◆1-1:深宇宙探査艦ベルゲン
漆黒の宇宙に漂うそれは水母のようであった。
粘性のある流体の中を掻き分けるように、幾つもの触手を揺らめかせ、身を任せ、意思があるのかないのかも分からぬ有り様でそれは漂い進む。
慎ましやかに発光し、内部が透し見えるその体は、有機的なコロイドの原形質を思わせる。一見して被膜らしき確かなものはなく、ともするとただの色水のように疑われはするものの、しかし、表面張力と自らが生み出す潮汐力により、複雑な形状を為して周囲との境界を作り上げていた。故にそれは海中を泳ぐクラゲのように振舞い続けるのである。
だが、果たしてこれは生物なのだろうか。生物と呼ぶに相応しい大きさなのだろうか。
惹起して、そこに意識を傾けると眩暈を起こしそうになる。
如何せん周囲に広がる無際限の宙が、この異形の尺度を見定めることを阻んでいた。無論、大きさもだが、空間を進む速さについてもそうだ。なにしろここには差し比べるものが何もないのだから。
好奇の僕たる我々の眼は、この神秘の生物の正体を突き止めんと渾身、彼女の体の奥へと迫る。
その薄く青紫がかった半透明の原形質を通り抜け、細胞核とも擬えるべき中心のマトリクスに肉薄すると、見えてきたのは金属の光沢を放つ建造物だ。建造物──それも恐ろしく巨大な──明らかに人の設計によって為されたのだと分かる御業。
嗚呼、偉大なりしかな文明よ。
驚嘆のうちに瞬けば、視界は彼らの営みにスケールする。
艦を構成するモジュールの一つ。それをさらに細かく分けた区画の一つに眼を凝らす。
複雑に入り組んだ通路を通り抜け、天板を透かし視る……と、ようやく見えてきた。この巨大な人工物──宇宙の深淵を亜光速で巡航する宇宙船──その主たる彼ら人型生命体たちの姿が。