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◆2-20:イザベル 展望ダイナー(6)

「いいから。早く続きやろーぜ、ドッドフ」

「そうなのである。タウネルとしては、まだ勝負は始まったばかりだと主張する」


 ケネスとドッドフを中心として再び盛り上がる人だかり。その様子を少し離れた場所で見つめているのはイザベルとアキラの二人だ。

 幼い子供のように獣人種の毛の中に頭から突っ込み無防備にするケネスの姿を眺める。イザベルは余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》のしたり顔で、アキラの方はぐぬぬといううめき声が聞こえてきそうな苦い表情であった。


「あれがベルゲンを襲った敵の工作員に見える?」

「……演技だ。あれも。ああやって俺たちを油断させようと──」


「私たちみたいな子供相手に油断もなにもないでしょ」


 アキラの苦し紛れの反論は、イザベルに返す刀でぶった斬られる。


「それに、あんな子供が工作員なんて、〈見えざる者〉って人材不足なの? それ、どこ情報?」

「う、うるさいな。あいつが見た目どおりの子供かどうかは分からないぞ? ああいう体格の種族なのかも」


「ピグムス族みたいに? それは……なくはないかもだけど……」


 惑星生まれの原生種族なら十分あり得る話だったが、探査船団に招かれる段階で普通は遺伝子操作され、体格は銀連標準規格に合わせて均されるものだ。だが、招かれたわけではなく、無理矢理乗り込んで来たのだとしたら……?

 的確な反論を探そうとする少しの間イザベルは押し黙る。


「イザベルはあいつが暴走したムンドー相手に戦ってるとこ見てないだろ? そういう訓練を受けたみたいに凄く手慣れて見えた。なあ、あいつが着てた黒いスーツ。どこにやったかほんとに聞いてないか? あんな殺傷能力のあるヤバイスーツ、探査船団が素通しするとは思えないんだ。それに〈宇宙クラゲ〉の中でも──」


「あっ、そうよ。そうじゃない。あんな危険を侵してまでミリィを救い出してくれたのよ? ムンドーのときも助けられたんでしょ? 敵の工作員がそんなことする?」

「あん? ミリィ?」


 イザベルが自分の失言に気付き、思わずアッと呟いて口に手を当てる。

 だが、アキラからの追撃が来る前に、二人に向けて声が掛かった。少し離れた大きめのソファーの裏側からだ。


「ちょっとお二人さん。それどころじゃないんじゃない? 医務室に運ぶから手伝ってよ。私だけじゃ無理ぃ」


 セスが持ち上げて運ぼうとしているのは、かつてムンドーであった肉塊だった。身体とは呼び難い成れ果ての肉塊。

 かろうじて目鼻口と頭の形状は原形を留めているが、それ以外の腕や脚などはぐずぐずに溶けて大きな丸い塊と化している。


「どう考えてもこれただ事じゃないでしょ? 私、ネムリ探して呼んでくるよ」


 深刻そうにするセスに比べ、二人の反応はいま一つ鈍い。


「ネムリは勘弁してやれよ。さっきすれ違ったけど凄い眠そうだったぞ」

「ネムリが眠そうなのはいつものことでしょ?」

「まあ、そうね。ネムリというか、ネムリの端末のライブラリは貸してもらえるとありがたいわね」


 消極的ながらイザベルが同意すると、セスは急いでそこから駆けだそうとした。


「いや、大丈夫だよ。おい、セス。待てって。たぶん大丈夫だ。ムンドー自身がこうなるって予想はしてたから」

「どういうこと?」


「昨日空腹で暴走したって話は聞いただろ? マダグ族は身体中のエネルギーが少なくなると休眠状態になることがあるらしい」

「え、それ、もっと早く言いなさいよ。もう。使えないわねー」


 イザベルが勢い込んでしゃがみ、ムンドーの肉塊に顏を近付ける。

 セスはその場で立ち止まったまま、イザベルがそうする様子を眺めながらアキラに質問を投げ掛ける。


「どうしたら元に戻るの? 放っておいて大丈夫? 死んじゃったりしない?」

「そもそも死なないためのモードらしいからな。つっても、探査船団の中で栄養が欠乏することなんてほぼないし、マダグ族古来の生態が今の自分にも残ってるかどうかも分からないみたいなことは言ってた」

「なんか、それ聞いたら余計に心配になったわ」


 観察したところで自分では分からないと見切りを付けたのか、イザベルがうんしょと立ち上がり振り返った。


「超レアケースってことよね?」

「ああ、ただ……、もしそうなったら救助が来るまでそのまま寝かせといてくれって頼まれたんだ」


「どうして?」

「どうしてって……、自分が寝てればその分、食料の節約になるからだろ?」


 アキラが、本当に分からないのかと心底不思議そうな顔で答える。

 それを聞きセスがハッと息を飲む。ムンドーの寝顔を見下ろす彼女の眉根はハの字に曲がり、草色の唇はしなびたように色を失い、きつく結ばれていた。


「やっぱり、ネムリを探しましょうか」


 イザベルの提案に、今度はアキラも素直に頷いた。


「そうだな。俺もちょっとマダグ族の生態について確認したいことがある。確保した食い物がまだ残ってる今なら試せそうなアイデアがあるんだ」


 アキラに釣られて二人もダイナーの一角にできた人だかりを振り返る。


 実は食料の残りが乏しいことも。船団との連絡が取れていないことも。それどころか、救難信号すら発信できずにいることも。ここにいるほとんどの者がまだ何も知らずにいることである。

 これから先のことを想像すると、食事が貧相であることや、どうにかシャワーを浴びられないのか、といった文句を言われることくらいは可愛いものだった。


 これだけの人数であれば誰かが不審に思い、イザベルたちを問い詰めだしてもおかしくはないのに。遭難から丸一日過ぎてもこんな和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気のままでいられることは幸い。ある意味で()()とすら言えた。

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