◆4-14:コガネイ 偵察艇
そんな二人の通信機越しのやり取りをコガネイは呆れ顔で眺めていた。
ヴェエッチャとコガネイが乗り込む小型艇は、標的となるE16区画と、それを救助に現れた真っ赤な船体の姿をはっきりと捉えていた。
彼らのテクノロジーにとってはほとんどゼロ距離と言っても過言でない──僅か数十光秒先の距離である。
ちょうどいい塩梅に煙ったダークマター帯の陰に位置取っているとはいえ、少しでも動きを見せれば、自分たちを囲うように遠巻きに配置された銀河連盟の艦艇に発見されることは疑いようがない(無論、銀連は護衛も付けずにアトラス号一艦でノコノコやって来たわけではないのだ)。
そんな逼迫した状況にありながら、なお生意気な弟分の身を案じてやろうとするヴェエッチャの気が知れなかった。
コガネイにしてみれば、今ここに、敵の只中にいながら、見つかっていないというだけで奇跡のような幸運を拝している気分なのだ。
気を抜くと自分の身体から漏れだしそうになる恐怖と緊張をどうにか押し込めようとするように、ストローを咥え飲料を飲み下す。
その喉がガハと咽る。
「アニキッ!? なんか動きがあるぜ。箱からなんか出て来た!」
コガネイが口から泡を噴きながら宙空で指を弾く。
今までコガネイが自分のモニターで見ていた画像が中央のスクリーンに映し出された。
顔を上げたヴェエッチャの目が胡乱げに細められる。
標的に横付けされたド派手な色形の艇。その艇が牽引する地味で無骨なコンテナの底から、二本の突起が突き出し、そこからなお沈み込むようにして何かが姿を現そうとしていた。
「なんだぁ? 奴らの秘密兵器か?」
「フヒッ、秘密兵器!? あの寸胴が?」
笑い飛ばそうと試みたコガネイの声は完全に裏返っていた。
「銀連の奴ら、なかなか風流が分かるじゃねえか。きょうび人型のロボット兵器なんてな」
二人がそれだけ話す間にも、それはヴェエッチャたちが覗く画角に対し全容を現していた。
収められていたコンテナの半分ほどを占める体積は相当にでかい。全高は軽く1㎞以上に及ぶのではないだろうか。コガネイが寸胴と評したように、横幅もそれに負けず劣らず広かった。
塗装処理を忘れたような真っ白な外装は、それでいて表面に複雑な紋様を刻んでいる。解像度の限界で確実なことは言えないが、どうやらそれは細い糸を織り込むようにして編まれた外装の材質に理由がありそうだ。
その、全体として白い鋼板が、これまた複雑に折り重なって人型の形状を為している。人型の……いや、分かり易く喩えて、和式の鎧武者のような出で立ちである。いくつもの曲面が鱗のように積み重なり、その身を鎧っている。
さらにお誂え向きに、その腰には反りを帯びて伸びた太刀まで佩いているようだ。
これをただの船外作業を行う重機と見るには……、それは、些か厳めし過ぎる風情があった。
「まさかこっちが見つかったってことはないよな?」
コガネイが不安げにヴェエッチャの反応を窺う。
コンテナから真下に降下しながらも、白い鎧武者はくるりと水平に向きを返し、真っ直ぐコガネイたちの方を見たのである。
光学的手法で観測している限り映像には数十秒のタイムラグがある。
今見ているこの映像は過去のもの。
現実にはアレが、すでにこの小型艇に向かって推進を始めている可能性もあった。
「どうするんだヴェエッチャ!? 逃げるか!?」
「馬鹿言え。逃げるにしても一発撃ってからだ。命令に従う限り、その結果に俺たちの責任はねえんだからなあ。撃って、それから……。いやぁ、後のこたぁいいから今すぐブッ放せ!」




