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☆銀連TIPS:『彷徨える地球』

宇宙暦258年。天の川銀河太陽系第三惑星地球は、突如、この宇宙から姿を消した。

それ以降、同暦9,219年に至る現在まで、消失の原因特定はおろか、その痕跡さえも何一つ発見されていない。

公式にも非公式にも、それが銀河連盟人が認識する、ただ一つの確かな事実であった。


宇宙開闢(かいびゃく)以来、初めて目撃されたその一大消失マジックは、惑星単体に留まらず、それが属する恒星系までをも丸ごと飲み込み、その外側に位置する他の銀河連盟人たちの目の前で忽然とその存在を消してみせたのだった。

本当にそれが奇術の類だとすれば誠に見事という他ない消えっぷりで、幾らか原始的な名残りはあるものの、現在とほぼ変わらぬ観測技術を獲得していた彼らの科学力をもってしても、その前後に予兆や波紋らしきものを捉えることができなかった。

観測ができなかった。全てが終わったあとで、かつてここに何かがあったはずと指差してみせることを観測と呼ぶことが許されるのであればその限りではないが。


統一銀河連盟を構成する種族の内、最も早くに外宇宙に跳び出していた原生地球人は、その頃すでに母星系の外にまで活動圏を拡げており、所謂いわゆるセカンダリーアースとして知られる植民惑星に軸足を移しつつあった。

結果、彼らは母星を失った漂流種族として多くの異星人の中に取り残されることになったのである。


自分たち以外の知的生命体と初めて出会ってから僅か258年後。当事者である地球人らにとっても、彼らを偉大な先達と仰ぐ他の星系人にとっても、太陽系消失は急転直下の一大事件であった。

当時の混乱や種族的挫折は、後の世界を生きる我々がどれほどの字句や紙面を費やしても形容し尽くせぬものである。


消失の原因については、『銀河連盟外の敵性勢力からの攻撃』、『未知の天文物理災厄』など、様々な議論が交わされたが、当時最先端の科学力を有していた地球文明が見舞われた災厄であるが故に、次第に地球人自身による何らかの超常的実験の暴走である可能性が有力視されるようになっていった。『人工ブラックホールの生成』や『他次元宇宙への滑落』などの説がそれだ。


だが、そうだと果断してもなお、一つの恒星系の質量を飲み込んでおいて、光も電磁重力波も何も観測されていない不条理さが憶測以上の理解を妨げる。

何も分からないが故に、結果として幅を利かせることになったのが、『星系規模の巨大なワームホールジャンプ』という馬鹿げたアイデアだった。


元来、地球人類という種族は、何もないところから想像の枝葉を広げ、独自の内面世界を構築することに秀でた種族だと言えよう。

かつて原始の地表に生きた彼らが〈神〉という使い勝手のよい存在をこしらえたように。種族的自我漸滅の危機に瀕する危急存亡のときにあって、彼らは地球教ともいうべき新たな宗教を発明する。

母なる地球は悠久長大な跳躍を終え(或いはその半ばの、観測されざる状態にあり)、今なおこの広大な宇宙のどこかで、再びの邂逅かいこうを待ち詫びているのだと強弁する異端の学説。それは、残された地球人社会の不安な世情を巻き込んで広がり……、そして巨大な原動力へと変じた。


本当に存在するかどうかも分からない。いや、おそらくはもはや存在しないであろう彼らの故郷、原初地球プライマリーアースを捜索するための探査船団の発足は、そんな時代の熱狂と郷愁を背景に為された一大事業であった。

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