僕は天才ではなく天・才!
僕は勉強が出来る。
学力試験では常にトップである。
「ティエン、ここ分からないのだけれど教えてくれる?」
教室に居れば、この様に周りの生徒からせがまれるのである。
「どこだい?」
僕は人に教えるのも好きだから、頼まれれば断る事は無い。
「えっ、出来た! 凄い分かり易かった。有難う」
理解させられる事が何とも言えない喜びだ。
「けっ、天、才が良い気になりやがって」
当然、やっかみを受ける事もある。だけれど、僕は良い気になっているつもりは無い。僕は決して天才と言われる部類の人間ではないのだ。弛まぬ努力によって勉強が出来るようになっただけで、特別な事は何一つないのである。
「私にも教えてくれるかな」
一人が終わると次の人が声を掛けて来る。仲の良い人、そうでない人、そんな事は些末な事なので次々に教えて行くのだった。
「ティエンって本当に分け隔てが無いよね」
だからか、友達たちからは良くこう言われるのだが、人によって態度を変えれる程に器用な人間ではないだけなのだ。
「ティエン君の魔法操作は緻密で繊細ですね。皆も、彼をお手本にして頑張って下さい」
魔法の授業になれば、その道で割と有名な先生からもべた褒めされる。
「ティエンさん。今日はこの魔物の駆除依頼を受けて貰えないでしょうか。貴方だけが頼りなのです」
剣術もそこそこ出来るので、学生ながらに冒険者ギルドに登録をしている。今やA級の冒険者だ。
これらも努力の結果だった。
勉強も剣も魔法もトップクラスで、お金もかなり持っている。だからという訳ではないが、僕は好きな子に気持ちを伝えようと思ったんだ。
一年生の時から同じクラスで、何かと僕に親切にしてくれるニィアンだ。彼女は愛嬌があって素敵な女性なのである。面倒見も良く、分け隔ての無い性格で同性異性を問わずに好かれている。だからこそ、中途半端な状態では告白など出来なかったのだ。
今こそ満を持して彼女に思いを告げようと思う。
「ツァイ。こんな所に呼び出して、どうしたの」
放課後に体育館裏に来て欲しいと書いた手紙を彼女の机に入れておいた。今日彼女は掃除当番なので、僕は無事に先に着く事が出来て心臓をバクバクさせながら待っていたのだった。
「ニィアン。僕は君の事がす……」
「ごめんなさい。友達としか見れないわ」
どうやら、彼女は告白され慣れていた様だ。3秒で話は終わってしまった。
ここに、僕、ティエン(天)・ツァイ(才)の恋は見事に敗れたのである。