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◆2-4:ケネス ショッピングモール

 一方その頃ケネスは、彼を取り巻く少女たちからその身を隠そうと四苦八苦しているところだった。

 覚えたての言葉で、少し一人になりたい、休みたいと訴えてみるのだが、それを聞いても彼女たちはキャーキャーと騒ぐばかり。分かった、任せてと言われ、ようやく話が通じたと思っても、マッサージチェアらしきものに無理矢理身体を押し込められたり、リゾート地らしきどこかの惑星を紹介するホロを見せられたりと的外れの反応で返される。

 ケネスは、もしかすると自分が彼らの言語を理解できているというのは不遜な思い上がりだったのかもしれないと思い始めていた。

 彼女らとの言語によるコミュニケーションは一旦諦め、強引に離れようとしたが、彼女らはなお集団でケネスの後ろを追ってくるので、最終的には男性用のトイレに逃げ込む羽目になった。さしもの彼女たちも、それで自分たちのデリカシーのなさに気付いたのか、気まずそうな雰囲気を漂わせながら退散していった。


 トイレの個室で彼女たちの遠ざかる足音を聞きつつ、ケネスはようやく人心地つく。

 それを見計らったようなタイミングで手首に振動があった。

 それが緊急の報せであることが分かるように、チリチリと痺れるような電気刺激も加えられている。首の後ろに下げていたヘッドギアを被り直し、スーツの気密性と遮音性を回復させて繋ぐと、すぐにヴェエッチャの怒鳴り声が大音量で鳴り響いた。


『一体何してた今まで! もう限界だ。俺たちは飛ぶ。悪いが置いてくぞ』


 切迫した声がケネスを現実へと引き戻す。ここに置き去りにされるということは、この艦と共に宇宙の塵と化すことを意味していた。


「待て。デバイスはどうする?」

『見つけたのか?』


「……いや、まだだ」

『オイオイオイオイオイ。話になんねーよ』

『兄貴ぃ。もう──だ。──ら一瞬だ。──、──俺たち蒸発しちまうよ』


 会話に割り込むコガネイの泣きそうな声がノイズで途切れ途切れになる。


「子供たちだけでもピックアップできないか? どうにかして一か所に集めておくから」

『何言ってんだ。この状況でどうやってそっちに飛び移れって?』


 ケネスの眉がゆがむ。話の流れやニュアンスから想像はできたが、それでも訊ねずにはいられなかった。用心深く、ゆっくり、はっきりとした声で問い返す。


「どういう意味だ?」

『はあっ!? まさか──。──区画だけ分離してんだよ。とっくの──。──じゃねえ。相対速度もズレまくっている。この通信だってもう──』


 残念ながらケネスが抱いた嫌な予感は的中していた。

 ヴェエッチャの怒声の半分はノイズでかき消されているが、どうやら自分のいる区画だけが分離して、ヴェエッチャたちがいる艦の本体とは異なる位相を飛んでいるらしいということは解釈できた。はぐれてしまったのだ。


 〈転送クーポン〉を使って合流するにしても、亜光速で飛ぶ物体に飛び移るには正確で安定した位置予測情報が不可欠だ。今こうして二点間で通信が成立していることからして奇跡と言っていい。

 それに、もし運良く飛び移れたとしても、その一度で〈接触派〉のクーポンを使い切ることになる。正規の〈転送クーポン〉のキャパや予約された座標では子供たちは救えない。


 ヴェエッチャが怒鳴り散らすのも無理はなかった。確かにケネスは悠長に過ぎた。間違っても銀連の異星系人たちの奇妙な容姿に見惚みとれたり、会話にうつつを抜かしている場合ではなかったのだ。


『──最後の命令だ。──を探し続けろ。俺が思うにその──、──バイスの力だ。持ってる奴が──生きたいって──、──あり得ない確率を引き寄せてるんだよ』


 今さら確認するまでもない話だった。ケネスもそのことは当然心得ていた。

 ケネスたちが必死で探してもなお、その位置を特定できないのは、あの赤髪の男の思念がそういった〈場〉を形成しているからではないかと。

 デバイスに組み込まれた〈F3回路〉が、何としても生き残るというあの男の執念を媒介し、あり得ない未来を選び取り続けているというのは、とても()()()()()()因果ナラティブである。


『──このままいくと、──回収されることになるだろう。それまでに持ってる奴を──。──ビーコンを鳴らせ──。場所を──』

『──兄貴! 兄貴もう無理。ホント無理!』


 ブッ──。

 不穏なノイズだけを残し、唐突に交信が途絶える。

 ケネスはしばらくの間、ヘッドギアの中に満ちる静寂に未練たらしく耳を傾けていたが、やがて諦めて再びヘッドギアを取り外す。

 ただ一人取り残されてしまったという冷たい実感が、スーツの首筋から流れ込んでくる気がした。


 元より情報の乏しい敵地に少数で潜入するという不確定要素の多かった任務である。状況によっては自分たちが切り捨てられ、取り残されることもあり得るだろうと考えていた。

 だが実際に起こったそれは、当初覚悟を決めていたような死とは直結しなかった。

 ここにはまだ、彼がやり遂げるべき任務が残されていたのである。

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