プロローグ
22時を過ぎた誰一人いない社内には、僕のタイピングとクリック音が静かに響く。
14階の窓から見える都会のネオンは美しいと思うが、もう見慣れてしまったものだ。
見慣れた、というより見飽きた。の方が正しいのかも知れない。
(…今日で何連勤目だ?)
(15?16?…まあいいや、そんな事。)
(とりあえず、終電までには帰ろう。2日連続で会社の椅子で寝たら身体がもたない。)
広い社内で孤独に仕事をしている僕、『赤城 天』は終わりの見えない業務を何とか終わらせようと必死だった。大学を卒業してから早2年、学生の頃にもっと必死に就活をしておけば良かったと後悔ばかりしている。
とりあえず大学に行き、単位だけ取って後は家に籠ってアニメとゲームを貪る毎日。時折コンビニバイトに行くくらいでこれといった交友関係がある訳でもなく、学生時代からある程度孤独に過ごしていた。
実家から大学まで通っていたため生活に困ることはなかったし、正直言うと実家も多少裕福だったのでバイトに明け暮れる必要もなかった。
ニートになるのは流石に親が許さなかったから仕方なく就活をした。これといった取り柄がなかった僕はとりあえずで営業職に就いたが、今になってはこれが失敗だったと言える。
最初の2か月は大したことなかった。座学やビジネスマナーの研修、部署に配属されてからも先輩のOJT研修がメインだったから覚えることは多くあれど、記憶力に多少の自信はあったから大したことなかった。就職してから今までぬくぬく過ごしてきた僕はここまでは楽勝だった。そう、ここまでは。
地獄を見たのは3ヶ月目からだった。
営業活動で各所を回るが全く成果は上がらず、会社に戻れば毎日お説教を30分は受ける。
仕事が出来ないやつの烙印を半年で押され、そこからは雑務処理を多方面から押し付けれる毎日。
自分の仕事もままならない為、結局深夜まで残業するし帰れないこともしばしば。
残業代もみなし手当のため増えず、ただただAIのように仕事をさせられているような日々。
そんな僕についたあだ名は『赤点くん』。
苗字と名前からもじられ仕事の成果が上がらない事からつけられた蔑称だが言い返すことも出来ず、会社を辞める度胸もなく、ただ搾取される毎日だ。
「…いっそ仕事の概念なんか消えちまえばいい」
誰もいないからこそ出た独り言は、気弱な僕にとって唯一の反抗だった。
ラノベじゃないんだからそんなことある訳ないし、そんな無駄なことを考えるより1分1秒でも早く帰ることを優先しないと。そう思い僕はまた指を動かした。
業務に終わりが見え、ちらと時計に目をやると22時を指す直前だった。
「いつもより少し早く終わるな。今日はラッキーだ。」
そう呟いた直後、僕の携帯に一通のメッセージが届く。
このたった1通のメッセージが、僕の人生を大きく変えることになるとは
この時、まだ僕自身も知らなかった。
これはリアルの世界から始まった、ラノベの物語だ。
春夏冬と申します。
会社員をしている為、不定期投稿になってしまいますが
しっかりと完結まで書ききれたらと思います。
誤字脱字・説明不足、描画不足etc...あるかと思いますが、
生暖かいご声援でもかまいませんので、何卒宜しくお願い致します。