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◆4-19:コガネイ 偵察挺

 時をほぼ同じくして、コガネイも彼の丸々とした巨体が縮んで見えるほど深々と溜息をついていた。

 目と鼻の先ともいうべき距離まで迫っていた白い鎧武者が方向を転じたのを確認してのことだ。

 苦し紛れの機転で敵を撃退せしめた当人のヴェエッチャは、真剣な表情のまま鎧武者の後ろ姿が映るモニターをじっと観察している。


「まさかびしが効くとはねぇ」


 もともと戦闘用の機体ではないこの小型艇にはろくな兵装がない。

 先ほどの主砲を再び撃つには長い再装填時間が必要だし、出力のほとんどを推進に使っている今はそもそも迎撃手段の選択肢にも入っていなかった。

 ヴェエッチャが後ろにばら撒いたのは、高密度のアステロイド帯を突っ切る場合などに用いる工作用の爆雷である。

 最短距離で直進してくるだけの相手だからこそ進路上に置くだけで当てられたが、普通は意思を持って挑んで来る機動兵器相手に戦果を期待できる代物ではなかった。命中精度の点でも。破壊力の点でも。


「ああ。構わず突っ込んで来られたらヤバかったな」

「それができない理由があったんじゃない?」


「かもなあ。しかし、はっきり分かったこともあるぜ」

「何?」


 応えるかたわら、コガネイは再び忙しなく手を動かし始めていた。

 彼のモニターには現在、彼らの艇を取り囲むようにして近付いて来る銀河連盟のものと思しき艦艇群の動きが映し出されていた。

 リアルタイムの映像ではなく、進路予測も含めた今後数分以内のシミュレーションだ。

 それらの動きは統制こそ取れているものの、如何せんいずれも距離が遠い。

 また、あの白い鎧武者と違って性能の高は知れていた。

 ここまで離れれば、躍起にならずとも振り切るのは容易いだろう。


「ケネスの野郎。あいつ自分じゃもう指揮棒を振るえてねえってことさ」

「……それ、最初から俺が言ってたじゃん。演者には舞台が見えない。教本にも載ってる基本だって」


「ああ。だが、あいつが今も舞台の中央にいることは間違いねえんだ」

「だったらどうする? 俺たちも飛び込んでって一緒に踊ってみる?」


 コガネイが〈F3回路〉のつまみをそっと下げる。

 いまさら紛れはいらない。この艇が実力通りの力を発揮すれば自ずと望む結果が得られるはずである。


「演者の持ってる小道具を奪って取り上げるってんならそうするしかねえが、小道具自身がどうやらそれを望んでねえらしいからなあ」

「〈F3回路〉自体が意思を持ってるって? そんな。ありえないよ」


「そうじゃあねえが。似たようなもんだ。いま語られてる〈物語〉を成り立たせるためには、ケネスか、ケネスの側にいる誰かの手から離れるわけにはいかないんじゃないか? あのデバイスが作り上げた大きな流れが、あのデバイス自身を巻き込んで渦巻いてる。俺にはそう見えるぜ」

「ほんとかなあ? 根拠を言ってみてよ」


「んなつまんねーもん探してる間に考えるべきことがあんだろ」


 コガネイはドリンクホルダーから飲み物を取ってストローに口を付ける。

 目下、最も近い敵艦の脇を抜け包囲網の突破を図る瀬戸際であったが、先ほどの危機を乗り切った今、あれ以上に怖いものなどありはしない。

 コガネイは片手間にコンソールをいじり、自動操縦に任せようとしていた。


 ヴェエッチャはそんな弟分の弛緩しきった表情を振り返り、諦めて勝手に話を続けることにした。


「この〈物語〉の終着点だよ。奴らが何を願ったのか……。きっととんでもねー願いだ。爺様たちのオリジナルですら制御できなくなったとすると、こりゃあ……」


 キュポンと音を立て、コガネイが口からストローを引き抜いた。


「こりゃあ?」


 ヴェエッチャが手をあごに当て、指の腹でひげり跡をさする。


「間違いなく、世界の関節が外れちまうぜ」

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