☆銀連TIPS:『ヴォーグ(ミルフィーユ装甲)』
〈ヴォーグ〉は統一銀河連盟のM理論研究局により建造された実験機体である(内部プロモーション用のコンセプトモデルと言ってみてもよいだろう)。
その意義や特異性は機体のコアに内臓されたアンチM力場発生装置にこそあるのだが、ここではまず巨大な質量と、建造コストの大部分を占める外部装甲について紹介しておこう。
宇宙空間を疾駆する機体を設計する場合、デブリの存在を無視することはできない。地球人類がまだ地球の軌道上に留まっていた大昔から、大小、天然人工を問わず、厄介な悩みの種であるが、それが敵味方の残骸が無数に飛び交う宙域での運用が想定される高機動兵器であればなおさらである。
敵からの攻撃を避けたり防いだりすることを考える以前に、まずはそれらの常在ダメージを制御する術なくしては、有事に際し、まともに機能する戦力として期待できないのだった。
あらゆる角度から雨あられと降り注ぐデブリ群への対抗策はいくつかある。
単純に装甲を硬く、厚くすること。全周囲に無数の小型レーザー砲を持ち、自動で焼き払うこと。強力な電磁気を纏い、受け流すことなどだ。
そのうち、〈ヴォーグ〉が選択した手法は〈宇宙クラゲ〉に似た大質量を頼みとする緩衝作用であった。
パッと見には金属のような光沢があって分かりづらいが、〈ヴォーグ〉の白い外装の主原料はセルロース系の有機繊維でできている。
単純な硬度はアルミより多少勝る程度の、非常に心許ない素材であるが、複雑に編まれ、湾曲し、枝分かれした有機繊維はそこに加えられた力をしなやかに受け流し、効率的に消費(エネルギー変換)することで無効化することを旨としていた。
外に弾ききれないデブリを身に受けた場合には、〈ヴォーグ〉の幾重にも重なった装甲がその運動力を減衰させながらそれを複雑な枝の中に絡め取っていく。
白色の有機繊維はリアクティブに自壊を行うことで全体として強靭な構造となるようにデザインされているわけである。
また、〈ヴォーグ〉のミルフィーユ装甲と〈宇宙クラゲ〉の類似点は、巨大な質量を自機の推進の力に変えているという点にも見て取れる。
基幹となる技術は言うまでもなく、自在に質量を生み出すことのできるサブヒッグス粒子である。
ただし、〈宇宙クラゲ〉と違うのは、その質量を内部で循環させず、機体周囲へと投射して使い捨てる点だ。
全長1㎞の大質量を忘れさせるほどの高機動性を誇る反面、エネルギー消費は激しく、ミルフィーユ装甲内部に蓄えたサブヒッグスが尽きると途端に操縦不能に陥ってしまう。
よく言えば潔い割り切りとも言えるが、宇宙スケールでは超々近距離でしか運用が利かない極端な局地仕様や短い航続距離の解消が、当機目下の最重要解決課題である。
悲観するばかりでなく、良い面にも目を向けよう。
〈ヴォーグ〉の有機装甲は、内部に充填されたナノマシンにより、自己再生する機能も有している。周囲に材料となる分子が存在する限りにおいてはだが。
流石にサブヒッグス粒子の自己生成までは対応しておらず、継戦能力を与えるものではないが、修繕の手間が掛からないこの点も金属製の装甲と比較した場合の優位点に挙げられるだろう。
粗削りではあるが、〈ヴォーグ〉の兵器としての性能は従来の統一銀河連盟の艦船とは一線を画す、特殊で野心的な機体であることは間違いない。
ただし、一機の製造コストも他の同クラスの艦載機とは比較にならないほど甚大であり、その問題は実験機として、ごく限られた数の建造を目指すサラウエーダたちM理研の計画が注目される一因ともなった。
要するに、すでに技術はあり、実証や実績作りのための建造は行いたいが予算が付けられない軍事開発部門と、ガワの方は別段何でも構わなかったM理研の利害が一致したのである。




