◆1-22:ヴェエッチャ 艦通用路
「だぁから、隠してたんじゃねえって。言うまでもねえ常識だからだ。お前が知らねーってこと自体が俺たちには想像の外なんだよ!」
ヴェエッチャが折り畳まれた長い脚を伸ばし、目の前に漂っていた白銀のスーツを蹴り飛ばした。
中身が詰まったその人型の袋は、何度か壁や床にバウンドしつつ通路の先へと遠ざかっていく。
ヘッドギアは鋭利な刃物で正面が削ぎ取られ、中の面相が検められていた。死体は、メランの警備会社の先輩であるミゲルのものであった。
農場で水塊に押し流され、子供たちとはぐれてしまった彼は、大きく迂回してE16区画に戻る道をたどっていた。そこで彼は運悪く、デバイスを奪って逃走したメラン用の包囲網に巻き込まれることになったのである。
おそらく、警報が聞こえなかったか何かで吸気孔の遮蔽が間に合わなかったのだろう。若しくはスーツのどこかに亀裂が生じていたか。生き残るためのツールは揃っていたのに、それを為せなったということは、何らかの不運が働いたのは間違いない。
白目を剥き、苦悶に喘いだ表情のまま硬くなったミゲルの口元では、茶褐色の繊毛だけが不規則に、力なく蠢いていた。口髭に見えていたそれは、一本一本に血肉が通う触手のようなものであったらしい。あるいは意図的に寄生させた生体装身具の類か。はたまた、本来はこの触手の方が本体で、ヒューマノイドのボディの方が外部端末である可能性すらある。
統一銀河連盟に属する探査船団社会とは、それくらいの多様性を内包していてもおかしくない集団であったが、〈見えざる者〉の尖兵たる彼らにとって、そんなことは興味の外にあった。
彼ら二人が特別なのではない。ここに遣わされるような者たちは、元々そんなことには興味を持たないように教育を施されている。任務に対し忠実に、相手を自分たちと同種の存在だと見なさぬよう、彼らの間では異星人の生態や文化については努めて秘匿されていた。
ただし、何事にも例外は存在するものである。
『非戦闘員どころの話じゃない。この先にいるのは子供だ。子供たちだけで救助を待ってるんだ』
ヴェエッチャの交信相手はあの黒スーツの男ケネスだった。
「いでででっ。痛い。痛いって兄貴」
コガネイの手首を握って話すヴェエッチャの手に力が籠もる。メランとの戦闘で故障した自分の端末の代わりに、彼はコガネイの手首に向かって話すしかない状況にあった。
「それがどうした。子供ぐらいいるだろうが。ちょうどいい。周りが子供だけならすぐ見分けられるだろ。この辺で生体反応がある場所は、もうそこぐらいしか残ってねえんだ。駄々こねてねえでキリキリ探せ!」




