくることへの忌避感も薄くなる。それが最初の下地となった。
地球人類と銀河連盟社会は、何世代も密接に交流することで一般的な社会常識というものが変容していく様を目の当たりにしたのだ。
そして、ミャウハが地球人類に与えた影響のうち、もう一つ忘れてならないのが欠乏感である。
〈大会合時代〉も後期を過ぎた頃、既に二百を超える異星系種族と出会ってはいても、未だ犬に似た容姿の種族は見付かっていなかった。
何故ネコはいてイヌはいないのか。
新たな知的生命体発見の報が届く度、地球人類内のある種の層は焦燥を募らせる。
いないのならば作ればよい。愛好家たちがその結論に至るまでにさほど時間は掛からなかった。
遺伝子操作技術はエルフ種やヴァンパイア種のデザインで十分に培われていたわけだし、技術的制約もなければ、倫理面での縛りも昔ほどではない。あるのは満たされぬ渇望と、ネコ派への言い知れぬ嫉妬心であった。
以上のように、獣人種と言えば押しなべて、所謂〈天然モノ〉のミャウハ族との対立軸で語られるものであるが、ここでは最後に、専門家の間でも論の分かれる彼らの血統についての見方を一つ書き添えておこう。
全アーキテクトミュータント人口の1%にも満たないとは言え、原生地球人からかけ離れた風貌の獣人種が一般社会に広く認知されるまでその数を増やした原動力についての見立てである。
第一世代の彼らはすでに、本物の犬(無論地球産のだ)との自然交雑が可能であった。
そのことは十分な証拠のある紛れもない事実であるが、それが元々獣人種をデザインするために参照した犬の遺伝子と近似であったため、偶然に獲得された特質であったのか、それとも始めからそういう意図をもって設計されたものなのかは明らかとされていない。
当然そのことは大きな論争を巻き起こしたのだが(何しろ当時の銀河連盟内で最も熱く議論されていたのが、異種族間の交雑を可能にするための遺伝子操作の是非であった)、その問題が孕む政治性ゆえに膨大な改竄や捏造を生み、真偽を特定する機会は永久に失われてしまった。
作為の有無はさて置き、第一世代と、その子や孫世代が繁殖に極めて旺盛で、多産であったことはもう一つの確かな事実である。




