◆2-11:イザベル 通用路
「いいから早く脱ぎなさい」
暴走したムンドーたちの騒ぎから離れた一角では、イザベルがピンク色の気密服を着込んだドッドフを怒鳴りつけていた。
ドッドフがうな垂れながら下腹部のボタンを押し込むとロックが外れ、接合部に空気が吸い込まれる音でそれを報せる。
ジッパーの隙間からのろのろと這い出るようにして手足を抜くドッドフ。
待ちきれないイザベルは気密服を足の方から背負うようにして持ち上げて分捕った。
中を覗いてイザベルが顔を顰める。
「うわー、やっぱり。毛だらけじゃない。これじゃあ台無しよ」
普段の彼女にはない深刻な怒気を含んだ嘆きを聞いて、ドッドフが申し訳なさそうに眉根を下げる。
「ごめんね。着ちゃった方が運び易いと思ったんだ」
振り返ってドッドフに向き直ったイザベルの表情も悲痛なものへと変わっていた。自分の苦情が不当なものであると気が付いたのだ。
イザベルがミリィの気密服を持ち出したのは、彼女の追跡者から足が付きそうな証拠品を隠すため。それが表向きの理由だったが、もう一つには、のちにあのミリィが着用していた気密服という触れ込みでオークションに出せば相当な値が付くのではないかという個人的な皮算用も含まれていた。
そんな不純な動機でいたいけな獣人種の少年を糾弾するのはよくない。決してそれは正しい行いではないぞとイザベルは我が身を省みる。
「ごめん。私こそ。何も言ってなかったもんね。それに、よく考えてみたら中が多少汚れてたってどうでもいいことだったわ」
持っていた気密服をゴロンと転がし、イザベルはドッドフの頭を軽く抱いて撫でた。
それから腕をドッドフの背中へと回し、わしゃわしゃと揉むように空気を入れてやる。そうすることで、少し湿り気を帯びてくたっとしていた毛並みが元気を取り戻し、いつものぬいぐるみのようなドッドフの姿を形作る。
「本当?」
「本当。男子たちに悪戯されないようにするには、隠すんじゃなくて捨てちゃえばいいって気付いたから」
「捨てちゃうの? これ」
「うん。そうする。さっき途中でシュレッダールーム見つけたから。そこにぶち込んじゃうわ」
「本当に僕のせいじゃない?」
「違うから。気にしないで。皆のところに戻りなさい。もう喧嘩は終わってたみたいだから」
ふかふかの背中を押してドッドフを追いやりながら、これは甘やかし過ぎだなと反省する。
日頃から早く大人になりたいと願っているイザベルであったが、今のやりとりは段階を一つ二つ飛び越えて母親のようだ。素敵な異性とのドラマチックな恋愛もまだだというのに。




